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なぜ、未亡人は美しく見えるのか? Chapter 4 街の中で見かける「色」の秘密を解明する(2)

車の色からわかること

街を走る車で景気がわかる

「車の色って最近派手になってきたよね。ウチの父親の世代など、みんな白とか、グレーなんて地味な色を必ず選んでたけど…」
車だけでなく、ファッションや街並みなども含め、昔と今の違いについて、つい、こんな漠然とした感想を持ってしまいます。父親の世代の地味な服装を、世代の好みの色のように思ってしまっているせいかもしれません。昔は地味、今は派手。そんなイメージが固定観念として浮かんでしまいます。
ですから、車の色に関しても当然、昔は地味な白やグレー、今は派手に赤や青やイエロー、そんなふうなイメージを持ってしまいがちです。しかしこれが大間違い。
まったく逆でした。昔は派手で今は地味。車の色の移り変わりの統計を見てみますと、以前と比較して今の方がずっと地味な色の車が好まれてます。
わかりやすい例としては、黒、白、グレー(シルバーも)など色彩のない(無彩色)車と、それ以外、色彩の付いた(有彩色)車の割合の比較があります。

車の色と景気の深い関係

実は車の色、特に色付きか黒白(とグレーやシルバー)かの比率には、その時代の雰囲気、人の気持ちの明るさみたいなものが実にしっかり反映される傾向があります。
人々の気持ちが元気な時代には元気な有彩色の車が増え、あんまり勢いがよろしくないと、無彩色に振れていく。こんな現象です。
日本に本格的なマイカーブームがやってきたのは1960年代も後半のこと。
66年、その後長くライバルとなるカローラとサニーが相次いで発売されたのがきっかけとなりました。
それまで国産車といえば初代コロナ(57年)。そして59年のブルーバード。
しかしそのほとんどはタクシーや社用車で、個人の所有はほんのわずか。そんな事情から色はごく地味め。いかにも高級なハイヤーを意識した黒、白などがほとんどでした。この事情を変えたのが先のカローラとサニーの発売です。
時は植木等が歌って踊る高度成長期。日本始まって以来というくらいのイケイケ時代です。70年の万国博覧会を目前に控え、国民みんなが新三種の神器の3C(カー・クーラー・カラーテレビ)の購入を目指して上を向いて頑張っていた時代でした。
将来は間違いなくもっともっと豊かな生活になる、そんなことを信じて疑わなかった時代でもありました。そんな中、ついに手に入れた車の色は。
68年の車の色の約50%が、赤、黄色、緑、青などの有彩色。残りが黒、白、グレーの無彩色でした。
その後、経済の成長とともに有彩色一派はどんどん勢力を拡大し、70年、万博の年には、ついに約80%。車みな派手色時代を迎えることとなりました。消費は美徳。購入したものは豊かさの象徴。その消費の中でも最も他の人の目に触れる車を、それまで家の中にさえあまり存在しなかった派手な色にしたい。生活のレベルアップを手放しで喜び、自慢しあう時代でした。
反対に、人々の気持ちに元気がなくなると、車から色がなくなるという現象も本当に見事に起こります。
70年に花開いた車派手色時代は、73年の第一次石油ショックとタイミングを合わせるように急速に終焉を迎えます。

79年には第二次石油ショック。迎えた80年には有彩色一派は30%台に。そのまま減少傾向は止まらず87年にはわずかに10%にまで落ち込みます。
そこで迎えたのがバブルです。
80年代後半から90年代前半まで、派手な車の割合は再び増え続け、30%台後半にまで勢力を回復します。
しかし、90年代前半のバブル崩壊。さらに阪神大震災。
94年を境に、再び車の色は白、グレー、黒の無彩色、地味色三兄弟に支配されていきます(後からの分析で、バブル崩壊は90年前後といわれていますが、浮かれた私たち庶民がバブル崩壊を知ったのはずいぶん後でした)。
99年、有彩色一派の割合は約17%。この割合が再び上昇傾向に変化したのは2000年から2001年にかけてのことでした。
決して景気がよくなったわけでもなく、明るい出来事が次々に起こったわけでもありません。考えられるのは世紀末、新世紀の、あのフワフワとした期待感です。新しい世紀はきっと今と変わるに違いない。そんな期待だったのかもしれません。

現代は派手時代?地味時代?

その後、2006年時点での有彩色一派の割合は約25%程度。
この数字だけを見れば、バブル直前の傾向にとてもよく似ています。
あまり実感がないのですが、土地代もわずながら上昇基調にあるともいいますし、世の中にはそこはかとなく、バブリーな気配を感じ取っている人がいる、ということなのかもしれません。
ところで、世の中や人心が暗くなると、地味な車が流行るのはなぜなのか。現象は明らかに起こるものの、その理由はわかりません。気持ちが地味なら、せめて派手な洋服で元気になろう! といった行動は、やはり疲れてしまうものなのでしょうか。
失恋の後は、中島みゆきの暗い歌で思い切り落ち込む。やはりこれが人間の自然な感情なのかもしれません。それとも、元気のない時代に「あまり目立つことはいけないこと」という自粛の意識が日本人の心にはあるのでしょうか。


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