"キリンを作った男"を読んだ感想

"キリンを作った男 マーケティングの天才・前田仁の生涯"という本を読んだ。前田仁は、キリンで幾多ものヒット商品の開発に携わった人物である。メーカーがどのようなプロセスを踏んで商品を市場に投下していっているかが具体的に書いてありそうだったので読んだ。読んでみて面白かった点をまとめてみた。
また、本に登場した製品が、どのような背景で開発されて、どういったターゲットに向けて開発されたかを備忘録も兼ねてまとめてみた。

面白かった点

  • 商品開発は、顧客ターゲットを決めて、その中でどのように他社と差別化するかの特徴を決めていく。その具体例がこの本には沢山詰まっていた。それらの例を見ていると、他社と差別化する点がなぜ上手くいくかは発売前にはロジックで説明できない要素が多くあり、そこが製品開発における難しさだし面白さでもあるなと思った。例えば、一番搾りの開発において、ライトな味わいビールというカテゴリの中で、純度が高いビールを打ち出せば、スーパードライといい勝負ができる、っていう読みを前田は持っていた。ただ、この読みがうまくいくかってのは、いくらパネル調査とかで確度を高めようにも、最後は出してみないと分からないのだろう。

  • マーケティング部と営業部が一枚岩になれない点が面白かった。大企業で多くの人をまとめる難しさが詰まっていると思った。具体例としては、キリンではマーケティング部と営業部で主力製品として押し出したい商品が異なるという状態が続いた。マーケティング部は一番搾り、営業部はラガーを主力製品に据えたがっていた。こういった対立構造が生じてしまった背景も本に記載があった。それによると、営業部は相対的に、歴史的にメーカーナンバーワン商品の立場を守ってきたラガーへの思い入れが、マーケティング部よりも強いことが、そういった立場の違いに現れているとしていた。

  • マーケティング部署と、製造技術チームの関係性が面白かった。マーケティング部門がブランドコンセプトを決定して、それを実現する方法を技術チームが考えるという構図である。淡麗の開発が例としてある。マーケティング部が発泡酒でありながらコクのあるビールを作るというお題を出して、技術部はそれを実現するために大麦を使うという案を考案していた。技術ドリブンで製品が開発が行われるということも、他の業界ではあるなかで、酒類メーカーではマーケティングチームの役割が大きいようだ。

[備忘録] ヒット商品のまとめ

ヒット商品が本には幾つか登場するのだが、そのなかでも重要度が高い、一番搾り、淡麗、氷結について、本に記載されていた内容をまとめてみた。

一番搾り

  • 概要: 90年販売のビール

  • キリンにとっての重要性

    • キリンはビール市場で圧倒的なシェアをもともと誇っていた。濃厚な味のラガーが主力製品であった。しかし、日本人の食文化が変化して肉食が増えたことで、肉食にあうスッキリした味わいのビールの需要が高まっており、ラガーは市場ニーズとミスマッチを起こしていた。

    • アサヒのスーパードライは大きなヒットを収め、キリンの市場シェアは年々下がっていく危機的状況にあった。

    • スーパードライがターゲットにしている客層に刺さる商品開発が急務だった。あまりにも大事だったので、会社の中で2つのチームが並列に製品企画を行って競い合い、勝ったほうを販売するという形態が取られた。この際は、前田仁が率いるマーケティングチームと、経営企画チームと戦略コンサルタントの混成チームからなった。

  • ターゲット: ラガーでは捉えることができなかったはスッキリした味わいのビールを求めている層。

  • 製品特徴: ドライビールほど軽快ではなく、ラガーほど濃厚ではなく、その中間の味を目指した。不純物が少ないことをオリジナルな点として打ち出すことにした。そのために、ビール製造工程の中で不純物が入る工程を改善していった具体的には、ろ過するフェーズで通常は2番搾りの液と1番搾りの液を合わせて使うところを、1番搾りの液体しか使わないことにした。名前は特徴がよく伝わるように”一番搾り”となった。日本酒の名前っぽいという反対意見もあったらしい。

淡麗

  • 概要:98年販売の発泡酒

  • キリンにとって重要性: キリンの主力商品が販売されているビール市場は成長が止まっていた。長く続く不景気で、酒税が高いビールは伸び悩んでいた。その中で、酒税が安いことで売価が安い発泡酒は、市場全体で成長を牽引しており、キリンとしては参入の必要度が高かった。

  • ターゲット: 安い商品は買いたいが粗悪品は欲しくないという顧客。すでに他の会社が発泡酒市場に参入済みであったが、他社は、麦芽構成比が低いのを補うために、副成分としてコーンスターチを使ったりしており。味がビールと大きく異なりレベルが低かった。発泡酒はビールの粗悪品というイメージがまだあり、本格的な味を求めている人たちを捉えきれていなかった

  • 製品特徴: 旨味を強めに出す。コーンスターチを使うのでなく、旨味が強い大麦を初めて利用することで本格感を出した。名前は本格派であることが伝わるように、カタカナではなくて漢字2文字の名前

氷結

  • 概要: 01年販売の缶チューハイ

  • キリンにとって重要性: キリンは、ビールや発泡酒だけを取り扱うメーカーから、総合酒類メーカーへの転換を行おうとしていた。チューハイ市場への参入はキリンとしては重要なミッションだった。

  • ターゲット: 初めて缶チューハイを飲む人や女性に既存の缶チューハイは刺さっていなかった。焼酎ベースのアルコール感の強い商品しかなく、焼酎に飲み慣れた中高年に主に売れていた

  • 製品特徴

    • 微妙な甘さ。果汁の原材料にこだわりを見せる。濃縮還元果汁ではなく、ストレート果汁を使うことで風味を良くする。普段あんまり酒を飲まない人には、こういった果汁の風味の部分が刺さる。

    • 癖を強くないようにする。焼酎でなくしウォッカベースにした。それによって、つこさを減らし、果汁のクリアさがより伝わるようにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?