「芳華、国へ帰る」3話【創作大賞2024 漫画原作部門応募作品】
3話
『Tháng năm đi trước, tháng năm chẳng ngược về sau(年月は前にのみ進み、決して後戻りはしない)』
芳華は昨日のことをちょっと後悔していた。
2人があれから芳華のことを『フンホア』と呼ぶからだ。
でも、本当の自分を知ってもらえて心のもやもやや寂しさはなくなった。
ひとみ「前から思ってたんだけどさ、フンホアって本当にきれいな髪してるよね。」
優子「とってもつやつやしていてるよね。私って癖っ毛だから本当にうらやましいよ。」
芳華「そうかな?私よりお母さんの方がきれいだよ?やっぱり私って日本人と髪質が違うのかな?」
優子「てか、なんで髪下ろさないの?こんなにきれいな髪してるんだしさ。」
芳華「小学生のときに女子によく触られたり、男子に引っ張られたりしてたんだよね。それで髪質でベトナム人ってバレるかなって思って…」
ひとみ「そうなんだ…つらいこと思い出させちゃってごめんね….」
芳華「大丈夫!もう昔の話だし、こうやって褒めてくれる人もいるんだから!」
芳華はにこっと笑う。
芳華「あとさ、フンホアって言わなくていいよ?別にどっちで呼ばれたって私は私なんだから!」
優子「だってフンホアって呼びたいんだもん!せっかく昨日『フンホアちゃん』とも出会えたんだし。」
芳華「…へんなの….」
芳華は恥ずかしそうに笑う。
ひとみ「そういえばさ、フンホアってベトナムにいるとき何食べてたの?おすすめの店とかある?」
優子「そうよ!日本人じゃ絶対に知らない究極のベトナム料理!そういうの食べてみたい!」
芳華「あるにはあるけど….よかったら一緒に行く?」
優子「行く!」
3人はタクシーに乗りトゥドゥックのダンバンビー通りへ向かった。そこにはフォーフィンという店屋があった。
いかにも大衆食堂のような趣で、外国人は一人もいなく、ベトナム人がテーブルで黙々とフォーを食べている。
芳華「ここだよ」
優子「そう!そういうのだよ!私こういうところで食べるのが夢だっんだ!」
ひとみ「なんか本当のベトナム料理って感じがするよ!」
芳華「コ―オイ!バート―フォーダックビエッ(おばちゃん、スペシャルフォー3つ!)」
フォーフィンのおばちゃん「 Ừ (はいよ!)」
三人の前にスペシャルフォーが運ばれてくる。
透き通ったスープに牛肉や肉団子、牛すじのコラーゲン部分が入ってる。
別皿には青々とした香草や、のこぎりコリアンダー、もやしが入っている。
優子「おぉ!何これ!本当にフォー!?」
ひとみ「においからおいしいって分かるよ!」
芳華「2人とも、食べる前にレンゲや箸を拭いて?」
ひとみ「なんで?」
芳華「こうやって道路に面しているし、ほこりが付いてるかもしれないから。それに、ちょっとしたベトナムのマナーだよ。」
優子「へぇ!本当に現地の人みたい!フンホアって本当に何でも知ってるね。」
芳華「だって、ベトナム人だもん!」
3人はフォーを食べる。南部の味付けらしく、シナモンや八角のような漢方特有の癖はなく、牛肉本来の甘みが引き立つ優しい味だった。
フォーの麵が柔らかいのに対して、もやしはしゃきしゃきしており日本の麺料理とは異なる食感だった。
優子「あー!おいしい!こんなにおいしいフォーを食べたのはじめて!」
ひとみ「芳華!本当にありがとね!」
芳華「私こそ、ありがとう!ここの店って私のお気に入りだったから2人に紹介できて嬉しい!」
3人はフォーを食べ終わる。優子とひとみはスープまで飲んでしまった。
優子「この後はどこか行くの?」
芳華「それなんだけどさ….私の家に来ない?」
ひとみ「え!フンホアの家!行ってみたい!」
3人は芳華の家へ向かった。
ひとみ「ここがフンホアの家?とっても大きい家だね!」
優子「もしかして、フンホアってベトナムでお嬢様クラスの人….?」
芳華「そんなことないよ。さあ、入って!」
家に入ると芳華の家族と親戚がやってきた。
芳華の母と父が心配そうな顔をしている。
芳華「コンシンローイモイグーイヴィーコントイチェー、ヴィーコンムンヤンバンクゥコントーイ…(みんな、帰るのが遅くてごめんね。私の友達も連れてきたかったからさ…)」
芳華の母「Yoshika, con đã nói con là người Việt Nam cho hai đứa bạn con hả?(芳華、2人にベトナム人だって言ったの?)」
芳華「ヤァ!(うん!)」
芳華の母は笑顔で優子とひとみの方を見た。
芳華の母「コ、コンチワ….!」
芳華「あー!お母さん!こういうときだけ日本語で話すんだ!いつもベトナム語で話すのに!」
みんながドッと笑う。
その奥にフィーがバツの悪そうに立っている。
芳華「フィー!」
フィー「Yoshika, anh xin lỗi chuyện hôm qua nha..(芳華….昨日はごめん…)」
芳華「コンサオアン!(大丈夫だよ!)」
ひとみ「えっ?この男の人は誰?もしかして….」
芳華「従兄弟のフィーだよ!来月結婚するんだって!」
芳華がニヤニヤする。
優子「なんだ、従兄弟か!芳華の彼氏にしてはパッとしないなって思ってたんだよね!」
芳華「私の従兄弟になんてこと言ってんの!あはは!」
笑い合う3人。フィーも照れくさそうに笑っている。
芳華の家で夕食を食べた後、3人は家をでる。
芳華「じゃあお父さん、お母さん。また空港でね。」
芳華の父「優子さんとひとみさんに感謝してます。これからも娘をよろしく頼みます。」
ひとみ「大丈夫ですよ!芳華さんが私たちを守ってくれてるので!」
芳華「そうよ!屋台で当たったときどうしようかと思ったんだから!」
優子「それは言わない約束でしょ!」
ホテルをチェックアウトする前にベンタン市場のナイトマーケットで買い物をする3人。
お土産を買ってあっという間に帰りの便の時間がやってきた。
空港で芳華の両親と合流する3人。
搭乗口で座って飛行機を待っている。
ひとみは疲れて寝ている。
芳華もうとうとしてきたとき。
優子「芳華、ときにはフンホアに戻っていいんだからね….」
芳華「どういうこと…?」
優子「ベトナム語で話している芳華、とってもかっこよかった。日本じゃいつも『芳華』でいるかもしれないけど、私たちの前では『フンホア』に戻ってほしいな。」
芳華「うん…ありがとう…優子….」
優子「あと、今度ベトナム語教えて。私も芳華の家族とベトナム語で話したい。」
芳華「….いいよ…」
飛行機に乗り日本に着いた。
日本はもう夜明けで、日が昇り始めていた。
ひとみ「やっと日本に着いた!」
優子「長かったようであっという間だったね!」
芳華「でも、とっても楽しかった!」
入国審査へ続く長い廊下を歩いていく。
廊下の上に『おかえりなさい』と書かれた看板が掛かっている。
優子「ただいま!」
ひとみ「あはは、優子ったら!」
優子「3人で『ただいま』って言おうよ!」
芳華「…..私はいいよ」
ひとみ「えーなんで!」
芳華「私、ベトナム人だし….」
優子「なにいってるの!芳華はベトナム人だけど、日本人でもあるんだから『ただいま』って言っていいんだよ!」
ひとみ「そうだよ!日本にもちゃんと帰る場所があるじゃない!」
芳華「…そうだね…」
優子「じゃあ、手繋ご!」
手を繋ぐ3人。
芳華、優子、ひとみ「ただいま!」
『芳華、国へ帰る(ベトナム旅行編)』 完
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?