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2023.10|いちばん物語りたくなる〈場〉

10月
下北沢の書店B&Bで開催された、トークイベント〈本の扉をあけて 山下紘加と語る読書の喜び〉に行ってみた。

12個の中で、いちばん物語りたくなる〈場〉だった。


ともだちってなんだろう

ともだちに嫉妬することって、ありますか?

ともだちに依存しているな、と思ったことは?

今回のイベントには、小説家の山下紘加さんが登壇されていた。山下さんが、新刊『煩悩』を発刊したのがきっかけのようだった。

『煩悩』は、山下さん自身と中学時代のともだちとの関係をもとに書いた小説なんだそう。
山下さんをモデルとする「主人公」が、「ともだち」にだんだん依存していき、いびつな友人関係になっていく。みたいな。

この話を聞きながら、わたしが出会ってきた何人かのともだちを思い出した。

「わたし、あなたのこと親友だと思ってる!」「え!わたしも!」

「ゆづに彼氏ができても、たまにはわたしと遊んでね!」

(なんだかあの子、最近〇〇ちゃんと仲良さそうだなぁ)

幼少期に交わした言葉
冗談めかして言われた言葉
思わず心に浮かんでしまった本音

誰でも抱く感情ではないような気もする。
でもわたしは、なんだか山下さんと自分の感覚がつながっている気がしてしまった。

「ともだち」ってなんだろう。
わたしとあなた、あなたとあの人では、「ともだち」の中身が全然違う気がする。

わたしの中にも、いろんな「ともだち」がいる。

「ともだち」ってなんだろう。

生きるために物語る

山下さんのお話で、印象的だったことがある。

「あの子とのことをずっと書きたいと思っていたんだけど、いつも冒頭だけで終わってしまっていて。でも最近、やっと書けそうだと思ったんです」

わたしは、人生には物語が必要なんじゃないかと思っている。
小説を読むというのもそうなのだけど、ここで言っているのは少し違う。
過去の成功や失敗や出会いや苦しみを今に結びつけ、1つの連なりを作る。みたいなこと。

面接や自己分析的ななにかでストーリーが要請される場面もあるが、そういうのとも少し違う。
自分の中に生じた処理不可能な大きな何かを抱いて、なんとか明日を生きるために自ら物語を生み出す。

上手にすっとつながると心のわだかまりが解けたようで、そのことを思い出す機会が減ったり、前を向けたりするようになる。

震災や戦争の文脈でいわれることも少なくないが、この説明にはわたしの実感がかなり入り込んでいる。
たぶん「意味づけ」とも呼ぶ。

山下さんのお話を聞きながら、彼女は物語が必要だったのかな、なんて思ったりした。

わたしが物語りたいこと

そんなふうに山下さんのお話を聞いていたので、今わたしが物語りたいことってなんだろうと考えた。

わたしが物語ることを最初に意識したのは、コロナ禍の経験を文章にしたときだった。

過去のある人との出来事がなんとなく心にわだかまっていて、機会があったので物語にしてみた。
たぶんこの物語はわたしにとってかなり筋が通っていて、これを書いたあとは、その人のことを思い出す機会が格段に減った。

この経験は私にとってとても大切なものになった。最近では処理しきれないことが起こると、物語を作ろうとする癖ができた。
上手にできなくて諦めることのほうが多いけれど、大きく助けられることもあった。

あらためて、今わたしが物語りたいことってなんだろう。

たぶん問いの形にすらなっていないような、切実で言葉にできないものがあるんじゃないかと思う。
きっと、他の人にもあるんじゃないかと思う。

分かりやすく表出するものではなさそうだけれど、誰しもそういうものを抱いて生きているかもしれない。
そのことだけは、覚えていたい。

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