見出し画像

ベンチャーキャピタリストの極私的おすすめ映画【2023年】

年末年始、みなさんはどのように過ごされるお予定でしょうか。まだ決まっていなければ、映画鑑賞などいかがでしょう?

私自身、学生時代から継続的に映画は鑑賞してきました。Filmarksなどのサービスの登場がきっかけで登録をしていくうちに1,000本に近づいてきました。そのタイミングで、どうせならもっと掘るぞ、ということでここ数年新旧織り交ぜ鑑賞を加速しています。

本noteは、映画はわりと好きだけど今年それほど観なかったな、といった方や、これを機に映画を趣味にしてもっと観ようかなという方のために、私目線でのおすすめを披露するものになります。一緒に沼りましょう(笑)。

2023年、私は映画館+配信サービス+Blu-rayなどで150本以上を観賞しました。そのすべてから選ぶのは大変なので、今年日本の映画館で上映された作品に限定して、おすすめをピックアップさせて頂きました。また、自分の中ではその作品と関連性がありそうに思った、同じく今年日本で公開された作品を”こちらもおすすめ”という形で追加しておきましたので、ご興味のほどで鑑賞の幅を広げてみてください。

毎年約1,000本の映画が上映されている現代において、当然私も網羅的には観れていません。シネフィル(映画通・映画狂)の方々と比べると詳しくもありませんので、「なぜあの有名な作品がないのか!」「監督や俳優についてももっと掘り下げろ!」など、叱られそうなことも想像できますが、あくまで極私的なおすすめということでご容赦いただければと思います。

ということで、以下ご興味頂けましたら、年末年始ぜひご鑑賞ください。来年語り合う機会などあったら嬉しいですね!


以下、一部ネタバレを含む感想になりますので、まずは自分で作品を鑑賞したいという方はここまででお願いします。






極私的2023年版映画ランキング

1位:TAR ター

たぶん、多くの日本人はタイトルで「?」となり、食指が伸びなかった方もいたのではと思います(笑)。実はアナグラムなのですが。

架空の指揮者、リディア・ターの成功・転落・再生の物語。とにかく、今年観た中で圧倒的でした。脚本、映像、音楽、演技、どれも素晴らしく、ジャンルレス(ドラマ、ホラー、恋愛、ミュージカル、ファンタジーといった要素が入っているように思います)な魅力が詰まっています。

成功や自分の欲求のためには手段を選ばない、リディア・ターという人物がその行き過ぎた数々の行為の結果、あざとい若手演奏家や妬む同業者に足元を掬われて転落。何もかもを失い精神的にも不調をきたし、落ちるところまで落ちたかに見えた彼女が辿り着く先は ー 。

リディア・ターはいかにも表向きの成功者の集合体として指揮者に仮託され構築されたキャラクターですが、こんなひとおらんわ、ってならないギリギリのところを攻めています。ゆえに、芸術家と起業家では全く立場も違うのですが、私は見終わって「これは起業家の物語でもあるじゃないか」と感じました。彼女の性質の一部を持つ方は必ずいると思う。ハラスメントや詐称等の誰がやっても世間の誹りを受ける部分ではなく、彼女を頂点まで到達させた動機、その狂気に近い上昇志向と権謀術数を駆使するに至った根拠であった部分を。これを終盤に解釈しにいくべき作品だなと思います。

あえて説明のないラストシーンの評価は分かれるかと思いますが、私はポジティブに捉えました。削ぎ落とされ、唯一残された、自分の”核”に向き合い、これしかできないんだという覚悟と献身を体現していく姿は神々しくもありました。観終わった瞬間に今年No.1はこれだと思った傑作です。

こちらもおすすめ:英雄の狂気と転落ストーリーという意味で、リドリー・スコット監督の「ナポレオン」。史実に忠実かという部分はあれど、アウステルリッツの戦いなど戦闘シーンは秀逸。もう一方でフォーカスしていたナポレオンという人物像については「ター」とは全く反対の印象。

2位:aftersun/アフターサン

交わされる言葉はすくなく、映像や記憶が鍵を握る作品。ミニマルな表現でここまで胸に迫る表現ができるものかと驚かされる。解釈の余地が大きく残されるタイプ。

20年前の父娘のトルコ旅行を父親と同じ31歳になった娘が当時のビデオカメラの映像や記憶を元に振り返りながら、大好きだった父親の心境を掘り下げていく物語。シンプルなストーリーだけど、ひとつひとつのシーンや視線、セリフが、父親の苦悩を訴えてくる。不安定・不穏な雰囲気が常に流れているので重苦しい。でも、目を逸らすことができない。

喪った人と同じ歳になって分かる痛み。映像と記憶を織り交ぜてシーンとして再構築するなかで、父親として(エゴではあるのですが)娘を幸せにしたいができていない自身を情けないと思う気持ちや、それでも本当に娘を愛しているという気持ちが伝わってくる。娘はこの短い間でも成長し、親離れしていくのに。

私自身も歳を重ねて、子供時代に親にかけられた言葉や態度を思い出し、今になってその意図に気づくことも増えてきました。親の願いはときおり呪いにもなるし、拒否したくもある。が、一人の人間として苦しんでいた事実があり、それが自分にも影を落としているならば、尚更時間を戻してでもそのときの親に声をかけてあげたい、と思ってしまう自分がいる。

アフターサンとは、日焼けした肌を落ち着かせるローション。手を介して塗るという行為が、唯一の親密さの象徴であり、父親にとっては自分の情けなさを責め痛めつけたいという気持ちを、娘にとっては早く大人になりたいという飛び出そうな衝動を静かに収める行為なのかもしれない。アフターサンとは、輝ける太陽=家族としての青春のほてりが冷めていくさま、の意もあるかもしれない。

鑑賞したあと、しばらく心のざわつきを抑えられなかった。年末、親子で向き合うなら、そして語り合えるなら、「あのとき何を考えてたの?」って聞いてみたくなる一本です。

こちらもおすすめ:親子を軸にした物語2作。真摯とも身勝手とも思える理由による家族との別離から、いびつながらも娘との絆を取り戻していく過程が描かれ、我々にとって追いかけるべき”ザ・ホエール”は何なのかを突きつけられる「ザ・ホエール」。高額宝くじに当選するもアル中にまで落ち込んだ母親レスリーと立ち直れない彼女をついには突き放す息子。自堕落になりながらも何とか持ちこたえようとする彼女を、厳しく優しく接する仲間(ロイヤルが良いのよ)の温かさに触れ、(彼女は飲んじゃいけないけど)ついレスリーに乾杯したくなる「To Leslie トゥ・レスリー」

3位:君は行き先を知らない

とにかくね。この弟くんが可愛いのです(もちろんそれだけではなく、大事な狂言回しの役回りもあるのですが)。

イラン映画をあまりご覧にならない方もいるかもしれませんが(アッバス・キアロスタミ監督が一番有名でしょうか)、検閲による表現の制約があるからだと思いますが名作が多い。本作を撮ったパッナ・パナヒ監督も父親が有名監督(ジャファール・パナヒ)ですが、これがデビュー作。にしては素晴らしすぎませんか。

ストーリーは至ってシンプル。ある理由(表向きは長男が結婚するからという理由)からイランの砂漠など荒れた土地を車に乗って辺境へと進む両親と兄弟の物語。成人している兄がハンドルを握り続ける。明るく歌が好きな母親とムスッとしている厳格な父親、そして空気を読まずはしゃぎ続ける弟くん。緊張感があるなかで、お互いの本音と裏腹なセリフ、その本当の心の内を思わせるような歌が流れていく。とにかく音楽の使い方がうまい。ショットも独特で、弟との別れのシーンなどを遠くから撮ったシーンも印象的でした。

ロードムービーであり、ミュージカルでもある、不思議な映画。全員がその寂しさを自分なりの表現で伝えようとする姿が道のりが進むに連れ、音楽で煽られるに連れ高まっていく。本当に切ない。背景部分にはフォーカスせず(当然といえば当然だが)、離れ離れになる決断を選んだ家族とそのような場面においても素直に気持ちを伝えられない家族の難しさ、を描いた作品だと思う。いまこの瞬間も望むこと無く引き離されている家族がどれだけ世界でいるのか。それを考えると最後の弟くんの歌のシーンでは涙せざるを得ない。

こちらもおすすめ:ロードムービーというつながりで言えば、菊地凛子さん主演の「658km、陽子の旅」。引きこもり女性が断絶していた父親の死にあたり、20年ぶりに故郷青森に戻ることに。アクシデントからやむなく途中からヒッチハイクで進むが、その過程で様々な悪意と善意を浴びる。それでも出棺に間に合うよう前にひたすら前へ。自分のわだかまりの原因のひだが、ひととの出会いで一枚一枚剥がれていくたびに、かつては反発していた亡き父親と心のなかで和解していく。「PERFECT DAYS」は淡々と続く清掃員の日常のループを描いているようで、木漏れ日のように同じものが一つとしてない日々が一つの道として連なっていることを役所さんの素晴らしい演技で表現。ヴィム・ヴェンダース監督だからなのかロードムービー感が漂う一作。

4位:福田村事件

1923年、関東大震災後に起きた福田村事件を映画化。群集心理とは何か。エゴとは何か。差別とは何か。震災から100年間、歴史の闇に葬られていた事件を通して、現代に生きる我々にもそれらの恐ろしさを突きつけてくる。

震災をきっかけに、扇動された町民に行商一行が理由もなく殺されるという実際の事件だが、完全にドキュメンタリーにせずに、ドラマとして映画化している点にこの映画の強さがある。

あそこに”自分とは違う”やつがいる、という視線を随所に散りばめ、民族、性別、身分、貧富、美醜、言語等に起因した差別・被差別意識に基づく各登場人物の”エゴ”を、責任の所在ない”群れ”という形で醜く露出していく。

ひとを叩く気持ちよさを少しでも実感したことがあるひとは目を逸らしてはいけない。ただ観るべし。

こちらもおすすめ:群衆心理、差別、格差、という意味ではこの3作は外せない「Winny」「山女」「遠いところ」。「Winny」は言わずとしれたファイル共有ソフトWinnyを開発した金子氏の話。新しいものへの恐怖。この冤罪事件がなければ日本の起業文化も変わっていたかもしれない。「山女」は変奏版の楢山節考とも言えるかもしれない。差別や格差の固定化への怒りとその破壊を物語に託した。「遠いところ」は沖縄の現実を、女性や子供の置かれる立場の弱さとともに痛々しく描く。

5位:別れる決心

インパクトのあるサスペンス恋愛もの。最初は普通の刑事サスペンスものかと思いきや。近年の恋愛系ではかなりの傑作だと思う。あまり話題になってない気もしますが必見です。

ストーリーもそうだが、とにかく枠に収まらない面白さがある。パク・チャヌク監督の抑えた映像表現も秀逸で、海と山のモチーフが主旋律で鳴っているのも心地良い。そして主演のタン・ウェイさんのファム・ファタールっぷりがたまらない。

夫の山での転落死の容疑者として登場する妻。序盤は彼女のアリバイを巡る物語だが、じわじわと刑事との距離が詰まっていく。疑いが晴れ一件落着に見えてからが本番。すれ違いながらお互いの愛の本質が明らかになっていく過程はもどかしくもあり、美しくもある。

重厚なラストシーン。人は忘れられることで二度死ぬ。だったらあなたの中では一度しか死なない。でも、残された男はどうすれば? 余韻が波のように寄せては返す。

こちらもおすすめ:ミステリ×恋愛で愛の狂気の為せる技を描いた「ザリガニの鳴くところ」。最近日本でも原作書籍が出ていましたね(結構ぶ厚め)。「エゴイスト」は男性同士の恋愛を軸にした物語だが、本質は、愛するとは何なのか? という問いを突きつける真っ直ぐな映画でした。事故の後、封筒を押し付け合う二人のシーンが印象的。なぜ”人を愛する人”はエゴイストなのか、考えてみて欲しい。同じく恋愛ものだけどアキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」は相変わらず大した展開もなくオフビートに進むのだけど、今までの作品と比べると温かく、ほっこりしたいひとはおすすめ。犬の名前に映画愛を感じる。

6位:ポトフ

もちろんトラン・アン・ユン監督だし、名俳優ジュリエット・ビノシュとブノワ・マジメルの二人が主演だけど、テーマ的にはまったくノーマークだったので、鑑賞して嬉しい驚き。冒頭の調理シーンのシーケンスの映像と音の美しさには本当に心震えました。

19世紀末のある美食家と料理人のカップルが主軸に物語が展開されますが、ここで、「あ、美食家とか興味ないし」ってならないでください(笑)。究極の食を求め、料理を芸術の領域まで高めた、美食家と料理人の組み合わせを、食以外の世界でも考えてみてください。編集者と作家、VCと起業家、コーチとアスリート、監督と俳優、などなど自分の馴染みのある世界に置き換えて考えるとぐっと面白くなるはずです。

さる皇太子の晩餐会での料理を任された美食家ドダン。臨むにあたり、シンプルなフランス料理”ポトフ”を選び、挑戦しようとしたさなか、最愛のパートナーであり料理人でありウージェニーが倒れ、、というのが一応の物語の中心ではあるのですが、実際はふたりの可愛らしいやり取り(どっちかというとドダンが追っかける側ですね)と調理と喫食の場面が最大の見せ場。ただ、起伏がないと侮るなかれ。時間や季節によって変わりゆく部屋に差し込む光の使い方などの映像の美しさと、まるで横で食べているような咀嚼音、部屋の外で鳴く鳥たちの声などの自然音の使い方が醸し出す臨場感が圧倒的に素晴らしいです。これは体験してもらうしかないのですが、自分自身がその家に一緒に佇んでいるかのような気持ちになります。全員が思うでしょう、食べさせてその料理! と(笑)

あなたの愛するひとは、パートナーか、料理人か。答えにためらう気持ちがよく分かる。

こちらもおすすめ:フランス映画も良いなぁと思ったら、終活に向かう老女と彼女を乗せたタクシー運転手の深良い話「パリタクシー」と、設定のありえなさは抜きにして単純に音楽を楽しんで欲しい「テノール! 人生はハーモニー」は、気軽に観れる2本としておすすめです。

7位:怪物

自分ひとりで観て、娘も連れて、と二度観に行きました。あえてミスリードさせるタイトルと”怪物だーれだ?”って宣伝だったような気がしますが、それを裏読みしつつも、予想云々関係なく、素晴らしい作品でした。

ぜひ「フランケンシュタイン」という映画を観てから観て欲しい、気もしてます(結構引用されやすい映画ですし)。知らなくても分かる部分もあると思いますが。この「怪物」は「羅生門」(芥川の藪の中を原作とする黒澤明監督の作品)スタイルの映画という言われ方もしてましたが、どちらかというと、そこは表現の仕方の問題で、通底するメッセージの部分は監督も愛好しているという「フランケンシュタイン」にあるのかなと思います。

表向きは先生による生徒の暴行事件という、現実には「でっちあげ」という書籍にもなった福岡市の事件(と言って良いのかわからないが)に着想を得ているのだと思いますが、親、先生、子供、それぞれの目線で展開をしていき、真相はまったく親や先生が予想していたものでは無かったという話の展開。

セクシャリティの問題を少年を主人公に据えて取り上げるのは日本だとまだまだ微妙な雰囲気もあるのでしょうが、あえて幅広い層に向けて観て欲しいという意図が感じられますし、それを支えた俳優の皆さんの演技にリアリティがあって感銘を受けました。主役の少年二人は本当にすごいですね。先が楽しみ。

行間も多い映画なので、私は坂元裕二さんの脚本も読みました。もちろん是枝監督のフィルターを経て変わっている部分もあるのですが、より理解が深まりましたので、お時間ある方はぜひ併せて読んでみてください。

最後は二人、幸せなところ行ったと信じたい。

こちらもおすすめ:ジェンダーがテーマの一つという意味では「バービー」は外せないか。ベンチに座った老女にバービーが伝えるひとことがすべて、な気もしてるのですが(笑)。あと、もっと複雑な気持ちにさせられるという意味で、より映画らしいのが「イニシェリン島の精霊」。何で指切るねん! ってくらいに切るので痛い。それほどの押さえなければならない気持ちって何だろうかって話ですね。コリン・ファレルのアホっぽさ全開な演技は流石(褒めてます)。

まずはお蔵入りしなくて良かったなという気持ちが先に来ましたが、これは観れて良かった。売れないリスクとってでも歴史モノをこの角度で攻められるのは北野監督しかいないのでは。

ご存知、本能寺の変に至るまでの織田家中のひとたちを中心に描く。信長の家臣たちは後継ぎの座を狙い、百姓は侍になる夢を追い、という立身出世劇。芸達者の俳優さんたちによる癖の強いキャラづくりがそれぞれ眩しい。

信長はとりあえず訛がきつくて何言ってるか分からない(笑)し、荒木村重、えっそういう設定って感じだし、おぉ明智光秀となるほど。。さすが殿、笑いに貪欲ですねって感じの豊臣秀吉と、本当に中村獅童さん? って感じの侍を難波茂助とそれぞれ異常にアクが強くて面白い。

主従の掟、衆道の絆など、各自が目先の動機や欲求に心を満たすことに動かされながらも、最後は出世という闇に引き寄せられていくこの時代の空気。そのなかで最も武士の世の中を俯瞰しつつ冷笑的に見ていた秀吉が生き残り、おそらくその後をするっと生き延びて最後をかっさらうのはまったくプライドのない徳川家康(影武者何人おるんや)、という構図は、うまく現代にも引き寄せられる普遍性を醸しつつ、さらに強烈な皮肉が効いている。

基本的にブラックユーモアが好きなひと向き。私は好きです。

こちらもおすすめ:権力欲の浅ましさと、その欲を充足するための暴力という手段の行き着く先という意味ではスコセッシ監督の重厚な「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」は外せないでしょうか。ひさしぶりにディカプリオがめちゃくちゃ良い役やってるんじゃないでしょうか?(役柄はダメ人間役ですが) そして同じく暴力が終盤につれエスカレーションしていくという意味では、日本版の「最後まで行く」。原作の韓国版はサスペンスとして面白かったのですが、こちらは、男性版の「テルマ&ルイーズ」って感じで、ラストそうなるんかーい! って感じが、ポリコレ三昧で息苦しい世の中を突き破る勢いがあって断然こちらが好きです(原作英題はA HARD DAYでこちらはHARD DAYSってのも良き)。あと、ちょっと遠いけど、暴力的なシーンOKということでホラー免疫ある方はインフルエンサー兄弟が監督の「トーク・トゥ・ミー」も観てみてください。若者を取り巻く問題もさらっと折り込みつつこれだけキャッチーなホラーをつくるセンスが凄いです。今年最も投資倍率が高かった作品というのも頷けます。

9位:エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

邦題の付け方って本当に難しいですよね。これはこのままで良かった気もするけど、よう分からん! ってなって観てなかったひと多いんじゃないかなぁ。「ター」と一緒。

マルチバースで突然ミッションを帯びた女性が救世主として世界を救うというお話なのですが、基本的に設定はただひたすら楽しむべし。誰しもが思う、こういう世界もあったら、って気分も満たしてくれるかもしれません。意外と際どい笑いとかも入ってるので、家族モノとはいえ子供と観るの悩みますねw

とはいえこれはSFの形をした家族ドラマであり、親子・夫婦・恋人などのすれ違い、が中心に描かれています。ゆえに、最後(予想通りと思いつつ)ほろっとしてしまう時に、マルチバースでずらしながら重ねてきた意味が、大団円にむけて収束していくさまをみて、監督の手腕の巧みさにハッと気付き、拍手してしまいます。

ようこんなハチャメチャな脚本書きましたね。あと、ちょっとした有名映画へのオマージュなんかも入ってるのでそれを探すのも楽しいかも(分かりやすいです)。

こちらもおすすめ:「ザ・クリエイター」は SF×家族モノという意味では近いかな。設定は「ターミネーター」なので、ふーんという感じかもしれないですが、アジア=AI側、欧米=人間側、みたいな構図で描いているのは珍しいかなというのと、人間ドラマとしての面白さは十分楽しめる作品だと思います。

10位:バビロン

サイレント時代を中心に映画界を描く映画という意味で、外すことはできない作品。映画を観た量がある方のほうが最後楽しめるかもと思う場面もありますが、普遍性はあるのでぜひ。

サイレント映画全盛の1920年代のハリウッドを舞台に絶頂期のスター俳優、俳優に目指す女性、映画製作に憧れる青年の3人を軸にその趨勢を映画愛とともに描く作品。「セッション」や「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督らしい、音楽やダンスなど魅力的なシーンが随所に散りばめられています。

物語は、サイレントからトーキーへと観客の求めるものが移っていくなかで、落ちぶれていく者、チャンスを掴む者、道を外れる者、を描いていくオーソドックスなもの。いつの時代も、抗いがたい技術革新の結果、取り残されたり新たに波に乗っていく人たちはいるもので、現代や自分の来し方に当てはめて唸ってしまうひともいるかもしれません。サイレントからトーキーの流れについては「雨に唄えば」が下敷きになっているので、観るとより理解が深まるかも(恥ずかしながら私は未見でした)。

これまた落ちぶれていく役を演じるブラッド・ピットが良い味出してます。マーゴット・ロビーも、野心や美しさだけでなく、闇感を醸し出していてさすがだなぁと(バービーとの幅を考えても)。

私自身は「サンセット大通り」と「群衆」くらいしか初見では気づけなかったのですが、名作映画へのオマージュが随所に織り込まれているので、古典的名作もわりと観てるよって方は宝探しのように作品を観ることができると思います。

ラストシーン間際、時代背景を無視した監督の映画愛があふれる映画をつなぎこんだシーケンスがあるのですが、これはニュー・シネマ・パラダイスへのオマージュですかね。ただ、こちらは知ってる! って作品が多いと思うので映画好きには楽しい瞬間かなと思います。

いやぁ、映画って本当にいいものですね(笑)

こちらもおすすめ:映画愛あふれる映画といえば「アステロイド・シティ」「フェイブルマンズ」の2作。前者は人気のウェス・アンダーソン監督の映画内映画を描く映画。凝った作品づくりと色使いが特徴的な監督らしさ満開。好き嫌いは分かれると思いますが。その点後者のスピルバーグの自伝的映画と言われる「フェイブルマンズ」のほうが分かりやすい。夢を追う大切さを改めて実感します。最後に出てくるデヴィッド・リンチの水平線を巡るセリフがカッコいい。

まとめ

取り上げなかった作品について

シリーズ物は年度で区切り、その年の一作のみで評価することが難しく、ピックアップしませんでした。ゆえに、個人的には好きな「ミッション・インポッシブル」「ジョン・ウィック」「イコライザー」などのアクション系は外していますし、マーベルやDC系も同様です。アニメも演者が人間ではないという意味で、別枠と捉えています(が、「君たちはどう生きるか」は難解でしたね、、あれ神曲とか古事記とかの知識要りません?)。

2024年期待の作品

「DUNE」「ジョーカー」「猿の惑星」「マッドマックス」等の続編、バーベンハイマーで炎上した「オッペンハイマー」も自分としてはやはり観てみたい。名匠ビクトル・エリセの「瞳をとじて」、久々に? 前評判が高いリュック・ベッソンの「DOGMAN」、ゲームストップ株騒動がテーマの「ダム・マネー ウォール街を狙え!」、エマ・ストーン主演でシザーハンズっぽい雰囲気の「哀れなるものたち」、大好物のミュージシャンものの「ボブ・マーリー:ONE LOVE」「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」、安定のA24の「ボーはおそれている」、原作漫画で号泣してしまった「違国日記」、cakesの連載からはじまった「笑いのカイブツ」なども観たいし、挙げはじめる、、とキリがない!!

本noteは1万字近くの大作になってしまいましたが、皆さまお読み頂いていかがでしたでしょうか? 少しでも「あ、これ観てなかったけど観てみよう」って思って頂けたら嬉しい限りです。そして機会があれば語り合いましょう!

2024年も”二時間の祝祭”も楽しんでいきたいと思います!

皆さま良いお年を!


もしサポートを頂きましたら起業家の皆さまへご馳走するなりして還元したいと思います。よろしくお願いします。