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春雷

パッキリ割れた空。
忍びよる鉛色の巨体が青空だった場所を覆い隠す。
残された白は抵抗するように、集結して砦を築いた。
相反する二色の雲が、空を埋め尽くしている。

来る、のだ。
のどかな夕暮れを、糸を張って、引き裂こうとしている。

とどろく雷鳴。
胸の奥ごと揺さぶる風。
ふるえる白い花水木。
その時を、共に待ちかまえる。

ぽつぽつ、と始まりの音が聞こえた。
雷鳴も徐々に大きくなる。
もっと来るはずだ。
雨はかたい矢となって、やわらかい背中を突き刺そうと狙っている。

雨が空から放たれた。
意外にも、やさしい音で。
傷つけないように、大地をそっと払うように、さらさらと。
雷鳴はどこか遠くの方で、ゆっくりと鳴っている。
驚かせないように、こちらの様子をうかがうように、ごろりごろりと。



春は、夕立をもおだやかに変える。

雨が上がり、黄色い光が街を照らした。
ふたたび夕暮れが訪れる。


束の間の天のシャワー。
花水木がさっぱりした様子で花びらを広げ、白を反射させる。

来てもいないものに、怯えている時間の方が長かったかもしれない。




春の雷が教えてくれた。
怖れすぎることはないのだ、と。






昨日の夕立から⛈️

2023.04.17

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