都市越境者 -ブローカーズ-

L番のゲートでまた殺されたらしい。
「あちら側」への逃亡を試みた難民だ。市内の生活は困窮をきわめ、ここに留まれば住人たちは飢えとウイルスの猖獗とによって破滅的な生を余儀なくされ、脱出を試みても、低くない確率で「あちら側」の境界警備隊に死をもたらされる。
我々は、そんな市外での生活を希望する彼らに対し、買収した警備隊員のシフトを参照し、適切な進路を教示するなどして密入国を幇助するブローカーだ。
「あちら側」と我々の住む都市とのあいだには軍事境界線が敷かれ、敷設されたフェンスと警備隊による厳重な哨戒が実施されている。また、隣接する都市はひとつではなく、一部の都市とのあいだにはフェンスだけでなく、砦を思わせる巨大な壁が建造されており、密入国を厳に阻んでいる。
誰が言ったか、我々とその顧客が密入国に利用する「ゲート」は五つあり、なぜかそれらは番号やアルファベットの昇順ではなく、それぞれB、L、A、C、Kと呼称され、ゲートを示す隠語である「黒」として認知されている。なかでもL番のゲートは我々ブローカーの間でも危険度がかなり高く設定されており、亡命先ではそれなりの暮らし--少なくとも市内よりは--を保証されているものの、反面、都市が入国を公に認めているわけではなく、「あちら側」の保守派政治の傀儡である境界警備隊の締め付けは強く、その苛烈な防衛線を潜り抜けても、密入国者殺しを趣味としている民間のハンターが彼らを執拗につけ狙う。境界付近で見つかれば最後、多くは捕縛されることもなく即座に銃殺され、その死体は回収されることもなく打ち捨てられるままとなる。都市機能の崩壊した市内が遺体を処理するはずもなく、荒蕪と化した境界エリアには無数の腐りゆく人間の骸が放置され、地獄さながらの様相を呈している。最近になって流行した疫病は、そうした死体の山から発生したのではと考える「あちら側」の学者もいるそうだが、いまのところ治安維持のための他都市からの出動の事実はなく、都市連盟もここの凄惨な状況を黙認している。当たり前だ。ワクチンを精製したところで変異したウイルスが矢継ぎ早に現れ、一向に事態の収拾がつかないというのに、誰が好き好んでウイルスの発生地点とも目されている都市に自都市の軍隊を派遣するのだ。都市連盟は本都市の招来した事態は本都市自らが解決すべし、というスタンスを依然として採り続けているし、他都市の積極的な介入も都市自らの情報共有もないのでここの壊滅的な惨状を知る由もない。いや、知ろうとしないのだ。

L番ゲートでの死者にブローカーは含まれていたか、と訊ねる私に、いいや、とこちらを一顧だにせず首を横に振ってみせる同僚。その顔にはいっさいの憐憫が窺えない。こんなことは日常茶飯事だ、とばかりに紙巻きのマリファナをふかしながらカードゲームで次に切る手札を思案している。それも当然だ。ブローカーの総数こそ少ないが、顧客一人ひとりの生死を気にしていては商売にならない。我々の仕事は金を頂戴して顧客に境界を越えさせることだが、ブローカーさえ命を落としかねない最も危険なエリアは彼ら自身で突破するしかない。AやCといった比較的越境が容易なゲートであれば、多少危険なルートもあるが買収した警備隊員の検問をパスすればいいだけなので、我々も同行して「向こう側」観光なんかをしたりもするが、顧客のたっての希望でLやKをご所望となれば話は別だ。そのたぐいの越境は「そういうもの」だとブローカーとしては諦めるしかない。これ以上危険度を下げる手立てはないし、ハンターどもは賄賂を渡したところで密入国者殺しをやめるような連中ではない。
同僚は長考しており、なかなか次の一手を打たない。そうこうしているうちに私のスマホが鳴動する。仕事だ。越境の依頼が入ってきたのだ。
「お前のターンだ」
同僚が私に番を返す。

という夢を見た。ひさしぶりの夢日記だ。起きてから数刻はどちらが現実なのかわからないくらい、リアリティのある夢だった。それもそのはず、いくつかの要素は現実に立脚するものだし、壁の建設、都市の独立、密入国などはふだん僕が親しんでいるフィクション・ノンフィクション問わず様々な映画やゲーム、小説やマンガ作品などで頻繁に触れるものでもあるからだ。まだまだ続きがあるのだが書ききれなかった……というか編集作業をしないとなのでこんなことをしている暇はない。続きは暇になったら書こうと思う。まだまだ予想のつかない異常事態が目白押しだ。支離滅裂なのは、夢なのだからご愛敬だ。オイオイ編集もせんとこんな時間までくだらん妄想小説書いてたんか、と思われる向きもあろうが、ちゃんと編集はしました。DbDもしました。しかも妄想小説じゃないです。ホントに夢です。ただまあ、メインの部分はもっとうしろのほうで、ここに書いたのは冒頭も冒頭、話の最初の部分だけです。悪しからず。

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