見出し画像

逗子で本当の自分を見つけられた音楽家、宮田涼介

(※今回のインタビューを動画にまとめています。よろしければ、動画も合わせてご覧ください。)

現在32歳、普段は会社員でときどき音楽家の宮田涼介さん。2017年より大船に居住している。生まれは東京都練馬区、祖父母の家が小田原の山奥にあり、幼少より毎年夏に足を運んでいた影響から、海や山などの自然が大好きな少年だった。
大人になった今も海や森林の雰囲気を好み、将来逗子周辺に家を買って暮らしたいと考えている。
逗子に初めて来たのは大船に移住する前の2014年。シネマアミーゴでライブ演奏を行った時だった。ライブイベントの合間に見に行った、夕暮れ時の逗子海岸が今なお目に焼き付いているという。そして2019年よりZAF(逗子アートフェスティバル)に作品を出展。そもそも、なぜ、宮田涼介さんは音楽家になったのか?その始まりはピアノを習い始めた3歳の頃にまで遡る。

男の子でも女の子でもないと感じた自分がいた

親御さんは音楽に関わっていたわけではなかったが、「楽器の弾ける子になってくれれば」という思いからピアノを習い始めさせたそうだ。
中学では吹奏楽部に所属しトロンボーンを担当、高校からはギターを始め、21歳の頃から作曲活動を始めた。バンド「かろうじて人間」のリードギターとして活動も行っていたが現在は活動休止、ソロで音楽活動に専念している。

そんな宮田さんの子どもの頃は空想事が好きだった。小学校一年の頃、祖父から貰った大学ノートに、頭で考えている事を毎日文章で書き綴っていた。絵を描くのは苦手だったため文字で表しており、頭の中で思い描く風景や街並み、そこで暮らす人々の会話や行動を文章で表していた。小説のようなものを書いた事もあったそうだ。
まさか、この物書きという行為がZAF(逗子アートフェスティバル)の宮田さんの作品へ繋がるとは子どもの頃思ってもいなかっただろう。

さて、小学校の頃の宮田さんは顔が母親似で女の子と間違われる事が多く、宮田さん自身も「女性」ではないと自覚しつつも「男」として扱われることにも抵抗を感じ、周囲の人間がみんな「異性」に見える感覚を抱いていた。
【幼い頃はセーラームーンが好きで、セーラー戦士に変身したいとさえ思っていました。ピアノも、僕自身は好きで弾いていましたが「女の子の習い事」という固定観念が周囲には根付いていたと思います。男の子というとスポーツに打ち込んだり、遊戯王みたいなカードゲームで遊んだり、というイメージが今以上に浸透していた時代でした。でも、周りの男の子が当たり前にやっていた事が自分は何故かはまらなくて、「男らしくしろ」みたいなことを言われるのは凄く苦手でした。子どもの頃、話の合う友達というと女の子の方が多くて、女の子として生きる方が自分に合っているのでは、と思うこともありました。でも体育の授業とかで男女別に分かれるとやっぱり男子のところに居るわけで
、男の子にも女の子にもなり切れない自分が居て、でもそんな自分が嫌いでもなかったりする(笑)。男を捨てて女でもない所でフワフワしている時が一番幸せなんですよね。】
宮田さんは、「音楽」と「男でも女でもない自分」を個性・アイデンティティと認識していたのだ。

作曲を始めたきっかけ・・・

作曲を始めたのは20歳を越えてからで、演奏は好きだけど最初は曲なんて自分には作れないと思っていた。
【学生時代にオタクカルチャーに浸っていた時があって、コミックマーケットなどに行ったりTwitterで絵師さん達と繋がったりもして、自分より年下の人たちが自己表現として様々な作品を作り、披露しているのを間近で見ました。その時焦りを感じたんです。自己表現しなくちゃという義務感さえ感じて、自分に何が出来るかなと思い始めたのがきっかけでした。自分には空想を文章の形でアウトプットしていた少年時代が確かにあって、今度はそれを音楽でやってみたらどうかな、と。海を見たり森の中にいると、言葉に出来ない詩的な感情が沸々湧いてきて、それを音にしてみようと思いました。】
その後CD作品を複数出しておりライブ活動も都内を中心に、時折地方へも遠征していた。さらには大手音楽ショップ、タワーレコードにも置かせてもらい音楽人生を充実させた。

なぜ会社員ときどき音楽家?

画像1

ではなぜ音楽家一本にしていないのか?
【そもそも、その発想が無かった(笑)。音楽家だけで食べていくというよりは、もっと根本的に、目の前にある日々の生活を充実させたい、「なりたい自分」になりたいという願望が強くて、創作表現はその要素の一つ、という感じなんですね。でも、逗子で家を買いたいし、鎌倉のカフェやレストランで美味しいものも食べたいし、なるべくオーガニクなものを使って自炊したいし。あと、僕ももう30代ですが「中性的」であるためにはコストもある程度はかかると思っているんですね。これらを踏まえると、多少なりとも経済的な豊かさは担保されていないといけない(笑)。欲が深いんでしょうね。作品作りさえ出来れば他は何も要らない、という人を見ると心打たれてしまうんですよね。】

宮田さんの普段の仕事は音楽と無関係だが、仕事がストレスにならないのか聞いてみた。

【基本的にストレスの伴わない仕事は無いと思っているんですが、現代社会で少し揉まれている方が自己表現したい欲求が強まって創作に身が入ります。】

公私ともにもっと自分出していかなきゃ!と思っている宮田さん。

【毎日ストレスフリーな状態だと、それに甘んじて当たり障りのないところに収まってしまう。本当の自分を剥き出しにする気力を保つには程よい緊張感が必要。】

逗子アートフェスティバルとの出会い

画像2

大船に引っ越してきて数か月、2018年にZAF(逗子アートフェスティバル)をFacebookで知った。
当時、アートにアンテナを張っていたので、近所で街をあげて芸術祭をやっている所に興味を持ったのだ。
この頃宮田さんは、今までの音楽活動のやり方に少々飽き始めており、小さい頃小田原で自然と触れ合った経験などから、自然豊かな環境で地域に貢献する活動を望んでいた。自分の音楽活動、ひいては人生に新しい空気を入れたいと感じていたのだ。

とりあえずどんなものか想像がつかなかったが行ってみた。2018年には松澤さんの作品と、自由企画をいくつか見て回った。

そして2019年からアーティストとして参加。逗子アートフェスティバルを委託運営している、ZAN(逗子アートネットワーク)に人から教えてもらったわけではなく、以前からアンテナを張っていたFacebookに「誰でも参加OK!キックオフミーティング」を見つけて参加した。【クリエイターさんが集まっている街が近くにあるんだ!しかも街ぐるみでやっている!】と宮田さんは驚いた。
この驚きと、新たな音楽活動をしたいと思った時期が重なり、ZAFへ参加するようになった。

逗子アートフェスティバルでの作品

画像3

2019年、最初は逗子の地域課題を作品に入れたくて、地域活動に絡めた作品を制作した。逗子駅前スズキヤ2階の当時パチンコ屋さんの跡地の会場で、写真家・竹本英樹さんとのコラボレーション作品を出展。

2020年も竹本さんと行う予定で進めていたが、タイミングが合わず頓挫し、作品をどうしようか悩んでいた所、同じZAN(逗子アートネットワーク)メンバー・仲本拡史さんに写真家の本藤太郎さんを紹介され、一緒に作品を制作する事になった。

視聴覚派_前回ビジュアル

【本藤太郎さんと出会って、地域課題というよりも自分のことを表現しても良いのでは、と感じました。必ずしも地域の事を取り入れなくとも、自分の表現したい事を素直にやってみて、結果的に地域振興に繋がればそれでも良いのでは、と。】


本藤さんとの作品制作は往復書簡(noteを活用した公開書簡。詳細はこちら)から始まった。ではそのきっかけはというと?
【当初はどういう風にやっていけば良いかわからない状況でして。話し合いでも良かったのですが、本藤さんは作品づくりのための「素材」や「材料」を欲していた。そこで、文章を綴って「記録」を残すという意味で往復書簡を書いて、そこから本藤さんが表現の素材を拾い上げて作品に繋げる形にしようと決めました。
本藤さんと往復書簡でやりとりしていく中で、バックグラウンド(経験、考え方など)の違いを感じた。でも、根本の所では何かしらリンクしている気がして、うまく共鳴した。それは本藤さんも同じ感覚だと思います】
宮田さんは逗子で新しい自分、いや、本来の自分の姿を見つけたのだ。
【往復書簡を通して、本当の自分自身を再確認できた気がしました。今年は、作品公開に向けて久しぶりに文章のようなものを書いたりもしています。ZAN(逗子アートネットワーク)のメンバーの作品や人との繋がりで以前から興味のあったインスタレーションや映像系にも少しずつ着手していけるようになった。学校で芸術をしっかり学んだことがないので、そういった方々から知識を吸収したり、刺激を受けたり力を借りたり、でも学んでいないなりに模索しながら自分の表現をしていきたいと思っています。】

2021年は自分のやりたい事を表現

視聴覚派_ビジュアル

2021年、宮田さんと本藤さんのユニットは正式にユニット名「視聴覚派」と命名し、活動開始した。
【2021年のZAFでは「日々を生きる中で忘れ去られているもの、または見て見ぬふりをしている事象」を表現してみたい。このテーマを自分ごとに落とし込むとしたら、例えばLGBTQという、「自分の周囲には居ない」と思われがちな、しかし意外に身近なところに確実に存在している人々。こういった事象をパフォーマンスで出してみたいです。視聴覚派という名前が付いたので不定期だが今後どこかで作品出していくかもしれない。写真家本藤さんと出会って、ライブとは違った新たな学びもあった。もっと、とがった作品でもいいかなと思わせてくれました。今後さらに自己主張だしていきたいです。伝えたいのは、詳しくは往復書簡にあるが、ノスタルジックな感じを味わって欲しいと思っています。】

宮田さんが思う逗子アートフェスティバルの未来

画像6

【思い描く未来は無いというか・・・(笑)。あまり壮大な目標は立てず、自然体で表現を続けて、自分でも逗子アートフェスティバルの将来を楽しみにしています。ZAF以外も個人で制作活動もしていますが、日々の中で出来る事を積み重ねていきたいタイプですね。逗子は面白い人活動をしている人たちが吸い寄せられるように年々集まっているので、今後もZAFに様々なアーティストが集まって、逗子がアートの街として認知されたらいいな。】

豊かな自然と規模感もちょうどいい。都会過ぎず田舎過ぎず、作家さんが多い。市外の目線だからこそ興味深い。
住んでいないけどZAFでアーティストがいる、知っていてモノづくりをするのに居心地がいい。逗子に立ち寄って有名になり、別の場所へ広めていく。それが逗子アートフェスティバルの将来なのかもしれない。

ghost note

開催 :2021年12月4日(土)
​時間:17:30 - 18:00
開催地:逗子文化プラザホール さざなみホール
料金:無料
予約:https://sff2021.peatix.com/ (パフォーマンス①)
​住所:神奈川県逗子市逗子4丁目2−10
アクセス:京浜急行「逗子・葉山」駅より徒歩2分/ JR 「逗子」駅より徒歩5分

インタビュアー/ライティング:たかけろ
撮影:嶺隼樹


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?