#375 ディスカッションが上手な人の3つの特徴
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
私は学生時代、毎週末に全国の大学を訪問し、刑事問題や医療問題、教育問題、労働問題などについて様々な大学の人たちと3〜4時間英語でディスカッションするという、一見奇妙な活動を行っていました。
おかげさまで、「安楽死=Euthanasia」、「死刑執行人=Executioner」など、仕事をはじめてからは今のところ一切口にすることのない英単語をたくさん覚えられた、という効果はありました。しかし、英語云々と言うより、様々な価値観の人が6人程度集まり、3時間の中で何らかの結論を導き出すプロセスや、様々な社会問題について色んな文献やデータを見ながら自論を作り、周囲との意見交換を通じてロジックを練り上げていくこと自体がとても貴重な経験でした。
短時間で自分の意見を分かりやすく伝えるためのノウハウについても学び、これはまた別の機会にでもご紹介しようと思いますが、大人になってからも「この人はディスカッションが上手だな〜」と唸らされる人には、いくつかの共通点があることが分かりました。
今日は、私がこれまで関わってきて、「ディスカッション上手」と感じた人を数名思い浮かべながら、その特徴を3つご紹介します。
私も特に仕事の中で誰かとのディスカッションを通じて意思決定していく、協力者を巻き込んでいくシーンが多々あるので、改めて整理することで、意識的に身につけていきたいと思います。
1. 話を構造化できる
1つ目からいきなり難易度が高いのですが、議論の道筋を上手く引いて話の軸を作れる人は、「話の構造化」に長けています。
例えば私の場合、管理職任用試験において会社の未来に関する様々なお題を渡され、その場ではじめて会った人たちと結論を出していく、というプロセスを経験しましたが、当然ながら同じ社内と言えども、クライアントや職種が異なれば、具体的な問題として普段感じていることには違いがあります。
だから、表面上の具体の話について、キーワードだけ上手く集めて何とかまとめようとしてしまうと、「マズイ幕の内弁当」が出来上がります。
行政のパブコメで全ての意見を拾って実現しようとするのがそもそも無理なように、バックグラウンドが異なる人たちが、ましてや任用試験というプレッシャーも高い場面において、全部をブランドした1つのものを作りあげようとするのは無理な話です。
じゃあどうするか?ですが、複数の人が話す具体の話の共通項を見つけ、上手く汎化させることで、どの現場でも共感できる課題設定ができると、議論の下地が出来上がります。
さらに、参加者の理解を促す、構造化された議論のテンプレートを提示できると、「素晴らしい!一本!」となります。
例えば、会社の戦略を議論するような場で、「新規顧客か既存顧客か、新技術か既存技術か」の4象限で意見が分かれていたとします。
「新技術に投資して新規顧客開拓に力点を置くべき」と考えるAさん、「新技術を既存顧客に適用することに力点を置くべき」と考えるBさん、「既存技術でいいから既存顧客への既存業務に集中すべし」と考えるCさん、「既存技術でいいけど、新規顧客を開拓すべし」と考えるDさんを想定します。
当然、これらを並列の関係と見立てて、全部大事ですよね〜では、何でもかんでも詰め込んだだけの「マズイ幕の内弁当」状態です。
ここで構造化が出来るとはどういうことかと言うと、まずは議論全体のゴールを定義したうえで、「顧客」という観点で「新規か既存か」、「技術トレンド」という観点で「新技術か既存技術か」という切り口を見つけることです。
その上で、まずは「1. 新技術で新規顧客向けに業界の未来図を自分たちで描いて発信しよう」。
次に、「2. 業界の未来図を発信したことで得られる市場からのフィードバックを元に、新技術を上手く取り込んだ商品を開発し、既存顧客向けに営業してみよう」。それから「3. 既存顧客への新商品導入実績を磨き、新技術を自分たちの既存ノウハウに変えていこう」。最後に「4. 新しく磨いて既存ノウハウとしたものを武器にして新規顧客への営業を強化しよう」というように、流れが作れる人がいると、本当にスマートだなぁと感じます。
この1→4の流れの構造は、「1. 新規顧客×新技術」→「2. 既存顧客×新技術」→「3. 既存顧客×既存技術」→「4. 新規顧客×既存技術」という構造になっています。
具体的な話を抽象化するだけでなく、このように体系的にまとめられると、議論の説得力が上がりますね。
私もチームメンバーが作った資料をレビューする機会を多いですが、レビューはダメ出しの場ではなく、「話の構造化を通じて、理解をより深める場。より尖ったアクションプランの作戦を練る場」と捉えると、なかなか面白いものです。
2. ゴールに辿り着くための論点を提示できる
2点目は、ゴールに辿りつくための論点を提示できるか否かです。これも普段から意識的に鍛えていないと、なかなか難しい。
例えば、先日行った生成AIワークショップを経て、現場の様々な課題が浮き彫りになってきました。
課題を並べて、どう次の前向きな話に持っていくか、ということを考えていた時に、私の頭の中では「誰の課題を解決するか→社内か、一般顧客向けか」とか、「生成AIが間違うこともある前提で、適用しやすい業務と、適用しにくい業務に分類するか」といった切り口は思いつつも、イマイチ提案の決め手に欠けていました。
そんな中、上長の部長も入れてディスカッションしてみたところ、サラッと「すぐできるものと、深掘りの議論が必要なもので分けてみたら?」という論点が提示されました。
これが私にはかなりしっくりきた論点で、「そうか、じゃあそれぞれの課題に対して、今のプロジェクトの中でもすぐに取り込んでいけそうな話と、もう少し長い目で議論を深めていくための取り組みの2つのアプローチで提案出来そう!」と具体的な次の一手が見えたのです。
まさしく、モヤモヤ状況を打破する論点です。次のアクションが明らかになって、具体的な行動に移せる論点を提示できる力は、さすがだと感嘆しました。
3. 潮目を変えられる
最後は、議論の流れを変える、あるいはより深い思考を促す問いを議論の中に投入できることです。
話をまとめる能力も必要ではありますが、よくあるのが前に発言した人の言い換えで終わってしまったり、プラスアルファのエピソードを添えるところで終わってしまうことです。
議論を活性化する上では、こういう動きも大切ではありますが、ファシリテーションを通じてチームの学びを深める立場にある人としてはモノ足りません。
そこで、これまでの議論の繰り返しや延長線上の付け足しではなく、それまでの話の逆を考えるような問い、そもそも本当にそうなのか?を疑う問い、議論のゴールに遡る問いを提示したり、全体の議論の中で今自分たちがどこにいるか?を示せる人は、議論がお上手です。
以上3点、私の観察によるディスカッションか上手な人の特徴でした。
マネジメントの仕事における打ち合わせの場は、メンバーに新たな気付きと学びを提供する貴重な時間です。だから、ダメ出しやただの情報共有、報告の場にならないよう、学びとアクションを促すためのディスカッション能力を如何なく発揮できるようにしていきます。