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なぜ、未亡人は美しく見えるのか? Chapter 4 街の中で見かける「色」の秘密を解明する(3)

事故の起こりやすい車?

事故の起きやすい車が存在する

せっかくですので、車の色に関するお話をもう一つ。
こちらに向かってくる車が2台あるとします。実際はどちらも同じ距離ですが、一方は、「もうこんなに近くまで来ている!」と感じます。もう一方は、「まだまだ、あんなに遠くか」と感じます。
さて、どちらが事故に遭遇しやすい車でしょうか。
当然のことですが、より余裕がある(実際には近づいているのにそう感じない)と感じる方、つまり「まだまだ遠く」と感じられる方が事故に繋がりやすくなります。
逆に、実際より近くまで迫って見える色は緊張が高まり、しかも事故にならないようにする対処行動をとる余裕もあり、事故が起きにくい傾向があります。これは人間のごく自然な認識や感情に照らし合わせても、いたってシンプルな原因と結果のようです。
しかし、同じ距離にある車が、遠く見えたり近く見えたりなんてことがあるのでしょうか。
これが、色の世界で考えると起こり得るのです。車の色の違いによって、同じ距離にあるにもかかわらず、見る人は「遠くにある」「近くにある」という誤った認識をしてしまいます。
色には、さまざまな分類の方法がありますが、その中の一つに「進出色」と「後退色」で分類する方法と、「膨張色」と「収縮色」で分類する方法があります。
簡単にいうと、「進出色」は「こちらに向かって来るように感じられる色」、「後退色」とは「後ろに下がっているように感じられる色」のことです。
「進出色」の代表的例は赤、橙色など。明るい鮮やかな色や暖かさを感じる色。「後退色」の代表的なものは、紺色、青、青緑、紫などの冷たい感じの色で、暗くて、くすんだ色。どちらでもない色は「緑」「紫」「黄色」などです。
そして「膨張色」と「収縮色」とは、モノが「膨らんで見える色」と「縮んだ印象に見える色」のこと。これは色の明るさによって差が出てきます。
「膨張色」は、白、黄色、オレンジ色。
「収縮色」は、青、緑、赤、黒です。
女性の皆様ならおわかりのことと思いますが、洋服などで考えた場合に、絞まって見える印象のものが収縮色で、太って見える傾向にあるものが膨張色といわれる色のグループです。
ではこの「進出色」と「後退色」、「膨張色」と「収縮色」の二つの要素を意識して車の事故率のデータを見てみましょう。

事故の起きやすい車の色はこの色!

どの色が事故を起こしやすい色なのでしょう。
下の表は、車による交通事故全体を100%として、どの色の車が何%を占めるかを表します。

交通事故率の高い車の色
1位 青…………………25%(5%)
2位 緑…………………20%(13%)
3位 灰色………………17%(11%)
4位 白、クリーム色……12%(53%)
5位 赤、マルーン色……8%(20%)
6位 黒…………………4%(4%)
7位 ベージュ…………3%(8位と合わせて5%)
8位 黄、金色……………2%
9位 その他……………9%

※野村順一著:カラー・マーケティング論 より

この調査結果、1983年のものなのですが、この頃の車の全体に対するこの色の車の割合も()内に書き込んでみました。この中で、所有台数の比率と事故発生率の差が顕著なものといえば、やはり5位までのもの。

目立つのは「青」「緑」や「灰色」の、所有率に対しての事故率の多さです。そして「白」「赤」の事故率の少なさ。1位を例にみると、5%の人しか青い車を持っていないのに、全体の25%も事故を起こしているということになります。
青に関しては事情は明らかなような気がします。
まず青は代表的な後退色である点です。加えて収縮色でも代表的な存在です。となると、青い車を目にした人は、後退色効果のおかげで、まださほど近くに来ていないと感じ、さらに収縮色効果のせいで車が絞まって見え(つまり実際より小さく見える)、車との距離の判断を見間違う結果となってしまいます。
2位にランクインした緑は、後退色でも進出色でもないのですが、青色と同様、代表的な収縮色、つまり実際よりも絞まって小さく見える印象を与える色です。加えて、信号の色でもおわかりの通り、人間に危険や緊張を感じさせない色でもあります。このあたりのイメージも影響しているかもしれません。
これとは逆なのが「赤」や「白」の車です。車の所有率では50%もあるにもかかわらず事故率わずか12%の「白」。同じく20%の所有率なのに、事故率8%の赤。白は代表的な膨張色ですし、赤はもっとも強く印象を与える進出色であり、派手な色の代表的存在。加えて人に危険や緊張を与える色でもあります。
また事故率で2%の黄色もかなり安全な色といえそうです。後退色と進出色の中間にあり、つまり正確に距離が掴めるためです。
前の項でもご紹介いたしましたが、車の色というのは、世の中の状態とリンクする傾向があるようで、高度成長期など、人の心が上向き傾向のときには、車の色が派手になる(鮮やかな色が増える)。逆に不況で人の心も「どうもいかんな」と下向きになる時代には、地味(黒、グレーなどの無彩色や暗めの青や緑)になる傾向があります。
こうした人の心の変化と車の色、そして事故率と考えると、「風が吹くと桶屋が儲かる」の話ではないですが、好不況と事故率は案外関係しているのでは、とも感じてしまいます。

赤は止まれ!

青や事故が起こりやすく、赤は起こりにくい。
実はこの仕組みをうまく取り入れたモノがあります。

赤は止まれ!
黄色は注意!
青は進め!
日ごろ親しんでいる信号です。もちろん子どもの頃からそんなふうに教え込まれ、信号はそういうものである! と常識以前の当たり前のこととして認識しています。
しかし、こうした認識以前に、信号が赤、黄色、青とされているのには理由があります。それは、先ほど事故が起こりやすい(起こりにくい)原因ともなっていた、進出色と後退色の差。赤は「進出色」の代表的な色です。
こちらに向かってくるものと、離れていくように見えるもの。車でもそうでしたが、どちらに、より「危険」を感じるでしょうか。
人間は本能的に、向かってくるように感じる色に危険や緊張感を持つようにできています。赤い色が「止まれ」となったのは、この「進出色」である特徴を利用するためのものだったのです。しかも膨張して大きく見えるのですから、人に注意をうながす色としては申し分ありません。
逆に青は「後退色」の代表的な色。そして黄色はその中間。信号というのは、色だけでもその効果としてその役割を果たすように考えられていたのです。

向かってくるように見える、その理由は

ところで進出色と後退色はどうしてそのような印象を受けるのでしょう。
これについては、少々科学的な説明をしてみようと思います。
「赤の方が強い色で、血の色などを連想させるし、そのため心理的な圧迫感とか緊張感が発生し、大きく感じられるのでは?」
確かに、そんな、あとからの記憶の要因もあるのでしょうが、実は迫って来るように感じるのには、きちんとした理由があります。
赤や青の光の持つ屈折率がその原因です。この屈折率の違いが二つの色の印象の違いとなって現れるのです。
人間の目の構造がどのようになっているか、ご存知でしょうか。
人間の目はおおまかにいって、カメラのように、ピントを合わせるレンズの部分(水晶体)と、色を識別するフィルムの部分(網膜)から成り立っています。
光は網膜の上でちょうど像を結ばないと、光を識別することができません。しかし目から入った光には、屈折率の違いがあります。

たとえば赤。赤は光の7色の中でも屈折率が一番小さく、そのままだと像を結ぶポイントが光の信号をキャッチする網膜の後ろ側になってしまいます。そこで、水晶体を厚い凸レンズのように変形させることで、ちょうど網膜の上に像を結ぶように調節します。
凸レンズを通した風景は、皆さんご存知の通り、大きく迫って見えます。これが「進出」の効果を出すこととなるわけです。
逆に青は屈折率が高いので、像が網膜の手前になってしまいます。すると今度は水晶体は薄く形を変えて、ピントを合わせようとします。その結果、青は後退して見えることとなります。
ちなみに、黄色は屈折率がちょうど赤と青の真ん中で、水晶体の調節なしに網膜の上に像を結びます。つまり、素のままの映像です。距離感も正確に、そのままのイメージを得ることができます。
皆さんご存知のテニスボール。こうしたボールのスピードが速い球技の球に黄色やアイボリー系統が多いのも、この理由によります。球が実体より遠くに見えたり、近くに見えたりせず、正確なイメージでプレイができるわけです。


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