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コント「アンジャッシュ」
30年間生きてきて僕が最もすれ違ってしまっていた日の話をしよう。
すれ違いは恐ろしい。恋人を引き裂くこともあれば、つなぎとめることもできるからだ。
____
まだ二十歳そこそこの頃、韓国人と付き合っていた。
韓国人といっても、日本で育ったので日本語はペラペラで、意志疎通は一切滞ることなくできた。
あるとき、僕が何度もLINEを返していなかったことがきっかけで、喧嘩をしてしまい、「もう私、韓国帰るから」と母国へ帰ってしまったことがあった。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56460882/picture_pc_a15628df1a1de8da02523721c5c5b0ab.jpg?width=1200)
それから数日して、韓国人の彼女___仮にソヒョンとしよう___からLINEがきた。
そのLINEには「最近、朝昼晩つらい」と書かれていた。
ふーん、勝手に韓国行っちゃってなんだよーと思っていたら、また次の日、ソヒョンからLINEがきた。
「今日も朝昼晩つらい」
しかも今回は、つらいの文字の後に包丁の絵文字が付けられていたのだった。
![画像9](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56714648/picture_pc_8123da8bd42f1ef142540bb53df70935.jpg?width=1200)
ぞっとした。
おいおい、ちょっと待ってくれ。さすがに包丁はないんじゃない?俺を刺す気か?
そうとう精神的にきているかもしれないと、すぐに謝ることにした。
「ごめん、俺が悪かった。早く日本に戻ってきてほしい」
すると、すぐにLINEが返ってきた。その返信は一言。
「え?」
だった。
僕の方こそ、え?なんだその返信は!と思い、「え?なに?」と返したら、
「そっちこそ何?」とソヒョンから素っ気なく返ってきた。
いやいやいや、せっかく謝ったのになんだよー!仲直りしたかったのに!
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56714155/picture_pc_d28bb4160f4271b0b1d1e53fbbfde83f.jpg?width=1200)
それから数日が経ち、もうLINEはこなくなっていた。
破局かぁ……僕は感傷に浸りながらソヒョンとの楽しかった思い出が詰まった過去のLINEを、付き合う前の分から見返していた。
そうか、あんなことやこんなことがあったなぁ。
気付けば1時間近くもLINEを見返してしまっていて、不仲になってしまった最近のやり取りのところまで戻ってきていた。
そこで、僕はある重大なことに気付く。
再び、ぞっとした。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56714205/picture_pc_d9994da618f394233b6d79b57ab11c56.jpg?width=1200)
「最近、朝昼晩つらい」と送られてきていたと思っていたけど、よく見たら
「最近、朝昼晩辛い(からい)」
だったのだ!!!!
ソヒョンはどこにいる?
韓国!
韓国と言えば?
キムチ!!!
キムチと言えば、辛い!!!!!
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56714269/picture_pc_61a847138046981cda56ef74eb0a4a16.jpg?width=1200)
となると次の日にきたLINEもそうだ。
「今日も朝昼晩辛い🔪🍴」
辛い(からい)の後に付けられたナイフの絵文字は、料理の話をしているから、ナイフを付けていただけだったのだ!!!
メンヘラで猟奇的な彼女だったわけでは断じてなかった。
とすれば、その後、話が噛み合わなかったのも当たり前だ。
「(韓国はキムチばかりで)朝昼晩、辛い」
に対して、僕は
「ごめん、俺が悪かった」
と返してしまっていた。
え?????????お前、韓国の食事情背負ってんのけ??????
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56714364/picture_pc_378e53d0f39ba54b4fa6140e50ad0de7.jpg?width=1200)
一人で思わず笑ってしまった。
すぐにソヒョンにLINEをした。聞いてよ、「辛い(つらい)ではなく辛い(からい)」だったんだ、こんな勘違いをしてしまっていたんだよ。
だからこの前、うまく噛み合わなかったんだ、と。
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56714474/picture_pc_28d2caf863ac8e10af99ca187cdb3d7d.jpg?width=1200)
ソヒョンもすごく笑ってくれた。お互い喧嘩していたことも急にバカらしく思えてきて、なんとこのすれ違いがきっかけで仲直りすることができたのだった。
「来週、日本に帰るね。心して待っててね🔪笑」
_____
仲直りした次の日、大学で心理学の講義があり、ちょうど「恋愛」についてだった。
僕はうまくいってるんで関係ないからと、ソヒョンを想いながら、授業中ずっと寝てた。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56458509/picture_pc_0e4cacd11ef470e4e64029b7c29ddb31.jpg?width=1200)
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/56459193/picture_pc_574a998905c647b951d46e443eaaa7fd.png?width=1200)
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大学生の頃、初めて便箋7枚ものブログのファンレターをもらった時のことを今でもよく覚えています。自分の文章が誰かの世界を救ったのかととても嬉しかった。その原体験で今もやらせてもらっています。 "優しくて易しい社会科学"を目指して、感動しながら学べるものを作っていきたいです。