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マロオケのこと vol.8

熊本のことは書いておかなければならない。

マロオケはマロさんの故郷である北九州の国際音楽祭でデビューしたとはいえ、熊本のオーケストラ創造がこれまでに4度公演している。

マロオケは熊本があるからこそ、マロオケとしてコンサートができたと言っても過言ではなく、それもモーツァルト、ベートーヴェンの交響曲など数多くを演奏してきたのだから、熊本がホームだと言ってもいい。

オーケストラ創造とは熊本にプロオーケストラを創ろうと考えているNPOで、その代表の坂本さんのプロデュース力で熊本のマロオケ公演が続いた。そして、今後もまだ企画されている。

だから、マロオケの生演奏を聴いたことがあるひとは熊本に最も多く、東京ではマロオケの存在は噂にはなっていたけれど、実際どういうものか知るひと少ない。

そのためマロオケファンは熊本にいて、今回の東京初公演もいち早くチケットを買ってくださった方は多い。

そんな熊本に大きな地震があって、マロさんをはじめ、マロオケメンバーも熊本を心配する気持ちは強い。

わたしにとっても熊本は思い出の場所で、それだけでなく数年過ごした土地だから人生の一部となっている。

マロさんに初めて会ったのも熊本だった。それはオーケストラ創造の坂本さんが連れて来てくださったからだが、当時、坂本さんだってご自分がオケ創を立ち上げるとは思っていなかっただろうし、わたしだってまさか自分がマロオケを主催するとは思っていなかった。しかし、人の生は時間が進み、時が積み重なることで結果として思いもよらぬことになるものだ。

その頃はマロオケすら存在しておらず、マロさんはNHK交響楽団に抜擢される前の読響コンマスをされていた。

マロさんは今でも王子ホールのマロワールドでのトークはおもしろいし、つまり話そのものがおもしろい。

音楽とは演奏が技術的に上手いだけではつまらなく、その人間性、すなわちキャラがおもしろくないとひとを惹きつける演奏はできないと思う。

他とは明らかに違うものを持つこと。これがあるかないかが分かれ道で、そのひとだけにしかないキャラクターがあるからこそ、ひとはお金を払ってでもその音を聴いてみたいと思う。

ありきたりなものには感動しない。自分が容易に持ち得るものには感動しない。こんなものは見たこともなく、こんなキャラは自分には無理だし、普通じゃないよな、というものにこそ、ひとは感動する。

そうした普通ではないキャラを意図的にやろうとするのではなく、どこを切ってもそのキャラのままという、そのひとの存在が普通じゃないんだというところが魅力となる。

日本は同調圧力が強いから、同調しないオリジナリティを醸し出し、それを続けるのはそう簡単ではない。大抵のひとが同調圧力に怖気づいてしまって、他人に合わせようとする。

ところがマロさんはどこから見てもマロさんで、同じものはこの世になく、MARO自体がオリジナリティになっている。だから多くのひとが魅了される。

演奏は上手い奏者はたくさんいるが、マロさんが他と違って特別な存在なのはそこだと思う。

熊本でマロさんに初めて会ったとき、今でもよく憶えているのはマロさんがわたしにこう言ったことだ。

「コンサートマスターの仕事はね、みんなから嫌われることだよ」

それは読売時代のマロさんだから、コンサートマスターとしては今は違っているかもしれない。

ただ、嫌われることを恐れていたら、キャラなど確立できないし、自分を見失ってしまう。

ところで、熊本の繁華街である下通りに「オーデン」というビアホールがある。もう長い間、熊本を訪れていないわたしが熊本を訪れることになったとしたら、真っ先に行きたい店だ。

この店はベルギービールを始め、ビールの品ぞろえがよく、ソーセージが実においしい。そして、ドイツの火酒である「シュタインヘーガー」を冷凍庫でキンキンに冷やしたものをボトルで出してくれるのがうれしい。

今は知らないが当時、この店には専属のアコーディオン弾きがいて、いつもその生演奏が聴けた。

皆でビールを飲んでいると、マロさんはバイオリンを取り出し立ち上がった。そしてアコーディオン弾きに何やらコードのようなものを告げると、G線を響かせた。チャルダーシュだった。

ウィーン仕込みで、読響のコンマスという実力者がビアホールでいきなり弾き出すのだから、そこにいたお客さんはびっくり。音楽のことなど知らなくても、本物の音のすごさはひとを瞬間的に感動させる。

オーデンにいた客が手拍子をし、エキサイト。歓声が飛び交う中でマロさんはチャルダーシュを弾き終わると、アルフレッド・ハウゼのコンチネンタルタンゴの名曲を次々と弾き出した。

大興奮。熱狂。歓喜。

わたしは音楽とはこんなに楽しいものかと思った。あの熊本の、オーデンでの一夜は忘れられない。

熊本でマロオケを初めて聴いたひとたちは、きっとあのときわたしが感じた興奮と喜びと同じものを感じたに違いない。だからこそ、熊本から飛行機に乗って東京初公演に来てくださる。

地震があったにもかかわらず、サントリーホールには必ず行くというメールも複数わたしはいただいた。

それはマロオケの熊本での演奏がそのひとの人生を変えたからだと思う。

人生を変えるくらい衝撃的なものは大きなエネルギーを生み出し、ひとを強くする。

5月5日にサントリーホールに来たすべてのひとの人生を変えてしまうようなコンサートにしたい。あの日から自分が変わったというパラダイムシフトを生じさせる感動。

しかし、そうなるとわたしは確信している。マロさんをはじめ、マロオケメンバーのこの日にかける思いは並々ならぬものだから、こんなすごい演奏がこの世にあったのかと思うようなインパクトになるのは間違いない。

あと数日で、その感動がわたしたちに訪れる。

                        (vol.9に続く)

マロオケ2016公式ホームページ http://maro-oke.tokyo/

マロオケ2016公式フェイスブック https://www.facebook.com/marooke/

チケットぴあ マロオケ2016 http://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=1540527

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