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あり得ない日常

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2024年6月の記事一覧

あり得ない日常#65

 このどこまでもどんよりと続く雲が晴れることはあるだろうか。  目の前に広がるウミと、水平線までには崖が上陸を阻む島々がちょこちょこと顔を出している。  こちら側はというと、かつてサンミャクと呼ばれていただけあって、ここからしばらくは上りが続き、山を越えて向こう側に出れば、また違う海が広がっているらしい。  今こうして見ているように、もっと高いところからこの地を見わたすことが出来たならば、それはそれは大きな島なのだろう。  かつての文明が残してくれた道やトンネルがそれ

あり得ない日常#64

 人が人工知能技術の発展で得られたものは、自動化と膨大な量のデータを処理してくれる便利な道具、だけではなかった。  半導体の小型化や計算速度と能力を各国が競う。  当然、突出した技術はそのまま軍の力にも見て取れるため、主義が異なる国にとっては脅威以外の何物でもないからだ。  また、プライドが高い民族は一度世界の頂点に立つと、その座を必死に守ろうとするだろう。  そのため、他者からの干渉を異常に嫌う。  国が、ひいては党が認める"優秀な"人物たちの指導の下、人命よりも

あり得ない日常#63

 奥さんの実家に住めるという男性はどのくらいいるだろうか。  農業が中心の貧しい社会から発展を遂げ、一人一人が会社に属することで生活ができるようになった。  国には、給料という実に明確な所得を得る人が多くなればなるほど税金を取り逃すことが無くなるというメリットがある。  また、農産物で高い所得を得ることはそう簡単なことではない。高度な工業や商業を産業として持つことで、全体の所得向上につながるわけだ。  所得が向上すると、割合で決まる税金も当然増える。  そうして、こ

あり得ない日常#62

 新人として駐在所勤務が日常だったが国会が決めた、いわゆる安楽死制度が始まって以来、この制度の窓口へ異動になった。  国民の安心安全を守る仕事、父親の背中を追いかけるようにして自分も同じ職に就いたはずだが、気づいたらまるで最期の番人のようだ。  当時は若かったこともあって何も考えていなかったが、しばらく携わってみてとんでもない場所へ来てしまったと気づいたことを覚えている。  なので、思うところが無いと言えば嘘になるだろう。  制度開始時は、簡単に国民が自ら命を手放すよ

あり得ない日常#61

 この制度が始まった当初、設置が可能な警察署の地下を法の要件を満たすように改装する形で、比較的大きな都市を管轄する建物から随時施設の設置が進められた。  全国の中でも人口密度が高い東京都は、地方に比べると財政に余裕があり、景気もあまりよくなかった背景もあって、ひとつの公共事業として積極的に設置が進んだ。  法の猶予期間中は各区に1か所2か所あれば要件を満たすくらいに設置を急がれたものではなかったが、成人はおろか高校生にも満たない者の線路への飛び込みやビルからの投身が相次ぎ