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ビートルズ風雲録(19) バンビ映画館、日給の話

ハンブルクでの生活の基盤となる定宿、そしてお給料。ビートルズはどんな生活を送ることになるのか?


トイレの隣が定宿

ハンブルクに来るなり、いきなりのステージをこなしたビートルズ。
この出演を宣伝する広告でも、すでに「ビートルズ」という名称で紹介されていました。マネージャーのアランは相変わらずシルバー・ビートルズと認識していたので、どうやらアランにとっては、誤って「ビートルズ」と掲載されたということらしいのです。
本来、広告掲載の名前などはマネージャーがきちんと管理するべきものですが、このアラン・ウィリアムズ、とにかく物覚えが悪くて、自身のマネージメントするタレントの名前も覚束なかったようなのです。
きっとシルバーが抜けても、気にもならなかったのでしょう。
ある意味、ナイスプレイでした。
元々ビートルズを名乗っていたジョンとスチュアートですから、こちらはまったく問題はありません。すっかりビートルズが正式名になりました。
「ビータルズ」「シルバー・ビートルズ」「シルバー・ビーツ」など、いろいろな名前が変更・混在する一時期を経て、ついにビートルズに落ち着いたわけです。

さて、ハンブルクの初日、ブルーノ・コシュミダーのマンションに泊まったメンバー。
しかし、契約書には宿泊施設や宿泊代に関する規定がありません。
マンション住まいは最初の一泊だけ。
夕方のステージが始まる前に、新しい、その後の生活の場を提供されます。
今日からここがお前らの住処だ。無料でOK!
ギャラを考えて、一応気を使ってくれたコシュミダーです。
そこはパウル・ローセン通り33番地にあるバンビ映画館。
そのスクリーンの後ろの2部屋でした。隣は映画館の客用のトイレ。臭い。これはたまらん。
しかし宿泊費など払いたくないメンバーは、ここを根城にすることを了承します。何もない部屋に、とにかくベッドが持ち込まれました。
部屋割りは早い者勝ち。やっぱりジョンが一番に広い方の部屋の隅のベッドを確保。
スチュアートとジョージが続き、うっかり出遅れたポールはピートと小さな部屋に決まりました。
ポール、かなり不満だったようです。

それにしても、あまりと言えばあまりの環境。映画の音がうるさい、客が使うトイレの音で眠れない、臭い。
こんなところで生活しなければならないビートルズ。
さて、彼らの収入はどれほどだったのでしょうか。

日給1万円ちょっと?

契約期間は8月17日から10月16日まで2ヶ月。
ビートルズの各メンバーは1日につき一人あたり30マルク (2.5ポンド) を毎週木曜日に受け取る。さらにマネージャーのアラン・ウィリアムズに週あたり10ポンドの手数料を支払う、というものでした。

1960年、当時のレートで、

1マルク=86円
1ポンド=1008円

だから、

30マルク=2580円
2.5ポンド=2520円

だいたいあってますね。
最近の消費者物価指数の異常とも言える急な上がりっぷりは無視して、
「当時の1ポンド=現在の4000~5000円程度の価値」
と推察すると。

日給、10000円余りの価値はありそうです。

1日4時間~6時間、ぶっ続けで演奏して、うーん、どうでしょう。いや、駆け出しの若者にとっては、決して悪くはなかったのでしよう。ハンブルクでの仕事を持ちかけられたときの彼らの感想は『わりとおいしい仕事』だったかと思います。これくらいもらえれば、御の字だったのでしょう。

飲んで、食って、煙草を吸って、女性と遊んで。
その上で、ジョンは新しいギターを買ったりしてます。お金はそっちに回す。
臭くても、うるさくても、仕方ありません。

この2部屋を舞台に、さあ、むちゃくちゃな青春が始まります。
ビートルズがビートルズになる、重要な期間です。


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