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「未来の自分へ手紙」超短編小説

3月1日 未来郵便の日
未来郵便制度(未来に手紙を届ける)のアピールのため制定。

「未来の自分へ手紙を書きます。
車も家もすごいの買えるような。
とにかくお金持ちになりたい。
図工と体育くらいしかとりえないけど。
つきあっている人はいるかなあ。
友達とは未来でも仲良しかなあ。
いちばんすきなことを仕事にしてる?
疲れた大人になっていませんように。
しあわせになっていますように。
よろしく未来の自分!」

「未来に期待しすぎな過去のオレへ。
車は中古で家は賃貸。
とりあえず稼いでいるが金持ちではない。
もうあの頃の友達とは会っていない。
うんざりする上司に爆発しそうな日々。
すきなことを仕事になんてできていない。
グレたくなる時もある。
健康だけが取り柄だったのに。
疲れきって倒れそうになる時もある。
こんな未来のオレに過去のオレは満足かな?
んー分からん!」

現実はそんなもんだろ。
それにしても、輝かしい未来を描きすぎだ。
人って、今より未来の方が良くなっていると思いがちだよな。
今より成長して、できる自分になっているのだから、今よりいい人生になっているはず。
そう思い込んでしまう。
未来は輝かしいと期待してしまう。

未来は、今の自分と繋がっている。
今の自分をどうにかしなければ未来だって変わらない。

過去のオレが描いたような、すごい人生にはなっていないけれど。
過去のオレが未来に起こることをあれこれ予想して怖がっていたことは、
実際にはそんなに起こらないし、起きてもなんとなく乗り越えられた。
そんな日々だ。

この手紙を書いた、子どもだった自分を思い出す。
未来の自分へ期待して思い描いたあれやこれ。
その一方で感じる大人になることへの漠然とした不安。

そして一番叶えたいあの願い。
推理アニメや暗号にはまっていたオレは、おまじないのように手紙にその願いを隠した。

ふいにスマホが振動する。
オレの幼馴染であり、恋人でもある、みくからラインだ。
思わず笑みがこぼれる。
大丈夫、一番の願いは叶っている。

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