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最高峰のインタビューとは

先日行われたちはやふる小倉山杯。
競技かるたを応援する基金の活動をしているのでいろいろな裏方作業もあるのですが、その一つが「出場選手へのインタビュー」というものでした。

インタビュアーのちはやふる基金代表ほほんぽさんは大変な胆力でその仕事を担ってくれたのですが、8名のトップ選手にインタビューをするというのはかなりのプレッシャーだった様子。

終わった時にはエイヒレのように「旨みだけ残して、ほかは全部天に捧げました」みたいな様相になっていました。

ほんぽさんはそれからしばらく「インタビューが上手くなるにはどうしたらいいの・・・?」と会う人ごとに尋ねていました。
選手皆さんとの交流を楽しみつつも、これまで感じたことのなかった難しさが『インタビュー』にはあったのです。

『インタビュー』の深淵を覗き込む側になったほんぽさんに、私が一体どんなアドバイスができるだろうか・・・。
そもそも私もろくにインタビューをしたことがない・・・。
良いインタビューとはどんなものか・・・。

インタビューに関して思い巡らす中で、私の脳内アーカイブが「そんなこともあろうかと」と開く音がしました。

ギイ・・・パタン・・・

ある・・・・

私はかつて、「こんなインタビューをできる人がいるのか」と舌を巻いたことがある。

あれはどこだ・・・・

古いパソコンの中だ・・・

押し入れを開く。プチプチに包まれて保管されていたVAIO・・・・OSはwindows Vista。
電源コードを刺すと、しばらくしてちゃんと動き始めた。えらいぞVAIO!

ゔぃ〜〜〜ん・・・カチカチチチチ・・・(懐かしい起動音)

動く〜〜
動くけど〜〜〜
うわあああなんだこの操作性〜〜ぎくしゃくする〜〜〜違う人の体に入ったみたい〜〜〜わあ〜〜

インターネットに繋がらない〜〜〜〜

わあ〜〜〜インタビューどこ〜〜〜〜

わあ〜〜Wordで保存してあった!ちゃんとあった!これだ!

2013年、ライターのYさんがしてくれたメールインタビューのファイル・・・!

お読みいただいても頂かなくてもいいのですが、このレベルのインタビューはこれ以前もこれ以後もいただいたことがないのです。
どれだけすごいか、ざーっとでもいいので目で追ってみてください。

はじめまして。ライターのYと申します。
作品を読み返し、情熱のおもむくまま質問状を作成しているうちに、すっかりボリュームが出てしまいました。
答えづらい質問は飛ばしてしまってください!
前クイーンの山本由美24歳、最っ高です!!
お忙しいところ大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

●『ちはやふる』の初期設定など
コミックス第一巻刊行直後、『ちはやふる』のあまりの素晴らしさに感動し、まことに勝手ながら書評させて頂いたことがあります。「ジャケ買い」でした。紅葉色の表紙いっぱいに描かれた少女の表情、大きな瞳に吸い寄せられてしまったんです。お伺いします。この少女(ちはや)の表情は、どんな思いを抱えた人物として、あるいは何をまなざしている人物として描いたのでしょうか?

連作短編集『君は僕の輝ける星』の第一話「冬の星」で、共学高校の「百人一首クラブ」が登場します。もともとかるたへの興味(経験、目撃歴)はおありだったのでしょうか?

新たな連載作の題材として競技かるたを選んだ理由は? 「描ける!」「読み切りではなく連載でいける!」と思ったポイントをお教えください。

連載前に、かなり取材をされたと伺っています。取材によって得たこと&驚いたこと、精神面やビジュアル面でのリアリティなど、お伺いできればと思います(今回ほど分厚く取材をされたことは、かつてありましたか?)

ちはや18歳のクイーン戦がおそらく最終決戦になるだろうことは、一巻冒頭で予告されています。まず最初に物語の全体像を決めたのでしょうか? それとも始まりと終わりのイメージだけ? 物語の広がり方が今に至るまで本当に見事なのですが、カレンダーを作るなどして「予定」を立てたのでしょうか?

『ちはやふる』の最大の魅力はやはり、ちはやの魅力だと思います。人物造形はどんなふうに作り上げていきましたか? やはり「ちはやふる」の句のイメージは大きいですか?

句の意味やイメージから、登場人物達や、彼らの人間ドラマを発想することはありますか?

第一巻の雪合戦シーンを読んでいたら、「あらた、たいち、ちはや」がしりとりになっていることに気付きました。偶然の一致でしょうか? 3人の三角関係を構築するにあたって、どんなことをお考えになりましたか? 今は恋愛モード控えめですが、いつかグラッと動き出すんでしょうか!?

個人戦と団体戦を行き来するうちに、味方が敵にもなる、かるた部5人の関係性が魅力的です。子供たちを見守る、大人達の存在感もとびきり魅力的なんです。話が進むにつれてどんどん人数が増え、群雄割拠の様相を呈してきましたが、どんなふうにキャラクター作りをされているのですか? 性格と戦略は一緒に出てくる感じですか?

では、史上最年少クイーン・若宮詩暢の人物造形はどのようにして?(暗いオーラを背負った、悪役っぽい表現が大好きです!)

自分自身をもっとも重ね合わせている、とお感じになられているキャラクターはいますか?

第5巻にある、かなちゃんの台詞に痺れました。「身体一つで男女一緒に戦えるのは文化だからです」。この台詞はどんな時に思いつかれたのでしょうか? また、このところ文化部漫画が増えていますが、性別を越えたバトル、性別を越えた友情を描くには、文化部がうってつけなんだとこの台詞で気付かされました。そもそもなぜ性別を越えた(混ざり合った)ドラマを描こうと思われたのでしょうか? それを描く楽しさは?

畳の上の「スポーツ」とも表現される競技かるたの臨場感が抜群です。競技シーンを描くうえで大切にされていることを教えて下さい。

第26首(第5巻)で、競技場の電気が突然消えて、またすぐ点灯する。偶然がもたらした一呼吸によって、ちはやが周りを見渡し気分をリフレッシュさせるというエピソードは、とても独創的だと感じました。また、第33首(第6巻)での、机くんとカナちゃんのD級決勝戦終盤、パタッ、パタッとかなちゃんの汗が畳に落ちるシーンは、圧倒的な感情喚起力があったと思います。これらの細かなエピソードは、どんなふうに生み出しているのでしょうか。

第一巻に登場する師匠の言葉「かるたは友達がいないと続けられない」、第二巻に登場するちはやの言葉「(かるたは)仲間がいたら強くなれる」。これらの言葉は?

努力や才能一辺倒ではないロジカルなレベルアップ(「武器」のパワーアップ)と、友情に裏打ちされた試合戦略の妙も抜群です! こうした技術的な部分は、どんなふうに決定しているのでしょうか?

実人生の中で、強烈な「勝ち負け」の経験をされたことはありますか? 強烈な「友情の輪」を実感されたことはありますか?

『ちはやふる』を読んでいると、「勝つ」喜びと同じかそれ以上に、「負ける」痛みや残酷性が胸に響きます。ネガ・ポジの感情のバランスなど、意識されている点はありますか?

かつて書評で、「少女漫画家ならではの繊細な感情表現が、スポ根漫画の可能性を更新している」と書いたことがあります。客観視するのは難しいかとも思いますが、少女漫画の描き手であった(ある)ことが、『ちはやふる』を描くうえでプラスに働いていると思われる部分はありますか?

『ちはやふる』第一巻の巻末に収録された、主要登場人物プロフィールの第一項目は「目」についての記述でした。やはり目の表現には気を使われていますか? 競技かるたのもうひとつの主役ともいえる、「手」の表現に関してはいかがですか?

ちはやにとって「ちはやふる」の下の句の札は真っ赤に見える、「かるたの目」という表現がとても面白いです。しかも、その「目」を通して見える世界を漫画は描いているので、読者も五感ごと登場人物に感情移入できます。「かるたの目」という言葉、それを実現する表現は、どのようにして獲得されたんでしょうか?

第1巻冒頭クイーン戦の見開きが象徴的ですが、漫画でしか不可能な構図が続々登場します。床から天井を見上げる、いわば「かるたからの目」によって描かれたアングルなんです。末次さんが、まるでかるたになって描いているような……。とにかく他では見たことのない、とびきりの構図が目白押しなのですが、どのようにして描いているのでしょうか?

見守る、応援する人の力が、競技者の力になると思われますか?

『ちはやふる』は、誰かの夢や幸せに乗っかるのではなく、「好き」の情熱を元手に自分の道を突き進め、と告げる物語でした。冒頭でちはやとお姉ちゃんの関係性が描かれていることが、この作品に特別な推進力を与えていることは間違いありません。「好き」の情熱、は作品全体を貫くテーマではないかと思うのですが、このモチーフを導入しようと思った理由は?

読み切りではなく、連載で漫画を描くことの楽しみは、どんなところにあるのでしょうか。月2回連載=月産60枚は大変ですか?

ちはやにとってのかるたは、末次さんにとっての漫画なのでしょうか?

末次さんの漫画は以前から「泣ける!」と評判でした。『ちはやふる』で加わった涙は、「男の子の涙」だと思います。涙を描く時に、意識されていることは?

掲載媒体が少女漫画誌から女性誌『BE・LOVE』に変わったことで、大きな変化がもたらされたのではないかと思います。どんなことを実感されていますか?

過去から現在にいたる末次さんのキャラクター表現で特徴的なのは、「へ?」という顔したたれマユゲだと思います(笑)。他の漫画ではなかなか見掛けない、とてもチャーミングな表情なのですが、この表情は末次さんの好みなのでしょうか?

花々を写実的に描き、コマのふちを装飾する演出が大好きです。少女漫画ならではの表現をバージョンアップさせたものではと感じるのですが、その意図、ルールなどありましたらお教えください。また、コマ割り、めくりに関して、意識されていることなどありましたらお教えてください。

かるたが持つ意味やイメージを、文字と一緒に、一挙に一瞬で絵で見せる表現に惹き付けられました。コマごとの密度によって、空気(空気が変わる瞬間)を見事表現されていることにも驚嘆します。漫画という表現ジャンルが、競技かるたを描くうえでピッタリだと実感される部分は多いですか?

物語の中に忍び込ませている、一番のファンタジー(積極的なウソ)は何ですか?

読者からの反響によって改めて気付かされたこと、変化を促された(あるいは自信を持った)点はありますか?

いつかこの関係性・この感情を書きたいなど、『ちはやふる』の未来についてお考えになっていることがあれば教えて下さい。

もうね。読み物。

これは、インタビューというか、エベレストに登る人間が命を落とさないために高解像度でルートを想定していく中で出てくる質問事項。

命を落とさないのに、この解像度。

もちろん「なぜこの漫画を書こうと思ったのですか?」というような簡潔なインタビューにも意味も価値もあり、受けた側はそれに25文字で答えることもできなければならないのです。

だって載る紙面には制限があるから。

でも、「インタビューとは」と考えた時に思い出すのです。

このYさんのインタビューが、最終的にどれほどの分量媒体に載ったのか覚えていないのですが、これだけのパワーのある質問文をいただけたことを10年経っても覚えているのです。


私にとっての最高峰のインタビューとなったYさんの質問の特徴をまとめるならば、

■対象に対して関心を持ち、よく勉強している
■自分なりの意見・感想を提示した上で、もう一歩深く「どうしてこうしたのか」という言語化されてない部分に対象者と一緒に行こうとしている
■過去と現在を連続的に観測した上で対象の未来に関心を持っている

こう書くのは簡単ですが、どれだけの対象に対してこんなに深く関心が持てるでしょうか。

インタビューはエネルギーの交換です。強く深いエネルギーの交換あってこそ、その後の拡散も大きくなるのです。

インタビューで人生が変わるなんていうと大袈裟ですが、練られた言葉の塊を受け取ると、「それは考えたことがなかった」「その考察をしてもらえて嬉しい」「そのような期待のされ方をしているのか」など、背中に何本も光の定規が入る気持ちになるのです。

10年前のインタビューを読み返して、その気持ちがまた新しく背中に入りました。

インタビューのやり方に悩んだと時は、Yさんのくれたインタビューに立ち返って、言葉の塊を情熱の証としてぶつけられるようになりたい。

そしてまた、こんなふうなインタビューを受けられる人になりたいとも思いました。

🔶ちはやふる基金のほんぽさんのインタビューはこちらから↓
(インタビューの評判がとても良く、励みになります。選手みなさんご協力ありがとうございます!)


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