アナログな世界の君②
これでやっと乗れる。
普通だったらここまで時間が掛かるものではない
「ダイヤル式が使えるなら、押すだけのタイプの方が楽だろう……
さぁおばあさんにかけて迎えに来てもらおう」
「そうですね……お母さんの電話番号は分かりますが……おばあちゃんの電話番号は分かりません……」
そこが重要だろうに。
お母さんに連絡を取って、おばあちゃんの連絡先を聞けばいいな。
「けどお母さんは連絡されても多分取れないわよって……言ってました」
彼女は弱弱しく言った。
そこに何かあるのか……。
連絡が取れないかは確かめるまで分からない。
僕はとりあえず公衆電話まで連れていき、お母さんに電話を掛けさせることにした。
受話器を取り、電話番号を押している。
受話器を耳に当てて、少ししてなにもしゃべらずに降ろしてしまった。
繋がらなかったみたいだ。
「言わなくても結果は分かるけどこれからどうするんだ?」
「どうしましょう……おばあちゃんが渋谷で待っています……」
別にこの子を放置していくのは簡単だ。
これ以上面倒を見ても、面倒くさい事になりそうだ。
僕は彼女を置いて立ち去ろうとした。
「うーんこれ以上はなにもできないから……ごめんね」
少し歩いて後ろを振り向いてみると、彼女がこちらを見ていた。
目が訴えている。
“ここまで話したのになにもしてくれないんですか”
両手は前にし、握りしめていた。
仕方ない……なにかの縁だと思って助けてあげるか。
そんな顔をされたらこっちが悪いみたいじゃないか。
僕は振り返りとぼとぼと彼女の所に戻った。
「良かったです……見捨てないでいてくれて……」
彼女はそう言ってはいるが、そんな生易しい目ではなかった。
「いや……見捨てないとというか…半場強制的というか……」
僕はジトっとした目で彼女を見ながら言った。
頭を掻きながら彼女が次に何をするか見ていた。
すると切符売り場を指を指し、また目で訴えかけてきた。
“切符の買い方が分かりませんので買って来てください”
そんな風な目をしていた。
あげていないもう片方の手はしっかり握りしめて。
目では強い事を訴えているが、内心はこのまま見捨てられるのではないかと怖がっているのかもしれない。
「渋谷までの切符でいい?というか渋谷で合ってるんだね?」
僕は彼女に確認をした。
彼女がもしかしたら間違っているのかもしれないし。
「合っていますから早く買って来てください」
命令口調に近い言い方で彼女は催促してきた。
やはり手は握りしめられていた。
「そこまで怖がらなくていいから…普通にしていいんだよ
けど初対面の人にももう少し敬意を払うべきだよ」
僕は諭すように彼女に言った。
彼女は少し嫌そうな顔をしていた。
「敬意……払っているつもりです
では切符を買って来てください」
僕はしぶしぶ買いに行った。
お金は渡されなかったので僕の財布からそのお金が出ることになった。
切符を買い彼女の元に戻ってみると、巾着袋を布製のカバンから取り出している所だった。
どうやらお金は返してくれるみたいだ。
巾着袋には十分お金が入っていた。
お金はしっかりと渡されていたみたいだ。
そうでなくては困る。
今思えば服装も袴のような……時代錯誤だった。
「いくらでしたか?お金は返そうと思います」
そこはしっかりと改まったような風貌だった。
「そんなに掛かるものではないからいいよ
その気持ちだけで大丈夫」
僕は彼女に切符を手渡した。
素直に彼女は巾着袋をカバンに戻した。
「ではお言葉に甘えておきます」
彼女はなぜこんなにかしこまっているんだろうな。
もう少し砕けてくれた方が僕は嬉しいんだが。
少しやりずらいところがある。
ここまで話していてまだ名前も知らない間柄なのが悪いのかもしれない。
これから何かあった時に、呼びづらいから名前は把握しておくべきだな。
「そういえば名前を聞いていなかったな……教えてくれない?」
僕は彼女の目を見て聞いた。
「私の名前ですか?
私は……千代って言います」
少し恥ずかしそうに彼女は言った。
なぜそこを恥ずかしそうにいうのか分からないが。
「千代か
いい名前だね……僕は聡だよろしく」
社交辞令をいい、僕の自己紹介をした。
千代は慌てたように返事をしてきた。
「はふい!よろしくお願いします!」
そぶりからも慌てているような雰囲気だった。
こういうのに耐性がないのかな。
耐性ってなんだろうな。
お互い自己紹介も終わった所で、目的地である渋谷を目指す。
渋谷までという短い間だが、意外とこういうのでわくわくしている自分がいた。
女の子としゃべるのは久しぶりだし、ましてやよく見たら千代は可愛い。
「じゃあとりあえず改札を通してホームに行こうか」
知らない間に僕は千代の手を取り改札の方に向かっていた。
僕がその手に気が付いたのは改札に着いた時だった。
「あ、あの……手……手を……」
千代は顔を真っ赤にして僕の後ろにいた。
僕は外では平常心でいるように見えるが、内心は心底おどおどしている。
その心象がばれないように手を離した。
「ごめんごめんついついね
早くホームに上がらないと電車来るからね」
「そうですよね……早くしないといけないのね
私が遅いから悪いですよね」
千代は少し悪そうにしながら、手を胸の前に握り顔を背けていた。
僕は改札を通り、千代を待った。
千代は僕の後をついてきていたはずなんだが、いつの間にか視界にいない。
辺りを見渡してみると、駅員の方に向かい切符を渡していた。
“一体何をしているんだ”そう言いそうになった。
しかし、少し千代の事を観察してみようと思った。
そのまま千代は切符を渡してなにやら駅員に言っている。
そしたら、駅員さんが切符を切っていた。
そして改札の横のゲートを開けて、千代を中に入れていた。
駅員さんが優しかったのか、気を使っていたのか知らないがなにも無くて良かった。
「ごめん……切符の買い方が分からないという事は……改札も通れないかもしれないという事を忘れていた」
僕は千代と合流し謝ったが、千代はキョロっとしていた。
「どういう事ですか?駅員さんに渡して……切ってもらうのが普通ですよね?」
多分あの駅員さんも一時は困惑したんだろう。
それを顔に出さずに笑顔で対応する。
しかも改札の通り方を教えるのではなく、自分で切符を切る辺りサービス精神旺盛だな。
「切符はこの機会に通したらいいんだよ……入るときも出るときも……」
僕は改札機を指さしどうするかを教えた。
「まぁ!?かなり楽になりましたね……駅員さんの仕事が減って何よりです
この機械はすごいですね……」
千代はそう言っているが、今さっき駅員さんの仕事を増やしたんだ。
そうも言いそうになったがグッと堪えた。
「それにしても大きい駅なのですね……迷ってしまいそうです」
千代は僕の後にコバンザメのごとくくっ付いてついてきていた。
迷われても困る。
迷われて探すのにも時間かかるし、周りにも迷惑が掛かるかもしれない。
それを考えると今のようにくっ付いてくれていることが救いだ。
「逆によく迷わずに改札まで来れたね」
「それはですね……親切な叔父様に案内してもらったからですね」
「親切な人もいるものだね……良かったね」
「すごい親切でした……ほてる?泊まれる場所とそこまでの交通費を出してくれるって言っておられて……」
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