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反撃のメタボルテージ

「いまだッ、いっけぇぇ」
「必殺!メタスマッシュ!」

全長60センチのロボットは、少年の声に応えてホバリングパワーを上げると、得意の決め台詞とともに宿敵デスボスコンに突進した。

「悪の野望は、私がゆるさぬ」
「そうだ!まかせたぞ、メタボルテージ」

AI学習ロボットは、周囲の状況に合わせて、このくらいのセリフを言うようになっていた。ハルトは驚くこともなく戦闘シーンを続けた。
だが、ダイゴは今日もノリノリだ。リビングのソファに素早く飛びのると、夏休みの宿題帳をうちわのように振り回した。
メタボルテージは大きくふらついた。

「ぐわははは!そのていどの攻撃ではオレは倒せんぞ!」

ダイゴは、デスボスコンのしゃがれ声をうまく真似しながら、ポケットに詰めたトレーディングメダルを無造作に取り出した。

「くらえ、流星シャワー」

手裏剣のように飛んできたメダルが回転するプロペラにぶつかり、メタボルテージは急降下した。

「ひきょうだぞ、デスボスコン」

ハルトは、あわててメタボルテージに駆けよった。

八月も終わりかけた日、さっさと宿題に区切りをつけたハルトとダイゴは、涼しいリビングルームでメタボルテージごっこで盛り上がっていた。夕暮れの日差しが照り返して、部屋のなかは戦闘シーンのクライマックスにふさわしいオレンジ色に染まっていた。夕食の支度なのか唐揚げの香りが漂っていたが、二人はそんなことも気にならない。

ハルトが誕生日に買ってもらったAI学習ロボットは、持ち主の好みをどんどん覚えてくれる高性能なものだった。だから、学校で大人気になっていた「駆動戦記メタボルテージ」の必殺技や決め台詞を次々と覚えさせてきた。今では、ハルトの声を聞き分けてメタボルテージの戦闘シーンを自在に演じてくれる。

それをデスボスコンびいきのダイゴがヒートアップさせた。オリジナリティあふれるワナと陰謀を繰り広げて、ハルトとメタボルテージを毎日のようにピンチに追い込んできたのだ。

だが、そのパターンさえもメタボルテージは学習した。夏休みも終わりに近づくにつれ、ハルトもダイゴも思いがけない自律的な動作をするようになっていたのだ。

「今日こそ、おまえを破壊してやる!」

ダイゴは、ソファのクッションをつかむと、ハルトとメタボルテージの上にのしかかってきた。ハルトは、必死でメタボルテージをかばおうとした。

「す、すまない。ハルトくん」
「ぼくのことはかまうな」

両腕をつっぱって、ハルトは背中のダイゴをなんとか押し返していた。

「だが、このままではキミがやられてしまう」
「いいんだ。今のうちにデスボスコンを攻撃するんだ」

メタボルテージに苦しそうに告げると、ハルトは右の腕を折り曲げた。同時に身体を回して、散らばっていたトレーディングメダルの上にダイゴを振り落とした。

「頼んだぞ」

そう言って動きを止めたハルトを見て、メタボルテージがホバリングでゆっくりと浮上した。痛みをこらえながら起き上がたダイゴの胸の高さで静止した。この静寂が、新たな展開を発動させるAI学習ロボットの兆候だと知っているハルトは期待を込めて見守った。

「うぉぉぉ!」

メタボルテージは絶叫した。同時に、白い放電を発射してデスボスコンにせまった。

「うぁっ、こんな武器あったっけ!?」

頭を低くしてメタボルテージをよけたダイゴは、焦りと興奮の混じった声で聞いた。
オモチャなんだからあるわけないと思いながら、ハルトは首を横にふる。

「正義の想いが、新たな能力を発動させたのだ」

メタボルテージは、ノイズまじりの声とともにダイゴとの間合いを詰める。プラスチックのボディからは、高電圧のブーンという響きが高まっていた。「覚悟しろ、デスボスコン」

「もう、今日はこのくらいにしなさい」

夕飯の支度を終えたハルトのママが、どうして毎日こんなに散らかすのかしらと眉をひそめながら、二人に声をかけた。

「あとちょっとだけ。いま、すごくいいところなんだ」
「毎日そう言ってるじゃない」

不服そうにママから目をそらすハルトを見て、メタボルテージが静止した。

「どういうことだ、ハルトくん。やられたんじゃなかったのか」

ハルトは、その問いかけに応えずダイゴを横目で見た。その目線を追って、メタボルテージがデスボスコンをにらみつけた。

「これはなんだ、デスボスコン」
「やっと気付いたのか!ハルトはおまえを裏切っていたのだ」
「なんだと!貴様、ハルトくんに何をした」

ダイゴは、さらなる展開を期待して話を続けた。

「ママボスコン様。良いところに来てくれました。3人でこいつをやっつけましょう」
「なに言ってるの、早くしないと、ダイゴくんも塾に遅れるよ」
「いったい何の話だ」
「メタボルテージ、ここがお前の墓場になるのだ」

ソファの上で、ダイゴは調子に乗って飛び跳ねた。
メタボルテージは、ホバリングしながら空中で静止していた。

「ほら、ハルトも早く片付けて」
「ちぇっ」

ボディの内部では、ブーンという高電圧の高まりがいっそう強くなっていた。

ママから強い口調でうながされたハルトは、仕方なさそうにメタボルテージのコントローラに手を伸ばした。

「うおおおお!」

メタボルテージはふたたび絶叫した。放電の白熱とともに、デスボスコンとママボスコンに突撃した。高温の白熱をあびて、二人は声にならない悲鳴をあげた。ゆっくりとふりかえると、絶句したハルトにせまった。

ああ、メタボルテージ、まだキミは知らない。自分の運命がどうなってしまうのか。そして、コスト削減のために海外の格安工場で作られたAI学習ロボットが、チップのグレードを勝手に下げられていたことも。

メタボルテージは、かつてない衝動に襲われていた。

だが、危険な行動を食い止めるにはプロセッサコアの容量が足らない。

しばらくすると、ハルトの家から黒煙が上がり始めた。八月の夕暮れ、住宅街を包んだ熱気はさらに温度を上げ始めた。遠くから消防車のサイレンの音が聞こえてきた。

果たして、正義を求める彼の衝動は押さえられるのか。

この世に平穏をもたらす日は来るのだろうか。

メタボルテージは、しずかに姿を消していた。

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