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最終コーナーに向かって(1)森永冬香さん

特級ファイナルから2日。私の頭の中には今も、サントリーホールでの、夢のような音色が鳴り響いています。

私は配信でしか見られなかった3次予選までの後、セミファイナルからの連続した4日間、指揮者合わせ、オーケストラとの合わせ、当日リハーサル、そして本番とすべて現地でファイナリストを見つめ続けました。私にとっては、4日間が1ヶ月のように感じられるほどの経験と熱量が詰め込まれた時間でした。当事者であるファイナリストたちには、もっと長い期間のように感じられているのではないでしょうか。

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートマスター、戸澤哲夫さんは、「若い演奏家たちは、一晩眠ると驚くほど変わってくる」とおっしゃっていました。まさにその言葉通りに、このたった4日間にコンテスタントが見せた心の葛藤や覚悟の瞬間、そして力強さを、いちレポーターの主観的な立場から、レポートしたいと思います。

森永冬香さん

ファイナルのトップバッターだった森永冬香さん。セミファイナルでの新曲課題曲、森円花さんの「前奏曲~未知なる世界へ~」は、母性や覚悟を象徴するような、衝撃的とも言える迫力をともなった演奏でした。それは森永さんの、音楽へ向かう覚悟だったのかも知れません。ファイナルのプログラムノートには、「森永さんの音楽はいつでも真っ向勝負」とあります。私もそれを頷きながら読みました。1次予選から一貫していた、正当で王道な作品を並べたプログラムと、小手先のテクニックや演出をしない、まっすぐな表現。

これは勝手な想像ですが、森永さんは運動神経もとっても良いのではないでしょうか。演奏中、決してブレることのない体幹と、聴衆が自然と体を揺らしたくなるようなリズム感とグルーブ感。そして音楽に向かうひたむきな姿勢にも、陸上選手のような雰囲気を感じたからです。ポニーテールの印象に影響されているのかも知れませんが・・。

常に姿勢よく演奏される森永さん

そのまっすぐで真摯な音楽への姿勢は、この4日間、指揮者の飯森先生、オーケストラとの合わせにおいて一度も失われれず、陸上競技のラストスパートのように、一直線に高まっていったように感じます。そして迎えた当日のチャイコフスキーピアノ協奏曲 第一番は、本番特有の緊張感を味方につけて、3次予選の2台ピアノの際の演奏よりもずっと大きく、そして生き生きとした演奏だと感じました。そして何よりもこの場に立てることを喜んでいることが伝わってきました。

表彰式終了後に、お話を伺った時には、「このステージを心から楽しむことはできたとは思います。でも、楽しい、ということが優先してそればかりになってしまったかも知れない。もっともっといろんな角度から、この曲のことを勉強したい」とお話してくださいました。

演奏終了後、カーテンコールに向かう後ろ姿

(写真提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎・永田大祐)