小木友月

おぎゆづきです。小説と写真を投稿します。自然と古い建築物とミステリーとホラーと考察ものが好き。楽しみたいし楽しんでもらいたいです。

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「おかえり」お盆の哀ホラー読切ショートショート

 寂れた小さな駅から川沿いをゆっくり歩いた。白の軽トラックが頼りないエンジン音をうならせてわたしの横を通り過ぎる。  車通りも人通りも少ない静かな夕暮れ時。一日の終わりのどこかしんみりした空気と、カナカナカナと哀愁を漂わせるヒグラシの鳴き声。   久しぶりに訪れた故郷の風景はまったく変わっていなかった。営業しているのかどうか分からない古びた喫茶店、畑、木々が生い茂ってうっそうとした神社、田んぼ。それらをながめながらのんびり歩いて、やがて一軒の日本家屋にたどりついた。  灰色の

    • 「祠には何もいない」ホラー小説ショートショート

       山道の脇にある、古びた小さな祠。石を積んだ土台と正面には格子戸が付いている。土台を含めても子どもの背丈ほどの高さしかない。  いつからあるのか何が祀られているのか、はっきりしたことは誰も知らない。それでも根付いた習慣により、祠をぞんざいに扱う者はいない。近所に住む高齢者や、たまにやってくる登山者が静かに手を合わせていく。  しとしとと静かに雨が降る中、小学校低学年くらいの男の子が二人、足早に祠にやって来た。彼らはこの辺りを遊び場にしていて、毎日のように山道を二人で駆け回っ

      • 「怖い話を語ろうか」ホラー短編小説読切

         夏休み中に一万字程度の短編小説を仕上げようと決めてパソコンに向き合うこと数日。できるかどうか自信がなかったけれど、やってみたら割とすんなり書けてしまった。  ここまで長い文を書いたのも物語をちゃんと完結させたのも初めてで「わたしって天才かも」と得意げになっていた矢先、主にホラー小説を書いている小説家の叔父から『差し入れでアイスをたくさんもらったよ。よかったら食べにおいで』とメッセージが来たものだから『短編小説書いたから読んで』とすぐさまメッセージを送ってしまった。  あの時

        • 「ぼやけた花火」恋愛短編読切

           講義が終わって荷物をまとめて席を立った時「忘れものだよ」と教えてくれたのが後ろの席に座っていた彼だった。脱いだカーディガンを椅子の背に掛けたまま気づかずに出て行くところだった。 「ありがとう」とわたしが微笑むと彼も微笑んだ。その時はまだ何も意識していなかった。たくさんの、顔しか知らない大学の同期の一人。    講義で一緒になるたびに言葉を交わして大学のカフェで昼食を一緒にとるようになって、少しずつ彼を意識するようになった。夏の終わりにデートに誘われて「付き合わない?」と言わ

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        「おかえり」お盆の哀ホラー読切ショートショート

          「小説家のホラーな一夜」短編小説読切

           書きあげたホラー小説の原稿を担当編集者に引き渡してしまうと、僕は途端に腑抜けになる。締め切りを守って仕事をやり終えた達成感と、終わった解放感もあることはある。  だがしかし。取材や下調べもしっかりと行って創り上げた世界にどっぷりと浸かっていたのに、楽しんでいたおもちゃを取り上げられてしまったような、人の手に渡って僕だけのものでなくなってしまったような、そんな物哀しさを感じて張り合いもなくなり、こうして腑抜けになってしまうのだ。  小説家になって十年は経つが、この感覚がなくな

          「小説家のホラーな一夜」短編小説読切

          「恐怖映像」建物にまつわるホラー短編読切

             暑い……  太陽が人類を殺しにかかっているとしか思えないような強い日差し、それに加えてアスファルトに蓄積された熱がさらに気温を上昇させる。そこから逃れようと木陰を求めれば草木の濃い匂いが鼻孔をくすぐり、セミの大合唱に耳がやられそうになる。  夏真っ盛り。スマホに表示される熱中症警戒アラートにうんざりして、気分だけでも冷ややかになりたいと強めの恐怖を求めてしまう。わたしの場合、年がら年中ホラーを求めているけれど、夏に見聞きするそれは、よりじっとりしたもののように感じて好ま

          「恐怖映像」建物にまつわるホラー短編読切

          「古い神社」建物にまつわるホラー短編読切

          久しぶりに実家に帰り近所をぶらぶらと散歩していたわたしは、なじみのある風景が帰るたびに姿を消していくことに寂しさを感じていた。 通っていた小学校は立派な校舎に建て替えられ、田畑がつぶされ工場が建ち、スーパーや住宅も増え、交通量が増えた。発展するのはいいことかもしれないが、知らない町のようでどこかよそよそしく自分が歓迎されていないように感じてしまう。 懐かしさで胸が震えるような場所はないものかと考えを巡らせていると、町外れにある神社を思い出した。あそこなら昔のままかもしれな

          「古い神社」建物にまつわるホラー短編読切

          「廃墟の落書き」建物にまつわるホラー短編読切

          土砂降りだからしょうがないよね。 わたしは頭の中で、そんな言い訳を繰り返しながら、侵入のタイミングを見計らっている。 廃墟の軒先に立ちつくす、登山用の装備をした一人の女、そして降り出した雨。 どっからどう見ても山登りに来た人が突然の雨に困っているようにしか見えない、うん、怪しくない。 さっきまでわたしは健全に登山を楽しんでいたけれど、雲行きが怪しくなってきたから、まだ遊び足りないものの早めに下山することにした。 山を下り、交通量の少ない国道沿いを駅に向かって歩いていると、雨

          「廃墟の落書き」建物にまつわるホラー短編読切

          「床挿し」建物にまつわるホラー短編読切

          明るく暖かいところで、のんびりと花見でもしたくなるような春爛漫のこの日に、わたしはそれとは正反対の薄暗くじめっとしたところに足を踏み入れようとしている。 しかも花見に行くよりもウキウキしながら。 数日前、「おもしろい物件みつけたよ」と友人から連絡が入った。 友人は不動産関係の仕事をしていて、おもしろそうな物件を見つけると、わたしにこっそり内見させてくれる。 ちなみにわたしとその友人が言う「おもしろい物件」とは、個性的な家とか、間取りが凝っているとか、そういう意味ではない。

          「床挿し」建物にまつわるホラー短編読切

          「夜の帳」連載小説

          わたしにはヨルという知り合いがいる。夜の帳が下りる頃、気まぐれにわたしの前に現れては、役に立つのか立たないのか分からない不思議な話を聞かせてくれる。 その話をヒントに、ちょっとだけわたしの人生が良くなったりならなかったりする、これはそんなお話。 語り手はわたし、聞き手はあなた、今宵は、はじまりの物語。 序章 はじまり 神様は木をつたって天から地に降りてくると知った小学生のわたしは、家の近所にある神社に一人で行っては、大きなご神木を見上げていつもつぶやいていました。 「神様

          「夜の帳」連載小説

          3/31「それぞれの新生活」ショートショート

          もうすぐぼくは、しょうがくせい。 ようちえんにはもういかなくて、しょうがっこうというところにいく。 そこがどういうところなのか、わからないけれど、パパもママも、じいじもばあばもうれしそうにしているから、きっといいところなんだ。 ぼくはしょうがっこうにいくのが、たのしみ。 どんなところなんだろう、はやくいきたいなあ。 春休みは宿題もないし、あったかくなって外でたくさん遊べるし、さいこう! でももうすぐ新学期。クラス、どうなるかな。 仲良しのあの子とは同じクラスになれるかな。

          3/31「それぞれの新生活」ショートショート

          3/30「あなたの頭の中のイメージ、当てます」ショートショート

          「今日はマフィアの日ということで、マフィアをイメージしてもらいます。いいですか、目をつぶって、頭の中でマフィアが高級そうな革のソファにどっしりと座っているところをイメージしてください。できましたか、ではあなたのイメージを今からわたしが当ててみせましょう。 あなたのイメージしたそのマフィア、葉巻吸ってますよね?」 「吸ってる!」 「うわあ。すごい」 「当たってる!」 「まふぃあ?いめえじ?」 ぱちぱちぱちと拍手が起こってオレは成功したことにほっとする。 こんなもの超能力でも何

          3/30「あなたの頭の中のイメージ、当てます」ショートショート

          3/29「サイコパス?」ショートショート

          「これに似たような話、ネットで見たことある」 「あれだろ、サイコパス判断みたいな」 「そうそれ。夫の葬式のとき、葬儀会社の社員に一目ぼれした妻が、その後、我が子を殺しました。さてなぜでしょう?」 「サイコパスの答えは、子どもの葬式で葬儀会社の社員にまた会えるから」 「サイコパスじゃない人の答えは何?」 「恋するのに子どもが邪魔だから」 「それもそれで怖くない?」 「うーん、確かに」 「ちなみに、この妻はどういう行動をとるのが正解なの?」 「まずはその葬儀会社の社員本人に連絡

          3/29「サイコパス?」ショートショート

          3/28「サイダーと魔法使い」ショートショート

          しゅわわわわ。 氷の入ったコップにサイダーが注がれて、炭酸がはじける音が耳をくすぐる。 コップの中でゆれる泡がきれいで、幼いわたしは夢中になってそれを眺めている。 「よし、じゃあお父さんが今から魔法をかけます」 ちちんぷいぷいのぱっ! お父さんが魔法をかけると透明だったサイダーが緑色に変化する。 「メロンソーダみたい!」 わたしははしゃぐ。そんなわたしを見てお父さんは満足そうに目を細める。 緑色のサイダーは透明だったサイダーより甘さが増して、わたしはその甘さのとりこ。 こんな

          3/28「サイダーと魔法使い」ショートショート

          3/27「夜桜とうんちくを語る女性」ショートショート

          近所にちょっとした桜の名所があるが、混んでいる日中にいくより、人が少ない夜に見に行くのがオレは好きだ。 ちょうど夕食後の暇な時間を持て余していたのでふらりと散歩がてら見に行くことにした。 桜は昼と夜では違った表情を見せてくれる。 昼の桜は、清楚でかわいらしいイメージ。柔らかい薄ピンクに心も華やぐ。 しかし夜の桜はライトアップされてほんのり紫色に見えてしっとりと色っぽい。 そんな夜の桜をうっとりと眺めていると、ひとりでふらふらと歩く女性がこちらに近づいてくる。 「こんばんは

          3/27「夜桜とうんちくを語る女性」ショートショート

          3/26 「さすがです品子さん」ショートショート

          オレの彼女の品子は料理がうまい。 食品サンプルの会社に勤める品子は、良いサンプルを作るためにとても勉強熱心。 おいしそうなサンプルを作るには、おいしい料理をよく見て観察することが大切と考えているから、料理の研究も欠かさない。 料理の色つや形を研究するためにたくさん料理を作り、オレにもたくさん食べさせてくれる。それのうまいことうまいこと。 オレは品子がいないと生きていけない体になった。いや本音を言えば品子の料理がないと、だが。完全に胃袋をつかまれたってやつだ。 欲を言えば3

          3/26 「さすがです品子さん」ショートショート