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カレー無理な親父の子供である僕はカレー嫌いじゃなくカレー苦手

僕はカレーが苦手だ。
この事実が露呈された時、周りの人からは「カレー嫌いなんや!」と言われるのだがそうでは無い。
カレーが"苦手"なのであって"嫌い"ではないのである。
平たく言えば好きやけど"苦手"で、食べるスピードなりで周りに迷惑をかけるから食べない感じだ。
その原因は親父がカレーが"無理"だからなのである。
親父が"無理"なせいで"嫌い"では無いのに"苦手"。
この感じ、伝えたいけどその説明も面倒くさくて端折ってしまう。
せっかくなのでここで改めて書いてみよう。

この話を1からするとなると時は約50年前、僕が産まれる前に遡る。
これはおばあちゃんから伝え聞いた話。
親父のお父さん、つまり僕のおじいちゃんはかなりの昭和気質で寡黙な上にスパルタ。
姉2人の末っ子男子だった親父は姉2人よりもかなり厳しめに育てられたようだった。
親父が幼稚園〜小学校低学年くらいだった頃の話。
外食でカレーが出てきた際、思ったより本格派で歳の離れた姉2人でも食べるのがやっとという辛さのものが出てきた事があったそうだ。
当然幼少期の親父はとてもじゃないが食べることが出来ず、残そうとしたのだがおじいちゃんはそれを許さなかった。
泣きながら拒否する親父に「男ならこれぐらい我慢できなあかん」と激辛カレーを流し込み、ヒィヒィ言いながら食べきったそうだ。
その日から親父はカレーがトラウマとなった。
子供の頃はちょっと嫌な思い出が蘇ってしまって拒否するだけで、トラウマなんてオーバーなものでは無い、大人になったら治るだろうと思われていた症状は大きくなるにつれてますます悪化。
最初は 食べようとしただけで冷や汗が出る みたいな状態だったらしいが、僕が産まれ父親になった頃にはテレビで辛い料理が流れる度に汗が止まらなくなり、一度シャワーを浴びないと止める事が出来ない所までいってしまった。
1度おばあちゃんが病院にも連れて行ったらしいが「心因性のものなのでなんとも…」と言われたらしい(親父が子供の頃の話?なので今は何かとやり方があるのかもしれないが…)。

そんな親父は当然、隣の人間がカレーを食べることすら厳しいので我が家ではカレーや麻婆豆腐が出ることは無かった。
1度だけオカンが親父の出張中にカレーを作ってくれた事があった。
僕は人生初めての家のカレーに心が躍ったものだったが出張から帰った親父は何かしらの気配で気づいたのか「もしかして…カレー食べた?」
と質問。
認め次第、汗が吹き出しそのままお風呂に入っていった。
これだけなら良かったがもうそれ以降カレーを出していないにも関わらず、出張から帰る度に
「こいつら隠してるだけで今回もカレーを食べたのでは?」
「出張=カレー。出張嫌や。」
となり、出張から帰ってきただけで汗が止まらなくなっしまった。
トラウママジカルバナナである。

そんな家庭で育った僕や妹が知ってるカレーは小学校のカレーのみ。
そのまま僕は高校生になってしまい、生まれて初めてのCoCo壱を友達と経験することになる。
もちろん辛い物が家で出ない分得意ではない自覚はあった。
よって注文は当然1辛…言うても世間が最低ランクに位置づけているカレーだ。しれてるだろ。

……驚愕した。1辛が全然無理だった。

汗がとめどなく流れ、経緯を知っていた友達は手を叩いて大笑いした。
ちゃんと残した。
慌てて帰宅した僕は妹に言った。


「おい!俺ら思ったよりやばいぞ!!!」



しかし不思議なもので、いや知らない味だったからこそ必然なのか、苦手な辛さの中にたしかに他では感じ得なかった旨みも感じた。
つまり"苦手"なだけで"嫌い"では無い。

ここから僕は世間に少しでも馴染もうとカレーや麻婆豆腐に挑戦したりした。
しかし味覚が成長するのは子供までなのであろうか、未だにあの頃から少し毛が生えた程度の耐性である。
いまだに出先でカレーはほとんど食べた事がない。
見知らぬカレー屋さんでも食べられるレベルかもしれないが万が一辛めだった場合、横にラッシー8杯つける派目になる。破産する。
しかし味の知ったるCoCo壱の持ち帰りは時々している。
それでもルーを半分使ってご飯盛り盛り食べ、残り半分は冷凍して後日ご飯と盛り盛りと食べる。そしたらギリいけるという範囲だ。
もう辛い物が"得意"かつ"好き"になることはないだろう。

そして今や僕も一児の父だ。
数年もしたら娘も外食で辛い物も食べたりしだすだろう。
僕が苦手だなんだと食べないでいると娘も耐性なく育ってしまうかもしれない。絶対に良くない。

親父。この不幸の連鎖、俺の代で止めるよ。

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