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星食いリアロー

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星食いリアロー 最終話

第9話 約束したから

 結局僕は火曜日も学校を休んだ。火曜日のプリントは、ヒミコが持ってきてくれた。ヒミコは僕の部屋に入ると、言いにくそうな顔でこうつぶやいた。

「うちのお父さんが、あんたにお礼を言っておいてって」

「僕は何もしてないよ」

 そう、僕は何もしていない。それは間違いではないのだけど、ヒミコはそれでは納得しなかった。

「ねえ、どうしてお父さんたちは助かったの。船はまだ海の底に

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星食いリアロー 8

第8話 水枕

 そうっとそうっと、静かに静かに二階にもどると、僕はベッドに横になった。グワングワン、水枕がゆれる音。

「大丈夫?おばあさん呼んでこなくてもいい?」

 忍者が僕の顔をのぞき込む。ちょっとドキドキした。

「僕なら大丈夫。あとはリアローたちにまかせるしかないよ」

「そうね」

 忍者は紫色のランドセルを背負った。

「じゃあ、帰るね」

「うん」

「……佐倉くん」

「ん?」

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星食いリアロー 7

第7話 深海4000メートル

 グワングワン、水枕の中で氷が揺れる音。月曜は学校を休んだ。僕は風邪をひいてしまった。リアローと約束したのに。でもいいや、もうリアローたちと会うことはないんだから。ピピッ、と音がしたので、僕は脇から体温計を抜き出した。37・1度。まだ少し熱がある。おばあちゃんから聞いた話だと、昨日はフジミのお父さんがおぶって家まで連れてきてくれたらしい。熱がさがって学校に行ったら、

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星食いリアロー 6

第6話 あたりまえのこと

 セミがミンミン鳴いている。チリンチリン、風鈴が鳴る。大きくあいた窓から入ってくる風はなまぬるい。太陽の熱い光はさし込まない。空には雲がいっぱいだ。どうやら雨が降るらしい。リアローたちのいる所では、ちゃんと太陽が見えるのだろうか。それが心配だった。僕は机に宿題を広げながら、まったく手をつけていなかった。机の上の時計を見れば、10時を過ぎたところ。まだ早い。僕は手に持った

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星食いリアロー 5

第5話 黄金のプリンセス

 四時間目の授業が終わると、僕は走って学校を飛び出した。

(黄金のプリンセス、東京に。黄金のプリンセス、東京に)

 僕は忘れないように心の中で何回もつぶやいた。家に帰ったらすぐにインターネットで調べるんだ。学校から帰る途中、長い坂の上の歩道には、いつも通り、おじいちゃんが待っていた。

「どうした、今日はえらく急いでるな」

 おじいちゃんは、おどろいた顔を見せたけ

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星食いリアロー 4

第4話 僕にできること

 おじいちゃんの家の前には坂がある。長い長いその坂の上、道路が大きくカーブする手前の歩道で、学校帰りの僕をおじいちゃんが待っていた。毎日毎日、暑い日も雨の日も、いつもいつも不安そうに、心配そうに僕を待っている。その顔が、そして僕が学校から帰ってきたのを見て、ほっと安心するおじいちゃんの顔が、僕は好きじゃなかった。

「君枝、康彦くん、君彦は無事に帰って来たよ。今日も見守っ

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星食いリアロー 3

第3話 プールとメガネ

 他のみんなは遊んでいる。ちゃんと泳いでるやつなんて一人もいない。でもそんな中、僕一人だけ、プールのすみっこでよしむーと向かいあっていた。三年生の中で僕だけが、いまだにプールの中で目をあけられないからだ。ゴーグルをつけても目があけられない。水の中で目をあけると、すきまに水が入ってきて、目玉が飛び出てしまう気がする。そんなことにはならないと頭ではわかっているのだけど、どうし

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星食いリアロー 2

第2話 学校で

 僕はもう三年生だ。一人でご飯を食べられるし、一人でお風呂にも入れる。一人で服も着られるし、一人で眠れる。だいたいのことは一人でできる。パソコンだってタブレットだって使える。僕のことは何も心配しなくていいんだ。

 タブレットでインターネットの動物図鑑を開く。最初のページにはライオンの写真がある。でも僕の知りたいのはライオンのことじゃない。クジラのページを開くと、五十音順にクジラ

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星食いリアロー 1

第1話 お湯の向こうの歌

 インターネットで捜してみても、なくしたものは見つからない。それはもう、あきらめるしかないんだ。ぼくは九歳。いろいろとむずかしいことだってわかる。

「君彦くん、お風呂が沸きましたよ」

「はーい」

 部屋の外から聞こえたおばあちゃんの声に返事をすると、僕はタンスから下着をそろえて一階におりていった。

 長野のおじいちゃんの家のお風呂は大きい。東京にいた頃は体を小さ

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