虎に翼 第118回 時代や事件の背景を追うだけで精一杯
虎に翼 第118回は、ともかく色んな事件や裁判と裁判所人事と時事の話などが盛りだくさんで、濃度がすごい。憲法14条の「すべての人は平等」という理念を掲げるはずの社会が一歩進んで二歩さがったり、戦前に活躍した法曹の人たちが置き土産として残していった遺産(負であることも)の後始末がおそらく永遠に、というのは極端であるにせよ、なかなか終わらないことを匂わせる。長い長い物語の終わりと始まり。
昭和44年4月。最高裁人事局で行われたとされる発言「女性は資質的に裁判官としての適格に欠ける」さらにその理由とやらを連ねた議事録(資料?)を寅子が読み上げ、女性法曹の会の仲間たちが怒りをあらわにする。この件は皆の意見を集約して最高裁に要望書を提出したいと思っています、とまとめる。
帰ってくると星家では、同じ公務員なのに、と朋一が「久しぶりに実家に顔を出したと思ったら」とのどかに言われながらも父に憤懣やるかたなき、といった風情で直近の裁判結果について怒りをぶつけていた。
「勤務評定に反対した東京の教員たちが有給休暇をつかって闘争へ参加して欲しいと他の教員たちに呼びかけて、その行為が違法だと起訴された。公務員法で争議行為は禁止されている」「でも最高裁は無罪判決を出した。教員が争議をする権利は保証されているとね」
「そう、それなのに、同じ日に出た最高裁判決で、仙台の裁判所職員が日米安保反対の集会を開いたことに対しては有罪判決が確定した。おかしいだろ、同じ公務員なのにこの差は」
「ねえ、お義母さん」と振り返った朋一に、寅子が「朋一、多くの人は変化を過剰に怖れるものよ。男女平等に近づいたと思うとぶり返しがくる。でもなかなか変わらなくても声をあげていくことに意義がある。私もあなたも、一歩一歩ね」と応える。
その話がおこなわれたすぐ横で、
・専攻している寄生虫学の専門書をぱたり、と閉じる優未
・終電を逃して泊ることになった朋一が玄関先で喫煙
・のどかに「絵描きもどきの恋人」のことでイヤミを言う兄
→のどかが結婚する方向だと翌朝には寅子と航一にチクる。
最高裁判所では、まるで白い巨塔の教授回診のように、みなを引き連れて廊下を闊歩する桂場。初代長官の星が内藤(ライアン)と桂場を従えるようにして三人だけで歩いてくる場面が懐かしく感じられるほど。
与党が司法人事に介入しようとし、徹底抗戦の構えをみせる長官。
原爆裁判が終わってからもう出番がないと思っていた反町が、与党幹事長の秘書ということで桂場や汐見の周辺を暗躍している不穏。「つけいる隙を与えねばいいだけだ。裁判所は自らを律し、秩序を保たねばならん」という桂場。
5月。安田講堂事件の逮捕者たちのうち、二十歳以上の学生たちの裁判が始まる。だが、若者は判事に向かって「あんたたちが何もしてこなかったから俺たちが行動し変革するしかないんだ」と、反抗姿勢を収める気配はない。東京地裁は大混乱が続く。
汐見と香子の娘・薫は起訴猶予となる。
だが、美位子の裁判のゆくえはどうなるかまだわからない。
星家では、寅子に何か相談したげな優未。お腹がぎゅるぎゅる。
話の途中で航一が「のどかが恋人を家に連れてくることになった」と割り込む。娘の結婚の話となるとあんなに緊張するもの? と笑う寅子に重なるように「幾つになっても子どもの心配はつきません」とナレーション。
こうして書き起こすだけで精一杯のこともあるんだなあ。
感想や演出の妙について語る余裕もないので、この回はこのへんでいったん終わります。ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
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