世界を磨いてくれるひと
あなたが最近一番度肝を抜かれたことはなんですか。
フィギュアが好きで今年もグランプリシリーズを見ているのですが、ロシア大会の優勝者カミラ・ワリエラさんにまず度肝を抜かれました。「絶望」という異名を持つフィギュアスケーター・・・。前評判以上の結果が出ました。みんなも見たらいいよ!
https://post.tv-asahi.co.jp/post-170583/
自分の仕事で言ったら、私はこちらです。
12月27日からちはやふる展というのがありまして、その準備がずっと行われております。
たくさんのグッズやポスターなどの確認の連絡が私の手元に来るのですが、その中の図録の表紙ページの確認事項が出力されたものが届いた時です。。
見てください、この注文書きを。
「全体的にメリハリが弱くモヤっとして見えます」
ごめんなさい〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
「色の強い部分をしっかりだし、メリハリをつけてください」
うお〜〜〜〜〜〜すみません〜〜〜やります〜〜〜〜〜!!!
・・・・・って違う。私に対するダメ出しではなく。
もう動かすことのできない「原画」をどうやってもっと魅力的に印刷するか、という点での指摘。
つまり、印刷の力によってもっとメリハリが出せるし、花びらは明るくできるし、逆光の感じも出せるし、モヤッとした感じも消せると。
ホントですか!!!!!?????
私がもしこの印刷された絵を見ても、「印刷されるとこうなるのか〜原画と見比べないとわからないけど、綺麗に色が出てるな〜。こんなもんじゃないのかな〜」と、ふわっとOKを出していたと思うんです。
だって印刷でどれくらいのことができるのかをわかってないから。鮮やかさがもしも原画より減っても「限界はあるよね」と思ったと思うんです。
「もっとこうできる。こうしたほうがより良くなる」という可能性を知らないから何も言えない。
でもこの指示出しをした人は、印刷でできる事を熟知しているし、この第一稿の「ものたりなさ」を感じることができるし、「ここまで良くなる」というゴールも見据えることがでいる。
プロだ。私の絵を渡した先に、本物のプロの方がいる。
そう思って、この注意書きのプリントをもらったときに目と肺の奥がカッと熱くなりました。
「たくさんのものに触れてセンスを磨く」
「美意識を鍛える」
そんなことがよく言われますが、何を目指しているかというと「違和感に気づく力をつける」ということ。
巨木のように芳醇なテーマを見つけ、イメージを形にすべく彫っていくその先で、ある段階から美しさを創るというよりは「違和感に気づく」ということが必要なステージがやってきます。
この写真とかちょっと中心がズレてて気持ち悪いですよね。違和感。
味の違和感、絵の違和感、スタイルの違和感、文章の違和感、音の違和感、・・・どの世界でも微妙な違和感に気づき、どうやったらもっとよくなるか、というあと一歩を見つけるのがプロなのだろうと思うのです。「あの調味料が足りないんだな」と突き止められる力です。
違和の反対は調和です。違和を感じるためには、たくさんの調和のある美しいもの・整ったものを知らなければならない。
「正解」というのとはまた違う「調和のとれたもの」。
元気な時の子供のことを五感でとらえていないと子供の不調に気づけない。そんなふうな、身の中に蓄えられた「調和」を頼りに「違和」に感度を上げること。その能力で物を見て、対処すること。コントロールバーを繊細に調節すること。
外の世界への内面の感度を上げるための蓄積がある人が、今日も世界を磨いてくれているのです。
なんでそんなことをして世界を磨くのかおわかりですか。
鍛えた感性を持った人は、違和感があるままではリラックスできないのです。綺麗好きの人が散らかった部屋に居られなくて、他人の家であっても掃除を始めてしまうように、感度の高い人がリラックスするには、磨かれた世界が必要なのです。
あるがままでいい、とその感性をOFFにしたりすることはあると思いますが、厳しいその審美眼や感性を走らせたまま見る世界がそれでも美しく調和している時、本当の深いリラックスがやってくるのです。安心できるのです。
良い作品が愛される理由はそこにあると思っています。
こちらが修正を施される前の第一稿。もしも原画展で公式図録をお手にとれたら、どうか上の写真の指摘の末にもっと美しく印刷されて出てくるであろう完成版と見比べてもらえたらと思います。
そしてどうか原画とも見比べてみてほしいです。
原画よりも図録が良くなっていたら・・・・・修行が足りない身を戒めつつも、より綺麗な作品を持ち帰ってもらえる幸せを噛み締めたいです。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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