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そこまで思ってないなら、なにも言うな


拙作「ちはやふる」は3度映画化してもらった。その関係者試写会の後のパーティーで、出演の俳優さんたちと一緒に過ごしたことがある。

そこに子供達も連れて行って、広瀬すずさんと写真をとってもらった時に度肝を抜かれた。

当時小学校一年の長女よりもお顔が小さく、当時一歳だった四番目のWちゃんと同じくらいのサイズであった事実。

これが女優さんか。

と、その輝きが濃縮されたダイヤモンド感に衝撃を受けた。

そのパーティーに来てくれていた野村周平さんも、新田真剣佑さんも、上白石萌音さんも、森永悠希さんも、ヒョロくん(坂口涼太郎さん)もみんなうちの子供たちを可愛がってくれて、抱っこしてくれた写真が手元に残っている。

子供達に接する彼らは普通の人間、普通のお兄さんお姉さんだった。

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抱っこしてくれてるのは野村周平さん

きついことも辛いこともたくさんあるであろう芸能界。過剰すぎるスポットライトとジャッジを浴びる彼らは、一歳の子供を前にしたらホッとした顔をする。

一歳の子供はジャッジしてこないからだ。

「いつかこれが子供達の宝物になる」と思って撮らせてもらった写真は、もちろん私の宝物でもある。

・・・・

ゾッとしたことがある。

女性ファッション紙のコラムを読んでいた時のことだ。

「友達と話してると、話題が誰かの悪口になって困りました。どうすれば?」という相談者。回答の形で差し出されたのは、こんな言葉だった。

「友達の悪口に参加したくはないですよね。
そんな時は、芸能人や有名人の悪口に話題を変えましょう」

ゾッとしてしまった。
芸能人・有名人は「いくら悪口を言ってもいいという存在」に見立てている言葉だった。私の頭の中には生贄や人柱の姿が浮かんできた。犠牲にしていいと。「有名人はそのためにいる」くらいの言葉だった。

ちょっと待ってよ、と思った。

広瀬すずさんは、そんな存在になりたくて女優さんをしてるんじゃないよ。

ちょっと待ってよ。


思えば、誰だってテレビを見て「この女優、太ったね」や「この人も年取ったね」や、スキャンダル報道を見て「こんなことして、この人も人生終わりだ」と軽く口にしたことがあるだろう。
どこかで私たちは、有名人は公的に消費してもいい存在だと思っている。

桃太郎のことを話すように、シンデレラのことを話すように、生きている人間に対して、人間だと思ってない振る舞いをする。

人間なのに。
そのことが引き起こす問題があることがもうわかっているのに。

以前から感じていた違和感に、「有名人の悪口を言いましょう」という文章がダメ押しをして、私はテレビの前で考えるようになった。

「この女優さん、もっと痩せたら可愛いのにな」

そう思う気持ちを虫眼鏡で拡大して拡大して拡大していったら、「この人、目障りだからいなくなればいいのに」になる?

そうじゃない、私はそこまで思ってない。そこまでの悪意はない。

そうじゃないのなら、言うな。


そう思った時から、一切の「けなす言葉」を胸におしとどめることができるようになった。
そして、心の中で大きく張り出されるようになった。

「この人にいなくなってほしい」

そこまで思ってないのなら、何も言うな。


「この人もっと痩せたらいいのに」みたいな言葉は、本当は言いたいことはそれではなくて、誰かとコミュニケーションを取りたいと思う気持ちの一番下手な発露だ。誰かと会話で繋がりたい、共感してほしい、そういう思い。

悪口は、奥底の寂しさや不安や苛立ち、物足りなさなど、人間の人間らしい部分が出てしまうところで、全否定が難しい。

私たちは、家族しかいないテレビの前で使う「消えていく言葉」のように、SNSで反射的にネガティブなことも発してしまう。

「消えていく言葉」であっても自分を形作るものになってしまうのに、「残る言葉」で他人の悪口が語られ、それが自分を作っていく。鏡がなければ人はいつまでも軽率でいてしまう。

「この人にいなくなってほしい」
そこまで思ってないのなら、何も言うな。

https://camp-fire.jp/projects/view/306609

こんなクラウドファンディングが今月スタートしている。もう残り後1日で、目標金額は達成されている(私のこの文章を出すタイミングの遅さよ…)けれど、

このアクションは支援を集めることだけが目標ではなく、みんなにこの世に存在する誹謗中傷のことをもっと考えてもらいたいためのアクションだ。

誹謗中傷をしないためには、「想像すること」が大事だと語られている。売り上げにつながりにくいので、企業広告ではなかなかできないことを、個人でやろうとしている小竹さんの思いに、共鳴して、私も支援した。

子供達を抱っこして話しかけてくれた俳優さんたちを、目立つところで体ひとつで努力する人達を、守るのは私たち一人一人だ。

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