ゆでたまご
元夫は、ゆでたまごが好きだった。
私が溶きたまごやスクランブルエッグを作っているのを見ては「それは残虐だ」と言った。
以来、彼と一緒に食事をする時には、黄身と白身を混ぜない調理方法でたまごを食べることにした。
彼の部屋の冷蔵庫にたまごを常備するようになってからは、少し小腹が空くと、おやつ感覚でゆでたまごを食べたがった。
「何個食べる?」と聞くと、「ひとり2個は欲しいな」と答える。
それはさりげなく「君も2個食べていいよ」という許容範囲を示している。
彼の言葉通り、ひとり2個ずつで4個茹でることもあれば、「私は1個だけ食べたいから、3個にするね」ということもあった。
好みの茹で具合は、ふたりとも固茹で。
彼宅のガスコンロの火力のせいか、我が家の固茹で時間基準で茹でたら、半熟になってしまった。
ゆでたまごにつける塩は、私が彼の部屋に持ち込んでいた、ピンクの「ヒマラヤ岩塩」を挽いて使うのが好きだった。
塩用の小皿をテーブルに置くと、彼は楽しそうに岩塩を挽いた。
一緒にゆでたまごを食べるたびに、彼は、黄身と白身の味が、それぞれハッキリとわかるのが好きなんだと感じた。
それに、もしかしたら、たまごをかき混ぜるのが残虐だというのは、宗教的な教えでできた価値観かもしれない。
スクランブルエッグの代わりに、たまごを揚げ焼きして、目玉焼き風のものを作ったりもした。
「これも悪くないけど、やっぱりたまごは茹でて食べるのが好き」と言っていた。
ゆでたまごを食べる時の彼、とても楽しそうだったな。
※ここに登場する彼とは、事実婚で通い婚(別居婚)という関係でした。
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