ひとりのくらし。
一人暮らしを初めて3年目になる。
あと数か月もすれば、丸3年になる。
3年前のあの日、東京の西側にある田舎町を飛び出した。
東京にも山と川に囲まれた町があるのだ。
自然豊かで空気もおいしい。犬の散歩は川沿いで、BBQも機材さえあればタダでできる。
そんな田舎の町だったけど、その時傷心だった私には思い出がたくさん詰まったあの空気は耐えられなかった。
肺の奥底に重く残るような初夏の湿った田舎の空気は、今思い出してもうんざりするし、帰省するたびに気持ちを重くさせられる。
彼には二度と会いたくなかったし、顔を見たらきっと殴りかかってしまうと思うほど恨んでいたし(正直これはたぶんいまでもそう)とにかく忘れたくて、とにかく逃げたかった。
彼の裏切りを知ってから二週間で引っ越し先の部屋を決め、三週間経つ頃には引っ越しをした。
私の孤独な、だけど夢と希望にあふれる一人暮らしが始まる。
あたらしいまち。
彼との同棲生活を夢見て貯めていた貯金をはたいて、実家を出た。
初めて一人暮らしをした街は、実家から電車で小一時間程の東京郊外の街だった。
都内へ出るには30分強。仕事にも遊びにいくにもだいたい一時間で行けた。
築20年近く、敷金礼金ゼロの少し古いアパート。リノベーションされているとはいえ、ところどころに古臭さを感じる1K8畳のアパートの二階が私の城だった。
最初の数か月は傷心と一人の寂しさを紛らわすためにひたすら飲酒していた。
仕事から家に帰れば一人で酒を飲み、週末は友達に誘われ都内へ出てクラブで飲み明かした。
ふと思った。アル中で死ぬんじゃないかと。
シラフな時間がなかった。二日酔いで仕事に行き、帰ってきても相変わらず一人でお酒を飲む。そんな生活が続いた。
10月に引っ越しをして、そんな生活がだいぶ落ち着いたのは年を越してからだったと思う。
それでも傷ついた心はまだ抱えていて、毎日ノートに書いていたのは誰にも言えないドロドロした気持ち、恨みつらみ、悲しさ、後悔、寂しさ。
今は見返す勇気がないほど、それはそれはずっしりとしたノートになった。
寂しさはもちろんありつつ、初めての一人暮らしに浮足立っていて、それが逆に寂しさを埋めてくれていた。
実は実家にいた時は家事はまったくしてこなかった。
自動的に出てくるご飯、自動的に沸いているお風呂、自動的に洗濯されて畳まれている洋服。
炊飯器を使ったことも、自分で洗濯機を回したことも、母親が帰省していて家にいなかった時に数回やったことがあったか、ないか。
それですら父親に任せていた記憶がある。
今だから言える、お父さんお母さん、本当にありがとうとごめんなさい(笑)
ただ、その辺の要領がなぜかいいのが私だった。
なんの疑問もなく炊飯器でご飯を炊いて、洗濯機を回した。
(多少はGoogle先生の助けもあったと思うが)
実家では料理なんて一切しなかったのに、彼氏の家ではいつもご飯を作っていたのがここで功を奏した。(そしてCOOKPAD先生もありがとう)
仕事に行くのにもお弁当を作って持って行ったし、酒のつまみも自分で作るし、洗濯機はお風呂の残り湯で回した。
掃除は苦手なので思いついた時に掃除機をかける。
お風呂はシャワーを浴びるタイミングでさっと流す。気になった時に掃除する。
キッチンは油汚れや水垢を放置しがちで、トイレ掃除が一番億劫だった。
これは今も変わってないし、性格なのだと諦めている。
友達もたくさん泊まりに来たし、心が壊れていた私だったので何人か男を連れ込むこともあったのはまた別のお話。。(多分一生語らない)
そんなこんなで2年経つ頃には傷心の心もだいぶ癒え、コツコツと仕事をしてきたことで努力を認められ、一人暮らしの中でのコロナを経験したことで一人時間の過ごし方を確立し、だいぶしっかりした「大人」に28歳にしてやっとなれたのかなと思う。
アパートの契約が2年で更新されるタイミングで引っ越しを考えることになる。
仕事の状況がだいぶ変わり、ほとんどの行動範囲が都内になっていた。
会社と相談して、家賃補助を上げてもらうのと同時に都内へ引っ越すことを決意した。
しらないまち。
郊外のアパートから東京都心のマンションへ。
家賃は実に2万円アップ。
以前住んでいた郊外のアパートは、昔から多少の土地勘はあってこの大通りがどこの道に繋がっているかくらいは理解していたが、都心のマンションはまさに新天地。まったく知らない街だった。
実家へは片道2時間。同じ東京なのにこの差だ。
余計に実家に帰るのが億劫になってしまったこととやたら家賃が高いことを除けば、新しい部屋は私にとっては最高の城となった。
築浅物件に引っ越したことで、ほんの少し掃除に対する意識が変わった。ほんの少し。
さらにあの田舎町から遠ざかったことで、私の心もだいぶ軽くなった。
逃げるように出てきた郊外のアパートは、心落ち着ける我が家ではなくて、私にとっては逃げたい一心で逃げ込んできた隠れ家だったように思う。
せっかく逃げてきたのに、なんとなく「逃げてきてしまった私」を象徴するような場所で、あの街やあの部屋は嫌いではなかったけどなんとなく後ろめたさがあったのだと、都内へ引っ越してきて思うようになった。
知ってる街は多い方がいい。
今はそう思っている。
いろんな街に、いろんな人がいて、生活を営んでいる。
あの頃の私のように、隠しきれない悲しい気持ちを抱えながら、それでも踏ん張って家路に着く女の子がたくさんいるのだろう。
あの男のように大切だったはずの誰かを傷つけて、平気で笑いながら誰かの隣を歩きながら家に向かっている男もたくさんいるのかもしれない。
そんな誰かのいろんな物語が、いろんな街に染みついているのだ。
そう考えると、一人暮らしは寂しいものではないよ。と思えない?
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