「芳華、国へ帰る」 1話【創作大賞2024 漫画原作部門応募作品】
あらすじ
インドシナ難民の両親を持つ大学1年生の芳華は日本で生まれた難民2世であるため、国籍を持っていない。また、過去のイジメが原因でベトナム人であることを隠して生きてきた。
奇妙なベトナム旅行を経て自分自身と向き合い、自分自身が何人なのか考え、苦悩し、成長していくお話。
インドシナ難民とは
インドシナ難民とはベトナム、ラオス、カンボジアが社会主義体制になったことや、ベトナム戦争やカンボジア、ラオス内戦の影響で国外へ脱出し、難民となった人たちの総称。
特にベトナム戦争後、ベトナム共和国(南ベトナム)の人々が迫害を逃れて船で脱出したのが有名で、そういったインドシナ難民は『ボートピープル』と呼ばれている。その後、アメリカやカナダ、日本などへ移住し生活をしている。
登場人物
武田芳華(19歳) 誕生日 4月18日。
ベトナム戦争の後にインドシナ難民として日本へ来たベトナム人の両親を持つ、日本で生まれたベトナム人(インドシナ難民2世)の女の子。
現在、大学一年生。
しかし、ベトナムで生まれていないためにベトナム国籍を持つことができず、まだ日本国籍も取得していない。そのためパスポートは持っておらず、再入国許可書のみ持っている。小学校高学年にベトナム人であることや習慣、本当の名前(Võ Thị Phương Hoa)でいじめを受けたことがある。
転校と同時に通名である『武田芳華』と名乗り、ベトナム人であることを学校や外で隠して生きている。
本当は自分の本当の名前である「Võ Thị Phương Hoa」という名前を気に入っているが、いままで仲の良い友人にも本当の名前を言ったことがない。
ベトナム人の女性であるため髪の毛がとても綺麗だが髪質の違いでバレないように出かける時はいつも後ろで巻いて短くしている。
自宅では日本語が下手な母親とはベトナム語、日本語が上手な父親とは日本語で話しているが、ベトナム語を読んだり書いたりすることはできない。
感覚や味覚は日本人に近く、夏のホーチミン市のような高温多湿の気候が苦手であるが、日本の夏は平気で過ごせる。
ちょっぴり頑固で抜けているところがあるが、自分や家族がベトナムであることを悟られたくないという気持ちが強く自分の話になるととぼけてはぐらかす癖がある。
好きな食べ物
日本料理なら肉じゃがや白身魚のフライ。
ベトナム料理なら青パパイヤのサラダとフォーフィンのフォーボー
嫌いな食べ物
日本料理なら生卵ご飯と納豆
ベトナム料理なら蒸したオクラとブンボー
小野優子 誕生日 9月1日。
芳華の友人の1人。
芳華とは大学で出会った。
静岡の出身で妹が一人いる。外国の料理が大好きで最近ベトナム料理にはまった。
好きな食べ物は
外国の料理(現在はブンチャー)
嫌いな食べ物
親子丼、天津飯
市川ひとみ 誕生日 12月8日
芳華の友人の1人。
芳華とは大学で出会った。
千葉県の出身。現在一人暮らし。
気遣いがうまく、芳華のことを心配している。
好きな食べ物は
オムライス、ロールキャベツ
嫌いな食べ物
インスタント食品
第1話
『Yêu nên tốt, ghét nên xấu.(好めばよく見え、嫌えば悪く見える)』
瓦礫の道を歩く芳華
芳華が振り返る
芳華「(今思えば、いつも逃げてばかりの人生だった…)」
朝
芳華がベッドで寝ている。
隣の部屋から母が呼んでいる。
芳華の母「 Yoshika ơi! Dậy đi(芳華!起きて!)」
芳華「お母さん、今日は2限なんだからそんな早く起こさないでよ!」
食卓へつく芳華
キッチンにはベトナム語の書かれた調味料が並んでいる。
父と母がベトナムの精進おかゆを食べている。
芳華「げっ!今日おかゆの日だったのか...」
芳華の父「今日は満月の日だからな。精進料理を食べないと...」
芳香「そんなものを食べてたら元気でないよ!もう!今日はコンビニで買って食べる!」
芳華の母「 Yoshika ăn đi!(芳華、食べなさい!) 」
芳華「うるさいなぁ、そうやってベトナム語で話すからお父さんみたいに上手にならないんだよ!」
家を出ていく芳華
コンビニでチキンを買って食べる。
芳華「お父さんもお母さんも日本に逃げてきたくせにベトナムの文化を続けてるなんておかしいよ。私なんか...」
私なんか...ベトナム人でも日本人でもないのに...
私の両親はベトナムからの難民だ。日本で結婚し、そして私が生まれた。
でも、私は日本人じゃないので日本国籍は持ってないし、ベトナムで生まれてもないのでベトナム国籍でもない。
私は時々わからなくなる。自分がベトナム人なのか日本人なのか...
ベトナム語の勉強はしてこなかったので両親がぎりぎりわかるぐらいのベトナム語しか話せず、ベトナム語を読むことも書くこともできない。
こんな私がベトナム人だって言えるのだろうか?
芳華「コン ビエッ!コン ビエッ ダウ!(わからない、わからないよ!)」
大学へ着く芳華
同期の女の子二人が芳華に手を振る
優子「芳華!」
ひとみ「どうしたの?疲れた顔して?」
芳華「ううん、朝ご飯ちゃんと食べなかったから元気が出なくて...」
優子「だったらさ、午後一緒に食べない?おいしいところ見つけたんだよ!」
芳華「うん!楽しみ!」
午後、大学近くのベトナムレストランにて
優子「芳華...なんでそんなに機嫌悪いの?」
芳華「だって、よりによってベトナム料理だったから!」
ひとみ「ベトナム料理嫌いなの?この店って前に優子といったんだけど、とってもおいしいんだよ!絶対気にいるって!」
ブンチャー(揚げ春巻きの入ったベトナムの混ぜそば)を注文をする三人
ひとみ「これ、とってもおいしいよ。」
優子「そう、こうやって混ぜて...」
芳華「優子、違うよ。これはレンゲと箸で下から持ち上げるように混ぜるの。」
優子「えっ...?」
ひとみ「本当だ...混ぜやすい...芳華なんでしってるの?」
芳華「はっ....」
芳華の心がざわつく
(ベトナム人だって気づかれてはいけない…)
芳華の心のなかでベトナム人だってことをからかわれたり、いじめられたことがフラッシュバックする。
(ベトナム人と思われていいことなんてなかった…きっとこれからも…)
(もしベトナム人だってことがバレたらあの2人にも『外国人』として扱われてしまう。)
(だから、隠し通さなきゃ…日本人のように演じ切らなきゃ…)
優子「芳華どうしたの?難しい顔して…?」
芳華「えっ…あぁ…なんでもないよ!それに優子の混ぜ方を見て、そうしたほうがいいかなって思っただけ!本当に食べ方なんか知らないよ!」
ひとみ「そんなに慌ててなくても…ただすごいなって思っただけ。」
芳華「そうなんだ!なんかごめんね!」
帰り道
2人と別れたあと
芳華(こんなことをずっと続けて…私って幸せなのかな…?でも、どうしたら……)
芳華が家へ帰る
奥の部屋から大音量で音楽が流れている
芳華「お母さん!大きな音で音楽聞かないでよ!うるさいって!」
芳華の母「Hả? Nói gì vậy?(えっ?なんて言ったの?)」
芳華「コン ノイ ラー ギャム アン ルゥン ニャク(音楽の音量を小さくしてって言ったの!)」
芳華の母「Con lại phát âm sai mà(また発音を間違えてるよ)」
芳華「これだからベトナム語で話すのは嫌なんだよ!お母さんも日本語勉強してよね!」
夜
芳華は両親と夕飯でベトナムの精進料理を食べている
野菜と肉似せの炒め物とご飯、野菜のスープ
芳華(あー、本当にまずいなぁ…昼のブンチャーが恋しいわ。)
芳華の父「そういえば、夏休みいつなんだ?一緒にベトナム帰らないか?」
芳華「私はいいよ。面倒くさいし、あんなところ行ったって楽しくないじゃん。」
芳華の父「そんな事言うなよ。芳華もベトナム人なんだし…」
芳華「そんなことない!ベトナム語が下手なのにベトナム人なわけないじゃん!そもそもベトナム人なんか日本でイメージ悪いんだから、同じにしないでよ!」
芳華の父「ごめんな…夏休みはお父さんとお母さんだけで行くから。芳華は留守番を頼む…」
次の日
大学の食堂にて
優子がパンフレットを持っている
優子「ねえ!見てよこれ!」
ひとみ「ベトナムホーチミン市?旅行するの?」
優子「私達3人だったら行けそうだと思って!」
ひとみ「いいね!夏休み行こうよ!」
優子「そうだね!芳華は……?なんかめっちゃ嫌そうだけど……」
芳華「あんたたちさ、ベトナムなんか行ってどうするの?絶対楽しくないよ。」
ひとみ「えー!だって町並みとか綺麗だよ!」
優子「ベトナム料理だって本場はもっと美味しいと思うし!」
優子とひとみがパンフレットを指さしながら説得しようとする
芳華「あのね、パンフレットだからいいことしか書いてないの!」
芳華がムスッとする
芳華「そもそも町並みがきれいったって道路にはゴミがめっちゃ落ちてるんだよ!いつもバイクのクラクションがなってて夜もうるさいし、それに本場のベトナム料理ったってレストランみたいに美味しいのばかりじゃないの!屋台料理はあたることもあるし、半分鳥になってるアヒルのゆで卵とかもあってとっても気持ち悪いんだよ!」
ひとみ「……」
優子「なんで、そんなに詳しいの……?もしかして行ったことあるとか…?」
芳華「……あっ、いや。そういう話をよく聞いてさ。なんかベトナムってイメージ悪いでしょ?だから別に行ったわけじゃなくて…」
ひとみ「芳華、わかったから…」
優子「なんか芳華もベトナム通っぽいし、絶対一緒に行こ!」
ひとみ「だったらパスポートも取らなきゃね!芳華も一緒にパスポート取りに行こうよ!」
芳華「えっ…私、もう持ってるから……」
優子「そうなんだ。海外に行ったことあるの?」
芳華「うん…一応ね…」
芳華(そう、私にとっては国へ帰っただけなんだけどね…それに……)
優子「安いチケットがあったら教えるよ。」
ひとみ「うん!芳華もベトナムのこと教えてね。」
芳華「……」
家へ着く芳華
引き出しを開けると茶色の表紙のパスポートのようなものが出てくる。そこには『再入国許可書』と書いてある。
芳華(あの2人はちゃんとパスポートがとれていいなぁ……)
静かに泣く芳華
ピピピピピッ!ピピピピピッ!
突然、芳華の携帯が鳴る
芳華「もしもし?」
フィー「 Alo Yoshika!(やあ、芳華!)」
芳華「フィー!?」
ホーチミン市に住む従兄弟からの電話に驚く芳華
フィーと芳華は時間を忘れて会話をする。
芳華(フィーは本当に優しいな…いつも辛いときに私を助けてくれる…)
フィー「 Khi nào về Việt Nam?(いつベトナムに帰るの?)」
芳華「コン ビェッ...ニュンマー エム ムゥン ガップ アン....(わからない…でも、会いたいよ…)」
フィー「 Vậy, hãy đến Việt Nam nghỉ hè nhé! ba cua em cũng đến phải không?(じゃあ、夏休みおいでよ!おじさんたちも来るんだろ?)」
芳華「……」
フィーとの電話が終わり考える芳華。
窓からは少し欠けた月が見える。
芳華(フィーと話しているときは本当の自分になれる気がする…)
芳華(でも、本当の私って…何なんだろう…)
芳華(もしかしたら、ずっと逃げてきたベトナムにその答えがあるのかもしれない……)
朝
芳華「お父さん、私…ベトナムに行くよ。」
芳華の父「そうか、でもどうしたんだ?」
芳華「別に…」
芳華の父「そうか、しばらく芳華とベトナムに帰れてなかったからお父さん嬉しいよ。」
芳華「でもね!私も子供じゃないんだし、ベトナム行ったら自由にさせてもらうから!それが条件!いいよね?」
芳華の父「ああ、わかった。」
芳華の部屋。
机に向かって何か書いている。
芳華「ふふふ……我ながら完璧!」
旅行計画の2冊のノートを見て笑う芳華。
数ページにわたって緻密にスケジュールが書かれている。
場面が大学の学食に変わる。
芳華が1冊の旅行計画のノートを見せる。
芳華「ねぇ!これ見て!」
ひとみ「え!なになに?」
優子「すごーい!芳華が全部調べたの?」
芳華「まあね、私の情報網にかかれば余裕よ!」
ひとみ「なんか、芳華楽しそうだね。」
芳華「そんなことないよ!ただ海外に行くにはこれぐらい普通だって!」
優子「でも、日本と違って海外だと予定通りバスとか電車とか来なかったりするんじゃない?」
芳華「大丈夫!ベトナムはタクシー移動が一般的だし、日本よりも安いんだよ!」
優子「そこまで知ってるって、芳華絶対行ったことあるでしょ?」
芳華「….」
優子「あ、なんか….ごめんね…?」
芳華(ちょっとはしゃぎすぎちゃったな…もしかしてベトナム人だってバレたかも….)
ひとみ「で、でもさ、こんなに詳しいんだから芳華がいればきっと大丈夫だよ。」
芳華「うん….なんか、はしゃぎすぎちゃってごめんね?」
優子「そんなことないよ!私だって旅行計画を見てワクワクしちゃってたし!」
家へ帰る芳華、学校では見せなかったもう一冊のノートを開く
芳華「これで、うまくベトナムの実家へ行く時間や親戚と会う時間も確保できた….実家に帰るのと観光案内を両立させるのは大変だったな….」
もう一冊のノートには芳華と優子とひとみたちが泊まるホテルから10kmほど離れた実家へ帰る計画が書いてあった。
芳華「私はベトナム人だから大丈夫だよ….」
芳華は窓の外を見る。
芳華「日本ってベトナムと比べるととっても静かだよなぁ….」
芳華はぎゅっと膝を抱える。
芳華の目には涙が浮かぶ。
芳華「優子とひとみに私がベトナム人だって言えたら、もっと楽しいのかな…?」
芳華「…」
芳華の脳裏にノイズのようにいじめられた時の出来事が走る。
芳華「やっぱ…駄目だよ….そしたら私….一人ぼっちになっちゃうから…」
ベトナム旅行当日
空港で芳華はとても機嫌が悪い様子。芳華の母親と父親は心配そうに見ている。
芳華の父「なぁ、どうして怒ってるんだ?」
芳華「だってさぁ!」
芳華はチケットを見せる。
芳華「なんで、お父さんとお母さんと一緒なわけ?座席は私が決めるって言ったじゃん!」
芳華の父「お父さんがまとめて予約したんだからしょうがないじゃないか。」
芳華の母「Đi chung gia đình là bình thường mà con ?(家族と一緒に行くのは普通でしょ?)」
芳華「オンアーオ、マー!(お母さんうるさい!)私の友達もいるんだから絶対に他人のふりしててよね。もー最悪!」
芳華の父「ちゃんと、実家には戻るんだよな?あぶないことはするなよ?」
芳華「わかってるって!もうすぐ友達と待ち合わせだから、じゃあね。」
芳華は優子とひとみの待ち合わせ場所へ行く
芳華「優子!ひとみ!」
優子「あ、芳華!」
ゆうこ「チケットどうだった?隣の席買えた?」
芳華「それがね、なんかうまく予約できなくって違う席になっちゃってさ…しかも隣が外国人だよ…」
ゆうこ「えっ、隣に座る人わかったの?」
芳華「えっ、あぁ、駅で外国人が座席の話してて、それでたまたま聞いちゃったんだよね。」
優子「へえ、芳華って英語上手なんだ!すごい!」
芳華「ええっと、そうだね。まあ、ちょっとは….」
ひとみ「そろそろ、チェックインしなきゃやばいんじゃない?急ごう!」
芳華「うん」
チェックインを済ませた3人
搭乗口で飛行機を待っている。
優子「芳華?そういえば、私たち何を観光するの?」
芳華「えっと、郵便局とか教会、あとはベンタン市場っていう有名な市場に行くよ!夜はナイトマーケットやグエンフエ通りのイルミネーションとか!」
優子「へぇ!なんかすごく楽しみ、私もひとみも海外旅行は初めてだし、芳華だけが頼りだよ!」
ひとみ「本場の料理とかも食べたいよね!」
芳華「本場かぁ…屋台とかだと食中毒になることもあるし、きれいなレストランだったらいいと思うよ!」
ひとみ「あとさ!あれ!ベトナムの民族衣装の….なんていったっけ…?ア…ア…」
芳華「アオザイのこと?」
ひとみ「あぁ!そう、それ!それも着てみたいな。」
芳華「うーん、市場に行けばあると思うけど、あとでちょっと調べるね。」
ベトナムにつく3人。
入国チェックを受ける。
そのあと機内預け荷物を待つ。
優子「芳華の荷物遅いね。」
芳華(だから優子とひとみの隣が良かったのに!)
芳華の母「Về nhà trước con(先に家へ帰ってるわね)」
芳華「あっ、ねえ!」
母を睨みつける芳華
ひとみ「だれ?あの人?」
芳華「あっ、ええ、飛行機で隣だった人みたい。よく聞き取れなかったけど….はは…」
優子「あ!あれ、芳華の荷物じゃない?」
芳華「あ!本当だ!」
空港を出てタクシーでホテルへ向かう3人、
ホテルはベンタン市場の北側の通りにあるホテルだった。
近くには博物館や歴史的な建物がたくさんあり、町中にヘリコプターや飛行機が飾られている。
昼過ぎでバイクが多くひっきりなしにクラクションの音が鳴り響く。
道には行商がお土産物や食べ物を売っている。
ひとみ「あー!タクシーに乗ってても生きた心地がしなかった!だってバイクがすれすれで通るんだもん。」
優子「日本と違って交通ルールがないのかな?それにしてもみんな運転上手だよね。」
芳華「一応交通ルールはあるんだけど、バイクや車が多いからごちゃごちゃになっちゃうんだよ。」
ひとみ「でも、本当にきれいな街だね。それに思ったほど暑くなくてよかった。」
芳華「そう?でも、結構じめじめしてない?」
優子「なんか、芳華楽しそうだね。」
ひとみ「なんか、とっても生き生きしてるよ!」
芳華「そうかな?」
サイゴン中央郵便局へ着く3人、郵便局の目の前にはサイゴン大聖堂が見える。
天気も晴れていて青空が広がっていてる。大都会なのに東京とは違って窮屈な感じがしない。
ひとみ「わぁ~!とってもきれいなところだね!」
優子「ベトナムの建物ってもっと中国っぽい感じだと思ってたけど、ヨーロッパの建物みたいなのも多いんだね!」
芳華「ベトナムは昔、フランスの植民地だったからその影響でヨーロッパみたいな建物が多かったんだよ。」
優子「へぇ!じゃあ、いろいろなところに飛行機やヘリコプターがあるけどあれもフランスが置いてったものなの?」
芳華「あれは、アメリカのだよ。ベトナム戦争のときの。」
優子「そういえば、ベトナムってどうして戦争してたの?」
芳華「ベトナムって昔、韓国と北朝鮮みたいに分かれてたんだよね。その片方をアメリカが手伝って戦争になったの。でも、アメリカが手伝った方は負けちゃったんだ。」
優子「へぇ!アメリカに勝つとかベトナム人てえぐくない?」
芳華「うん…..」
芳華はうつむく
芳華(私の家族はその負けた側のベトナム人なんだけどね…..)
ひとみ「ねぇ、なんかのど渇かない?ずっと外にいたら暑くなっちゃって…」
芳華「そうだね。そういえば、ベトナム人ってフランスパンのサンドイッチを食べるんだよ。なんか飲むついでに食べよ!」
優子「それってバインミーのだよね!?めっちゃ食べたい!」
カフェでバインミーとミルクティーを飲む3人。
突然芳華の電話が鳴る。
芳華「ちょっとまってね!」
外へ出る芳華。
芳華「ちょっと、おかあさん!なに?」
芳華の母「Yoshika, con về nhanh đi!(芳華、はやく帰ってきなさい)」
芳華「今、友達を案内してるから無理!」
芳華の母「Mọi người chờ con đó! về nhanh đi con!(みんな待ってるのよ!はやく!)」
芳華「わかったよ!」
電話を切る芳華。
(2人にいいわけを考えなきゃ….)
ものすごくイライラした顔でカフェへ戻る。
ひとみ「どうしたの?」
芳華「なんか空港から電話があって、今から空港へ行かなきゃならなくって…」
優子「えっ!大丈夫?」
芳華「たいしたことないっぽいんだけど、ちょっとここで待ってくれる?遅かったらホテルへ帰っていいから。」
ひとみ「いいけど、私たちも一緒に行こうか?」
優子「海外なんだし、本当に1人で大丈夫?」
芳華「大丈夫、ちゃんと計画立ててきたし、ちょっと待っててね」
カフェから飛び出す芳華、配車アプリで呼び出したバイクタクシーに乗る。
40分後、実家へ着く芳華。
白い壁の大きな家で、入り口の前に格子でできた門がある。
芳華「お母さん!お父さん!帰ったよ!」
芳華の父「おかえり、みんなに挨拶してきなさい。」
芳華「挨拶したら、もう戻っていい?友達待たせてるんだけど。」
芳華の父「夕飯を食べてかないのか?」
芳華「いらないよ。友達と食べるから。」
芳華の父「わかった。でも、明日は一緒に食べるんだぞ!」
芳華「分かったよ。」
家族に挨拶を済ませる芳華。
いろいろベトナム語で話されるが、ほとんど聞いてなく、適当に返事をしていた。
すぐに配車アプリでバイクタクシーを呼ぶ芳華。
しかし、夕方のラッシュに巻き込まれ、思ったより時間がかかってしまう。
実家を出てから1時間後、ようやくカフェの前に戻る。
芳華(2人がいない!?ホテルに帰ったのかな?)
携帯を見ると優子からメッセージがあった。
芳華(ホテル近くで夕食を食べてるのか…どこのレストランかな)
ホテル近くまで戻る芳華。
優子「おーい!芳華!」
芳華「えっ!?2人とも何やってんの!?」
優子とひとみは屋台でごはんを食べていた。
低いテーブルにお風呂場で使うような小さい椅子にすわっている。
日本と比べると遙かに衛生環境が悪い屋台でブンボーを食べている。
優子「なんか、バインミーだけじゃ物足りなくってさ…いつも芳華に頼ってばかりだから、私たちだけでチャレンジしたんだ!」
ひとみ「これ、すっごくおいしいよ。豚足とかいろいろ入ってるし。」
芳華「…..」
優子「芳華も食べる?私注文するよ?」
芳華「いや、わたしは….」
優子「おばちゃん!これ(ブンボーを指さす)ひとつね(指を一本立てる)」
芳華(ベトナム人相手に日本語とジェスチャーのみで注文してる….適応力高すぎでしょ!)
芳華の前にブンボーが出される。
芳華(よりによって、嫌いなブンボーかよ….どうしよう….)
ひとみ「大丈夫?空港行って疲れちゃった?」
優子「今さっき戻ってきたばかりだもんね。無理して食べなくてもいいよ。」
芳華は1/3だけブンボーを食べて3人はホテルへ帰った。
その日の深夜、優子とひとみは食中毒になった。
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