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漫画家飲み会で考えた性表現の難しさ

ひうらさとる先生が今年デビュー40周年!
それに合わせての企画で、YouTubeでなかはらももた先生の仕事場拝見をしに千葉に来られるということで、それに合わせて漫画家のお友達と千葉に集合する夜でした。

メンバーはひうらさとる先生、岡本慶子先生、なかはらももた先生、うめ先生


なかはらももた先生は漫画家しながら居酒屋でバイトしてると聞いていたので、そのお店にみんなでお邪魔することに。ももた先生が24歳の頃からずっとバイトを続ける「千倉亭」は、地元で愛されてるのがよくわかる繁盛ぶり。

駅前のチェーン店は閑古鳥なのに、千倉亭は満員。お料理もお刺身も牡蠣もサラダもどれも美味しかった…。「おいしいと思えないお店でバイトしないじゃないですか」ってももた先生が言ってて、本当にそうだなと思いました。

めちゃくちゃたくさん食べたのにお会計が3600円でみんなびっくりした千倉亭。

漫画家7人集まると、いろんな話題が出るのですが、この日の会話でも面白いテーマがありました。

少年漫画における性の無視・軽視問題

「最近の少年漫画ってさ、ポリコレに配慮してないとダメになってきてるからどんどんエロの表現がなくなってるよね」
「スカートめくりとか、女湯覗きとかのシーンを作らないようにするやつですね」
「でも人にエロい心がなくなったら困るよね?それでいいのか?と思ってしまう。少子化とか…」

そんな話が出て、なるほどなと。
昔はよく「少女漫画の男性キャラって下半身が感じられない」って言われてたな…と思い出しながら考えてました。

男女ともにエロい心はあって当然なのに、「裸が見たい」「触りたい」「ご褒美にちょっとパフパフしてほしい(亀仙人)」という気持ちを令和にそのまま描くともれなく炎上します。

でも、ほんとに時代と価値観が変わってきたんだと思うのです。タバコをどこでも吸っていたことが過去になったように、女湯を覗くことを「男ならやって当然」と楽しく描くのはNOとなったのです。

エロを求める気持ちをないことにされるのは問題ですが、エロい漫画はエロい漫画でしっかり存在します。
だから少女漫画や少年漫画では「女湯を覗きたいと思う気持ち」を作品内で肯定してほしくないし、「触りたいと思う気持ちが一方的ならば、触らない」という選択を作品内でしてほしい、と思うのです。

エロい気持ちの無視ではなく、エロい心がある上での葛藤、そして「やらない」という意思決定を漫画では見せて欲しい。
エンタメの勢いに水をさす「真面目か!」の所業ですが、こらえる気持ちそれさえもエンタメにする努力が漫画の方に必要なんだと思うんです。

街を壊し人を殺しエロを働く悪役をぶっ倒して、性的には誰か一人を大事にするヒーローを見たい。そんな綺麗事で世界は回らないけれど、時代の価値観という重い物を少しずつ漫画の側から押していこうとしている最中だと思うんです。

殺人をするキャラはやっぱり捕まるし、浮気するキャラはやっぱりとっちめられるし、ポリコレを意識しすぎて漫画が面白くなくなっていったら嫌だなと思う気持ちもあるのですが、見渡せば確実に漫画の面白さの強度は上がってる。

「このきゅうりの漬物、【大人のきゅうり】って言われてるんですよ」「なんでですか?」「剥かれてるから…」みたいな微下ネタが炸裂する千倉亭。


こんな繊細な視点で物語がスタートできるのかーと舌を巻く作品もたくさんあります。
「スキップとローファー」(高松美咲先生著)は派手なことなんか何も起こらないけど『こんな青春を過ごしたかったと』全人類が思う可愛さと愛しさで溢れてるし、
「メダリスト」(つるまいかだ先生著)は15歳も年の離れたフィギュアコーチと選手が対等の関係で、どの選手も尊重され大事にされながら「絶対に性的搾取など作品に入れない」という覚悟を持って描かれてる。
そんな下世話な要素がなくても一流のエンタメとして堂々と面白いのです。
それが成り立つことが本当に素晴らしい。
ちょっと色気のあるシーンを入れるなどのサービス精神は、そっと箪笥の奥にしまっておく時代が来てるのかなと思います。それはちゃんとエロい漫画に任せる!と。

少年漫画における性の無視・軽視問題なんて大袈裟に書きましたが、結局は「女性(男性)を簡単に利用しない」ということだと思います。大切な異性と接近していく過程をしっかり描くラブコメなんかは令和でも大人気です。

親が読んでも「この漫画ならまあ大丈夫」みたいなのばっかりでもつまらないと思うけど、漫画家はその中でも身を捩りながら新価値観の中でも潰されない新しい面白さを追い求めています。

価値観をアップデートしながら、反省したり工夫したりしながら、まだまだ漫画を描く事を楽しんでいきたい。
そんな気持ちでたくさん笑ってたくさん乾杯をする夜でした。

「近くにあったら週3で通うわ」とみんなに言われる千倉亭。


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