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虎に翼 所作に見入る

huluで千と千尋の神隠し・ロンドン公演の舞台稽古まわりのドキュメンタリーが配信公開されたのを視聴した。舞台の仕事は大変だけど面白い。カメラ一台だけ持ち込んでの撮影を許可されての密着取材とのこと。

現地スタッフとの流儀や作業リズムの違いや英語と日本語のやりとりに時間がかかってスケジュールが遅れる。それを毎回どうやりくりしてより佳い舞台を制作するか。

劇場のサイズや構造の違い、客席の高さや構造に合わせて見せ方をどうアレンジするか。照明のアプリ互換性がない(らしいと判明した)ので舞台の担当氏がかなりの作業や表づくりを稽古しながらやり直した。いくら時間があっても足りない、というリアル。

演出家がどう指示を出すか。これも見ていてスリリング。興味深かった。

千尋がおにぎり(饅頭?)を取り出して食べるときの所作への指示は、ともかく高い席の客にもよく見えるように、くれぐれも手のひらで覆わないように、と。指先でつまむ、もしくは指で支えて「それが何か」の全体が出来るだけ遠くの観客の目にもわかるようにして欲しい等。

千尋役の上白石萌音さんが「YouTuberみたいにと意識しているけれど、もっとさらにということ」と理解を伝えるのが面白かった。所作や間の取り方の調整については他にも多く撮影ピックアップされていた。

が、ここで唐突に話題転換『虎に翼』のことを書いておきたい。ドラマにおける所作について。役者さんや演出家、制作陣の、ある意味では「素に近い部分」が出るから、とても面白いのだ。

監修が必要になってくる「方言」「料理」やその時代の習慣や特殊な業界での慣行やしぐさ。例えば私はドラマでも映画でも、料理を扱う作品が大好物で、そういうジャンルだと間違いなくアメリカ映画よりフランス映画の方がリアルの奥行き・クオリティが高いと知っている。中国映画もわりと好き。南米も悪くない。

あの演技は頑張ってたけどイマイチであった、と記憶に残る映画がある。ビノシュとデップ主演で日本でもヒットした『ショコラ』はビノシュが吹き替えなしにチョコレート菓子をこしらえる演技が話題になったが、あれは本職のチョコレート職人を「指導」だけではなく吹き替えで出演させるべきだった。そこらへん、ビノシュは「中の人」としてエゴばかり見える割に、いろいろと贅肉が削ぎ落としきれなくて、好きという人が多そうではあるが、私はどっちか言うとニガテな女優だなあ。というような映画談義をさせるとキリがなくなる程度には、奥が深い、とも言える。

トラつばの、でも今は料理の話ではなく、洗濯物をたたむ(これも俳優さんの所作としては象徴的と言っていいほど、観ると面白くなってしまうのだけれど)話でもない。

雑巾がけのシーンの話。
優三さんが猪爪の家を出ていく日。階段下の四畳半の畳を雑巾で拭いている場面が佳かった。たった、ほんの数秒の映像だけれど、力を込めながら、でも丁寧に、リズミカルに四角く雑巾をかける。

それだけでいろんな物語が伝わってきた。

よく似ていたのが東京家裁の設置に合わせて、大晦日に猪爪の家族まで総出で(レミさんも来ていた印象的な回)事務所にあれこれ運び、掃除や雑巾がけをして、除夜の鐘を聞いて、おせちのお重を広げてみんなで少しずつ食べた場面。

さらに昨日(103回)。
轟たちの事務所で、あれこれあった後に寅子がテーブルをきつきつの四角四角できゅっきゅっと布巾で拭く。おそらくは堅く絞った布巾で、花江ちゃんには「いつも四角いところを丸く掃く雑な家事」と言われているであろう、でも中の人としては、主婦としては完璧でなくとも、スポーツは好むから身ごなしは鋭敏だろうし、がさつというよりは集中力に少しムラがあるかもしれない。が、そんなに「言われるほど無能な筈ない」という、負けず嫌いっぽい所作を出したかったんだろう。

というような事を感じながら、キャラクター造形や表現を見るのも、とても楽しい。

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