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かつぶし長者

お味噌汁には”だしの素”、で30余年やってきた。
私だけではない。母も祖母も一族郎党、お味噌汁にはだしの素である。味の素社に足を向けて寝られない。

もちろんお味噌汁だけではない。煮物にもおひたしにもゴーヤーチャンプルーだって、和風だしの風味がほしいときはいつだってだしの素。あ、おでんを作るときは白だしです。味の決まり方が違うんだ。

そんなわけで、かつお節で出汁を引く経験というものがとんとない。だって出汁を取ったあとのかつお節をどうすればよいかわからないし、そもそも濾したりするんでしょう? 濾し器なんて我が家にはございませんわよ。
だしの素や白だし以外での「出汁」との付き合いは、せいぜい湯豆腐や水炊きを作るとき、鍋に昆布を放り込むくらい。あれは楽でよいですね。

こういう出汁との距離感だから、我が家のかつお節の消費量は微々たるものだった。一応買いはする。トッピング用として売られている、3グラムくらいの小分けパックになっているアレを。

アレ

これをほうれん草のおひたしにまぶしたり、お好み焼きに乗っけたり、その程度である。それも一度に使いきれなくて、一旦開けた小袋を輪ゴムで留め、何回かに分けて使うことが多い。

そんなかつお節との距離感に転機が訪れたのが、去るこの冬である。

冬の頼もしい野菜源、鍋料理。我が家では毎年何かしらの鍋ブームが巻き起こるのだけれど(一昨年はミツカンのごま豆乳鍋だった)、この冬のブームは長谷川あかりさんの「ネギおかか豚しゃぶ鍋」だった。

すがすがしく香り高い鰹の風味をまとった葱と豚を、香味野菜がたっぷり入ったタレで食べるのがおいしくてうれしくて、葱と豚が安いタイミング毎に作っていた。

丸々太った真冬の白ねぎと甘い豚の脂の組み合わせもさることながら、決め手はやはりたっぷり入る削り節。一度出来心で、削り節を使わずだしの素で作ってみたら、おいしいはおいしいけれどだいぶ別物だった。
鍋に入れた削り節はそのまま具材として食べるので、「濾し器ない問題」「出汁を取った後の削り節の行方問題」も一挙に解決するのが、私でも作れるポイントである。

これを作るときは、例の小分けパックを3袋ほど消費する。これまで一度買ったら3カ月ほどもっていたのに、1カ月足らずでなくなってしまった。

そうして、つい手に取ったのがコレである。

コレ

今まで到底使い切れないと思っていた、花かつおの通常パック。しかし例の鍋で考えるとこれで5回分! いけるいける!!

で、もちろん例のお鍋もそりゃあおいしくいただいたのだけれど、それを差し引いてもこの大きさのパック、よかった。次も買おうと思ったし、一人暮らしの家でも迷わず小分けではなくてこちらのパックを手に取った。

今まで知らなかったのだけれど、通常パックに入っている花かつおって、内容量が多いだけでなく削り節の一片一片が大きい!
温かいものに乗せるとふわっと蒸気をはらんで、まさに「踊って」くれる。
それだけでお好み焼きを食べるときのテンションの上がり具合がちがう。大きさのせいか味もしっかり感じられる気がする(これは流石にプラシーボか?)。

そして、味以外にも予想外に良かったことがあって。
それが「使い勝手」だった。

今まで使っていた小分けパックは、ぴりぴり……と封を開け、狭い口からパラパラ……と料理へふりかけ、余ったら輪ゴムを掛けて(しかも袋が小さいので何重にも巻かないと留まらない)、次に使うときはそのぐるぐる掛かった輪ゴムを外し……こう書きだしてみると、なかなかめんどくさい。今までがそれが当たり前の「削り節を料理に使うときのコスト」だと思っていたのだけれど。

通常パックは袋にジップがついていて、封を開けた後もそれで密閉できる仕様。使いたいときにぱっと開けてがさっと掴み取ってちゃっと閉める、という一連の流れがなんだかとてもストレスフリーなのだ。

たっぷりあって、簡単にアクセスできて、後片付けもかんたん。

こうなると、いろんなものにかつお節を、それはもうたっぷり使いたくなってくる。
冷やっこ。キャベツ炒め。ピーマンのまるごと焼き。パプリカのきんぴら。にんじんしりしり。それらに削り節を惜しみなく振りかけるたび、おいしくて健康に良いものをいつでも好きなだけ使える、ということの贅沢さにうっとりする。気分はかつぶし長者だ。

調子に乗って、自分の中で同じような位置づけの食材である「塩昆布」も大容量パックを買ってみたら、これがまたよい。いつでも大好物の「キャベツの塩昆布和え」を食べられる。キャベツのほかにも、細切りにしたピーマンとか、角切りのトマトとか、青梗菜とか。生野菜と塩昆布と少しのごま油で、野菜をもりもり食べる幸せを知った。

お味噌汁にはだしの素、でやらせてもらっている我が家には、どちらも別にないならないで暮らせるものではある。それらをあえて潤沢に持つ、という行いは、なるほど富豪のそれなのだ。
300円足らずで長者気分になれる花かつお、優秀な食材である。



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