イチャイチャパラダイス
目の前でイチャイチャされる経験はあるだろうか。
僕はつい最近あった。友だちとその彼女、そして僕と彼女とでした、4人でのご飯でのことだった。
行ったのはファミレスで、カップル同士が向かい合う形で、ボックス席に座った。それぞれ同性が正面に来る座り方だった。
そして席に着くと、注文をした。向こうはタブレットでメニューを選び、僕らは紙のメニューから選んだ。
それから初めに届いたのは、山盛りのポテトだった。僕らは無心に食べていたのだけど、ふと視界の上部の端で何やら動きが見えた。
そっと、上目がちに顔を上げて見てみると、僕の友だちが彼女の頭をポンポンしていた。なんの脈絡もなく始まったので、声もなく「?!」となった僕はスっとまた目線を下げ、ポテトを食べた。この時は無心で食べたというよりかは、集中していたというのが正しかったかもしれない。
なんというか、衝撃が大きかったのだ。人前で、しかも全く知らない人たちではなく、友人の前で、そんな感じのイチャイチャが繰り出されることは想定していなかった。
僕らが人前では、冷ややかというか、過度に触れ合うことをしたくないからかもしれない。その意味で、意外性があった。
それからもたまに、似た場面があった。2人で見つめあって、「なんで見つめてるん?」「なににやけてんの」とか、そういう会話が二人の間で繰り広げられた。それらの声は向かいにいるので、丸聞こえだった。さらにはアーンとかもしていた。
きっと少し前の頭ポンポンも、こういうちょっとしたイチャイチャから始まったのかもしれない。
向こう側にいる2人は、僕たちが見えない世界にいるのかと思うほどだった。そして2人だけの世界が始まると、僕らは目を伏せた。
自分たちのご飯に集中した。見てはいけないものを見ないようにする気持ちが、この時すごくわかった。ガン見する勇気はなく、あったのはチラ見する好奇心だけだった。
終わってみれば、向こうのラブラブ感がはっきりと残る食事だった。もちろん、4人での会話もあったけれど、会話の内容よりも二人の世界の方が頭には残っていた。
帰り道、向こうのカップルとは別々に帰ったのだけど、僕らは「すごかったね」という感想を話した。どうやら彼女もイチャイチャのタイミングでご飯に集中していたことは、この時知った。
後日、恋人の母から「あんたたちにもイチャイチャして欲しかったんじゃない?」という意見があったけれど、僕としては否定したい気持ちでいっぱいだ。
大学生1年生の頃、駅の改札前で別れるのが惜しいのか、イチャイチャしているカップルを見て「自分にはあんなことはできない」と思ったことを鮮明に覚えているけれど、この日の気持ちも似たようなものだった。
電車の中でも過度に触れ合うカップルを見るけれど、そういう時に視線に困ることは、よくある話だとも思う。
面白いし、話の種になるけれど、友だちのイチャイチャを見るのはなんだか複雑な気持ちだ。