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2023. 6月|いちばんカオスな〈場〉

6月
六本木ヒルズ森タワーで開催された、地方移住をサポートするイベント〈ツナゲナイト〉に行ってみた。

12個の中で、(私が移住希望者ではなかったために)いちばんカオスな〈場〉だった。

〈ツナゲナイト〉は、地方移住を支援する雑誌・Webメディア「複住(ふくじゅう)スタイル」が、地方のリアルな魅力の発信や人びとをつなげることを目的に始めたイベントである。

幅広いライフスタイルの選択肢を知りたい人や、ローカルな暮らしに関心がある都内在住者をターゲットに、地域への移住・多拠点生活について発信している。

私が参加した回は、長崎県への移住・多拠点生活がテーマだった。
長崎県や五島列島、佐世保の職員さんが会場をおとずれ、地域の魅力や移住制度を紹介してくれた。


迷いこんでしまった感

たぶん私は、このイベントのターゲットではなかった。

そのことは、会場に入ってすぐに分かった。

まず、まわりのみなさんが大人すぎる。
しっかり社会人をされていそうな方ばかりで、全員に「お仕事おつかれさまです」と声をかけて回りたくなった。
みんながみんな私の想像どおりではないだろうが、彼らが東京の暮らしから離れたくなるのはなんとなく分かる。

つぎに、あまりにも長崎すぎる。
会場につくまでの私は、その日が長崎を特集する回であることすら知らなかった。
長崎には行ったことがなかったし、知り合いは1人もいなかった。
物理的にも心理的にもとても遠いので、戸惑ってしまった。

そして、移住のサポートが整いすぎている。
私も「幅広いライフスタイルの選択肢を知りたい」くらいには思っていたが、移住や多拠点生活を検討しているわけではなかった。
東京での暮らしに不満はなかった。

なぜ私がこのイベントにたどりついたのか、そして、なぜ申し込もうと思ったのか。
誰か教えてほしい。

完全に迷いこんでしまった状態の私に、長崎のみなさんや運営のみなさんは、とても丁寧なおもてなしをしてくれた。
なんだか申し訳なくなってしまった。
「長崎」とも「移住」とも遠い大学生が、こんな厚遇を受けてよいのだろうか。

せめて遠くない未来に、長崎に遊びに行こうと思った。

豪華すぎるおもてなし

そう。このイベントは、おもてなしが豪華すぎなのである。

まず、長崎のおいしい食べ物やジュース、お酒がずらっと並んでいる。
この試食・試飲コーナーを満喫すれば、たぶん夕飯はいらない。
東京では見かけないものばかりで、どれもおいしかった。

しかもアンケートに答えると抽選で、ロックグラスが当たる。というか、ほとんどみんなもらえていた気がする。
かなりしっかりした焼き物のように見えて、形もかわいかった。

さらに、長崎のパンフレットとお土産がぎっしりつまったトートバッグをもらった。
トートバッグは丈夫なので、母が愛用している。カステラがとてもおいしかった。

ちなみに参加費は無料。
このイベントは12個のなかで、間違いなく1番豪華だった。

さすがに長崎に行きたくなるし、行ったときはちゃんと経済を回しながら長崎を楽しもうと思った。

一瞬まじわった人たち

〈ツナゲナイト〉というイベント名なだけあって、ゲスト講演後に参加者交流の時間があった。

すでに場違い感をぞんぶんに味わっていた私は、参加者交流が始まる前にこっそり帰ってしまおうと思った。

でも予想外の展開が起こる。
講演後、試食コーナーに角煮まんが現れたのである。

私は角煮がとっても好きで、これを食べずに帰るわけにはいかなかった。
大丈夫。食べたらすぐに帰ろう。

そう思って角煮まんをもぐもぐしていると、「おとなりいいですか?」と話しかけられてしまった。
さすがに「無理です」とは言えない。

「今日はどうして参加されたんですか?」
そうですよね、まずその質問から始めますよね。私が1番答えに困る質問。

適当にごまかしながら会話を続けるうちに、他の参加者も集まってきてしまった。
おたがいに「どうして参加されたんですか?」を聞きあう。
移住を強く検討している人よりは、長崎に興味がある人が多い印象だった。

次に始まる話題は、「どこのご出身ですか?」
東京出身の私はまったくおもしろみがないので、パンチ強めな大阪出身のお兄さんの話をひたすら聞く。

つづいて「お仕事はなにされているんですか?」
大学生です、ごめんなさい。内定先の話やアルバイトの話をちょこっと出して乗り切る。

とにかく存在するのが申し訳ない感じだったが、社会人が「はじめまして」しあう場に居合わせることはなかなかないので、新鮮だった。

やっぱり出身地が同じだと親近感がわくんだな、とか。
この人は自分のお仕事に誇りをもってるんだな、とか。
この人はセミナーにたくさん行っている自分が好きなんだな、とか。
この人は余裕がなさそうだな、とか。

みなさん、元気にしてるだろうか。
長崎に移住しただろうか。
移住していないとしても、夏休みの旅行くらいは行ったかしら。

多種多様なキャラクターが勢ぞろいすると、最初に私に話しかけてくれたお兄さんはあまり目立たなくなった。

自己主張せず、周りが気持ちよく話せる場を作るタイプの人だなと思った。
そもそも話題がない私ほどではないが、ほとんど聞き手に回っている印象だった。

みんなでぞろぞろ帰路につき、ばらばらの路線に分かれていき、最後はそのお兄さんと2人になった。

お兄さんに「お仕事は楽しいですか?」と聞いてみる。

くわしいことは分からないが、あまり満足いっていない様子だった。就活のときにたくさん悩んで決めた仕事なのに、思っていた感じと違ったらしい。
内定先が決まったばかりの私は、少し不安になった。

別れ際、お兄さんが「あの、もしよかったらなんですけど」と読書会にさそってくれた。
「ぜひ行きたいです」と答えた気がするが、どういうわけか結局参加していない。
予定が合わなかったんだっけか。

あのお兄さん、元気かな。転職したかな。
あの人にとっての読書会は、自分らしく息ができる場所なのかもしれないと思った。
読書会、まだ続いてるのかな。

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