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いつか普通の国になる日本へ 2

一時帰国して関西に滞在していた時に、オウム真理教の教祖と元幹部7人の死刑が執行された。

この時の報道に、なんだか違和感を持った。

テレビ(たしかNHK、と思うけどよく覚えてません)のニュースは、号外が出た日に街でつかまえた通行人3人の感想に続いて被害者の会の代表の「特に感慨はない」というコメントを20秒ほど流し、サリン事件から逮捕にいたる経過を数分間にまとめて、「オウム真理教の事件とは何だったのか、真相はナゾのままです」と結んでいた。

ん?と思ったのは、「真相はナゾのまま」といったような言葉をその後数日間の報道で何度も見聞きしたからだった。

「真相」ってなに? ていうか事件のどの部分の「真相」がどうわかっていないって言っているんだろう? 23年間この事件を追ってきたジャーナリストや学者もいて、そこにはとてつもない情報量があるのだが。

「なぜ教団が凶暴化したのか」という問いに対してだけでも何層にもなった相反する真相があるはずなのに、誰にでも2分で事件のすべてを手軽に納得できる真相があるはずだったといわんばかりの物言いに強烈な違和感を感じたのだった。

もちろんそんな簡単な答えがあると本気で思っている人はそんなにいないと思うけれど、なぜテレビの人がそんな意味のない呪文のようなことを言って話を締めくくろうとするのかわからない。探し求めるべきはあるはずのない「真相」じゃなくて「で、これから何を問うべきなのか」という問いじゃないのかな。

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それからもうひとつ、とても不思議だったのは、なぜ今、幹部7人の死刑をまとめて執行したのか? という点に、見た限りだけど、メインストリームのニュースがまったく触れていなかったこと。もちろんネットでは執行の是非についての議論もあって陰謀論みたいなことをいう人もたくさんいるのだけれど、9時のニュースで法務省の見解を分析したり、大量の同時執行を批判したりする言説がまったく見られなかったのはちょっと衝撃的だった。

執行は自然現象ではなくて権力を持つ政治家の判断なのに、なぜそれについてニュースアンカーがコメントしたり、コメントを求めないんだろう? アンカーが死刑執行を批判すべきだというのではなく、その判断についての議論がニュース番組のまな板に乗ってないことに、不自然さを感じた。

アメリカの主要「リベラル」メディア数社は今、現政権との間で全面戦争を継続中だ。CNNもワシントン・ポストもニューヨーク・タイムズも、現職大統領から「フェイクニュース」呼ばわりされながら論陣を張っている。それは見ていてとても疲れる不毛な戦いに見えるが、とりあえず世の中に立場がいろいろあってそれぞれ戦っていることの証明ではある(それがうまく機能しているかどうかは別にして)。

アメリカは20世紀になってからずっと共和党と民主党が代表する二項対立に慣れていて(中身はコロコロ変わるし立場が入れ替わったりもしているが)、対立する相手があってこそ自分の立場が明確になる的な、体育会系弁証法みたいなところがある。それはそれで思考停止になっていたり議論は空回りするばかりであったりすることも多いけど、社会の中に自分とは相容れない他者がいることをアメリカ人は常に意識して暮らしている。

でも日本ではそうではなかったんだった。日本では、ほとんどの人が、社会の中に対立する他者はいないといいな、とうっすら望みながら生活しているようなところがある。みんなを不安にさせるほど突出して違うことをいう他者はみんなの意識から排除されてしまうか、粘菌のような何か柔らかいものにからめとられて一見同質なカバーを着せられていく。

これは一般的な生活感覚とメディアでの話で、もちろん、プロフェッショナルな世界ではまともな議論がかわされているはず、だと思うけど。

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日本のニュースって、コメントを言う人はいっぱい出てくるのだけど、すべてがぺったりした粘菌的なトーンの下にあって、期待に沿った予定の域をはみ出たことを言う人はあまりいないように見える。

80年代後半には麻原彰晃もバラエティ番組に出演して、その予定域の中で嬉しそうにいじられるちょっとヘンな教祖を演じていたのだ。

そのときのメディアの不見識を責めるのはまったくの見当違いだと思う。問い直すなら、なぜそれが面白いと思ったか、の方だ。

何が期待されている予定域なのかは不文律で、理屈じゃなくある種の(いってみれば)美意識に基づいているのだと思う。

私が見ている範囲が狭すぎるのかもしれないけど、現在は20年前に比べてその予定域がますます狭まってて、はみだすものに対する感情的な反応が激しくなっているような気がして不気味だ。

気のせいだと良いのだけど。

マツコ・デラックスさんに人気があるのは、その予定域を完璧に把握しながら絶妙に少しだけ外した発言をするからなんだろうなと思う。

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