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わたしの中のわたしの雛形(『意識と自己』その4)

人間の身体には、細胞内の化学的特性と変化を感知してホルモンを分泌したり、腸、心臓、皮膚、血管などの平滑筋を収縮させたりして、身体を生存に適した一定の状態に保つための無数のシステムがあり、絶えず微細に連係しあっている。

ひとつひとつは「ほとんどがゲノムにより先天的にさだめられた」はたらきをする部品からなる、いわば複雑な交通システムみたいなものだ。

そしてその全体が脳と連絡をとりあっていて、脳内に完全な「ひな形」として存在する。つまり脳のなかに、身体に対応するマップがある、とダマシオ教授は指摘する。

「この雛形は何も『知覚』しないし、何も『認識』しない。話もしないし、意識をつくったりもしない。この雛形は脳の中の一連の装置であり、その主たる役目は有機体の命の自動化された管理である」(『意識と自己』位置412)


この自動化された自己管理機構を、ダマシオ教授は「原自己(proto-self)」とよぶ。これが、意識がはじまるのに必要な「自己の感覚」を生む装置だというのだ。

有機体の生存のために身体を安定した状態に保っている脳のさまざまな装置が、意識の「前兆」的存在。つまり、ミルフィーユのいちばん下の層、ティラミスでいうとレディーフィンガーにあたる部分だ。

ただし、この層は下にとどまっているだけではなくて、上の層や身体のほかの部分と、化学物質または電気信号をつかって活発にやりとりをしている。

ここでもダマシオ教授は、身体が「単一のシステムではない」ことを強調する。

身体は「いくつかのサブシステムの組み合わせであり、その一つひとつが多様な身体的側面の状態について、脳に信号を伝達している」といい、そのサブシステムが進化の異なる段階で生まれてきたものであることにも着目する。(位置2588)

そのサブシステムの連係の中から生命体の「物質構造の状態をマッピングしている、統一のとれたニューラルパターン」が生まれ、これが意識の前段階である「原自己」だというのだ。

(つづく)

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