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白と黒の交わるところ

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白と黒の交わるところ

風の強い日だった。

私は大学を終え、家へ帰る途中であった。駅へ歩みを進めていると、背後から物凄い勢いで走ってくる足音が聞こえた。そしてその人は私をあっという間に抜いていった。

彼だった。-ここではKと呼ぶことにする-私はKを知っていた。だが話したことも、目が合ったこともない。ただ、Kは素晴らしい人間だった。

私がKを初めて認識したのは、大学3回生の授業の時であった。それは設計の授業で、十数人

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白と黒の交わるところ.7

すっかり日は暮れた。私は眼鏡をかけアパートの前で少し様子を見ることにした。するとKは意外にもすぐに玄関からを出てきた。スーツ姿だった。さっきまでのカジュアルな格好と打って変わってフォーマルである。どこへ行くのだろうか。私は電柱の後ろに隠れながら、再度付いていく。

電車に乗り、さっきとは別の路線に乗る。一度乗り換えをし、目的の駅に着いたようだ。そこは超高層ビルが並ぶ高級街だった。めったに来れる場所

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白と黒の交わるところ.6

授業が終わるとすぐにKは教室を後にした。私もすぐに帰る準備をし教室を出た。

校舎を出ると、Kの姿はもうなかった。見失ってしまった。とんでもない速さだ。だがまだ諦めるわけにはいかない。私は全速力で大学の最寄り駅に向かった。

改札を通りホームへ着くとKは耳にイヤホンをし、本を読みながらベンチに腰掛けいた。私はKに気づかれないようこっそりと、反対側の椅子に座った。私はKがどんな本を読んでるか知りたか

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白と黒の交わるところ.5

それから、次の授業もその次の授業もKは来なかった。Kがいなければ私は大学に通う理由がない。だが、ただ体調が悪かっただけかもしれない。大事な用事があったのかもしれない。私はKが来るのを待ち、大学に通い続けた。

そしてようやく7回目の授業にKはやってきた。これを待っていた。このためだけに今まで大学に通い続けたといっても過言ではない。久しぶり-といっても2回目だが-に会ったKはやはり変わっていなかった

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白と黒の交わるところ.4

第2回目の授業にKは来なかった。

私はそれでは大学に通う意味がないので、その日は途中で早退をした。

元々、私が大学に入学した目的が4年間の猶予が欲しいという理由だった。そしてその猶予期間に、人間の魅力について考えることに時間を費やそうと決めた。つまり私の研究対象は人間の魅力であった。

別にフリーターでも良かったのだが、学生であるという身分がなにかと有利に働くと感じたため、言ってしまえばその肩

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白と黒の交わるところ.3

*Kについて

Kはきもい。顔だけを載せた写真を見るとである。しかしこれはあくまでも私の認識によるものでしかない。もしかしたら私だけの感覚かもしれない。

誰かを、“きもい”と感じるのは人それぞれ、千差万別だから、こうはなっから“きもい”と断定するのは安易で、ひいては大変失礼に値するかもしれない。そしてさらには危険なことかもしれない。でも、例えば100の人間、電車に揺られるサラリーマン、幸せいっぱ

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白と黒の交わるところ.2

Kは鼻くそを食べていた。

なんとそれも堂々と!さらにその人目を憚らない純然たる立ち振る舞いに至上の余裕すら感じられた。

その姿はまるで誰をも寄せ付けない圧倒的なオーラを身に纏っているようだった。

私はKに惚れてしまった。−断っておくがこれは恋心ではない。私は完全な異性愛者だ。

これまでこれほどまでに格好よく、男らしく、ダンディーに鼻くそを食した人間がいただろうか。

Kはその一般的な価値観

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