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仕事に身の入る場所ランキング

いきなりですが、「仕事に身の入る場所ランキング」です。

6位:自宅(論外。仕事をできたためしがない。家事&家族と仕事の相性の悪さは水と油という比喩を超える。次亜塩素酸ナトリウムと塩酸くらい混ぜてはいけない。)

5位:チェーン店系じゃないカフェ(素敵なカフェには足繁く通いたいが長居とは相性が悪い。申し訳なくて1時間以上いられないので仕事が調子に乗り始めたら出るタイミングになる。)

4位:大手チェーン系カフェ(たくさんの人が出入りするので長居が比較的しやすい。最近は電源もありWi-Fiも飛んでいて環境がいい。しかし甘やかされ環境ゆえに韓国ドラマ15話視聴で1日を潰してしまう危険もはらむ。)

3位:仕事場(仕事場なのに3位とは仕事場の立場はどこへ。漫画がたくさんあって、ちょっと手に取ったら20巻読破してしまう。おもしろい漫画が悪い。テレビが普通にあるのも悪い。録画してた「LAST MAN」を全部見てしまう)

2位:シェアオフィス(さすが月額料金払って契約しているだけあっていい感じに仕事が捗って第二位。一台だけあるテレビではいつも大谷翔平さんの大リーグの試合を流していて、チャンネルは動かせないのもいい。電源&Wi-Fiもあるうえに、カフェと違って人の目を気にせずに絵が描けるので、イラストの仕事と焼き芋を食べることの両立ができるのは唯一無二。)

そして・・・・

栄えあるある第1位・・・・

1位:図書館

まさかのクラシック環境、図書館です。

私が通う図書館は普通の地元の図書館ですが、平日の昼間は人が少ないし、デスクの並ぶスペースには読書家のおじさんしかいない(なぜか女性は少ない)。
夕方になると学生さんたちも増えるけど、学生さんたちは勉強しかしない。図書館に来る学生さんたちは勉強しかしない!!!(えらいので2度言う)

環境がいいとはこういうことかとやっと私にもわかってきました。

図書館の自習用の机には電源がないし、Wi-Fiもないからネットで遊ぶことが当たり前にはできないのも良いのです。バッテリーの限界がここでできる作業の限界なので、わたしのiPadでいうとだいたい4時間くらいでおしまいという甘えの許されない状況が作り出せます。

そして、じつは何より「効いている」と感じるのは、背後に並ぶ本棚にたくさんの本があるという現実。

当たり前かと言われればそうなのですが、漫画じゃなくて「本」があるのです。

それも「越境する歴史認識」とか「ヘロドトス」とか「考古学で綴る世界史」とか、うっかり読み始めて読むのが止まらなくなる系の本ではなくて、覚悟を持って手に取らないとスタートさえさせられないの知の圧力が強めの本がたくさん。

誘惑はしてこないのに、「お前は自分の人生をちゃんと生きているのか」と問うてくる力がすごい。

なんていうか、そこにあるのは「身」なんです。

背後に並ぶ書架の重さは、誰かの人生をぎゅうぎゅうに織り重ねて整えた「身」の重さ。

「身体」と言う言葉も「心身」と言う言葉も身近なものですが、実はちゃんと考えたことがなかった「身」の存在感を図書館で感じるとは。

「身」に近い言葉として「体」もありますが、「からだ」は「から」から出た言葉。「殻」であり「空」でもあって、空(虚)の命のこもらない抜け殻(肉体)です。
精神や性格を取り除いた、形としてだけ残された肉体のことを言う「体」。

「身」は具体的な肉体としてのからだのことではなく、体よりもむしろ心であり、社会性を帯びた自分のありようや内面を指す言葉として私たちの中にあるもののように思えます。

「身につまされる」「身にしみる」「身を粉にして働く」「身を切る」

体だけじゃなくて心も一緒に負担を負っているのが伝わってくる使われ方が多いです。

「心でも体でもない」のに「心でも体でもある」のがこの「身」で、それは同時に「実」でもあるのでしょう。


巨大な魚類の腹骨のような書架には、身のみっちり詰まった本。

そして、図書館に置かれる本になっているということは、締め切りを守った誰かがいるということ。それがとても圧力として効いています。

いろんな場所でiPadを開いて作業することを続けてきましたが、図書館の堅牢さとルールの厳格さは味方にするととても強いのではないかと思えてきました。

「身」とか「実」でミッチミチの、たくさんの約束を守ってきた本が私の背中を見ています。

誘惑してくることはないのに「読みたかったらいつでもおいで」とたたずんでいるクールな背中(背表紙)は、迷いの中にいる私の背中とはいる場所というか、階層が違います。

「まだそっちにいるんだ?」と笑って言っているようでもあるし、「早く僕たちのように本になれるといいね」と上から目線で言っているようでもあるし、「まだ変化できる段階なのが羨ましいよ」と優しく言っているようでもあります。

「仕事に身が入るランキング」一位はもう当然なのでした。

机を使う人が少ない時にだけ、クールな背中(背表紙)に励まされに行ってこうと思います。

キンキンに冷えた通路の冷水機の水をガブガブ飲みながら。

いつも読んでくださってありがとうございます。
定額メンバー皆さんに向けては、野田MAP「兎、波を走る」の感想を。大変な舞台でした。今からでも見られる人は見に行ってください。当日券で立ち見なら見られるかもしれない。私ももう一度見に行きたいです。

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