アールト最後の個人邸宅ヴィラ・シェペット【フィンランド建築】
ヘルシンキ中央駅から近郊電車を乗り継ぎ1時間半ほどで、タンミサーリという海辺の街に到着します。16世紀の木造建築を多く残した美しい港町を20分ほど歩くと、ヴィラ・シェペットの愛称で呼ばれる、アルヴァ・アールト(1898-1976)設計の個人邸宅、シルツ邸(1969-1970)に到着します。
私邸として長く使用されていた本邸宅が一般公開されるようになったのは数年前。そのため、他の見学可能なアールト建築に比べて知名度はまだそれほど高くないように思います。私が見学した際も、私以外はフィンランドの方でした。(ガイドツアーは英語で行われます。)
しかし、その見どころの一つは、やはり何と言ってもアールトが最後に手がけた住宅建築であるということ。生涯で200以上の建物を設計し、フィンランドの建築・デザインに多大な影響を与えてきたアールトのこれまでのキャリアを辿るかのような様々なエッセンスが凝縮されているのです。
施主のヨーラン・シルツとアルヴァ・アールトは1950年代以降に親交を深めていき、ヨーランは後にアールト財団の理事長をつとめ、アールトに関する著作を多く出版しています。セーリングが趣味だったシルツ夫妻は一年の大半をギリシャやスウェーデンなどフィンランド国外で過ごしていたことから、フィンランドに住居を構えていませんでした。アールトは銀行設計の仕事で訪れていたタンミサーリの地を夫妻に勧め、「君がフィンランドに帰りたくなる家を作ってあげる」と言ったそう。友情の証として設計料も受け取らなかったそうで、アールト自身も楽しんで自由に設計したのではないかと想像できます。インテリアもほぼアルテック製品やアールトデザインのものでまとめられており、アールトの自邸やマイレア邸を初め、他の建築で見られるアールトらしさが随所に散りばめられ、まさに集大成という感じ。アールトや、建築に詳しくなくても楽しめる居心地の良い空間ですが、他のアールト建築をある程度見てから訪ねるとより面白いと思います。
もう一つにシルツ邸にはパイミオ・チェアの初期プロトタイプが展示されているのも、アールトやフィンランドデザイン好きの方にとっては見どころだと思います。この初期プロトタイプは二脚しか残っておらず、一つは妻のエリッサが、もう一つはアールト財団理事のヨーランが所有していました。またこのプロトタイプの他にも、アールトがシルツに贈った様々なアートピース(アールトは当初、建築家ではなく画家を目指していました)なども見ることがでます。
シルツ邸のあるタンミサーリは旧市街を残す港街で、街自体がとても美しく、見学前後に街を散策するのもおすすめです。
タンミサーリへは、ヘルシンキから近郊電車でカルヤー駅まで行き、そこからローカル線に乗り換えて10分ほどで到着します。VRのサイトからタイムテーブルを確認しチケットも購入できます。
アールトがタンミサーリに先に設計した銀行を併せて訪問することも可能です。中にはカフェテリアも併設されており、一般の方も利用が可能でした。
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