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初心者がやりがちな「気持ちの悪い文章」を書かないようにするための技術

読んでいて、「気持ちの悪い文章」がある。例えば、次のような文章だ。

「只野小葉さん。当年五五歳になる家の前のおばさんである。このおばさん、ただのおばさんではない。ひとたびキャラバンシューズをはき、リュックを背負い、頭に登山帽をのせると、どうしてどうしてそんじょそこらの若者は足もとにも及ばない。

このいでたちで日光周辺の山はことごとく踏破、尾瀬、白根、奥日光まで征服したというから驚く。

そして、この只野さんには同好の士が三、四人いるが、いずれも五十歳をはるかに過ぎた古き若者ばかりなのである。マイカーが普及し、とみに足の弱くなった今の若者らにとって学ぶべきところ大である。

子どもたちがもう少し手がかからなくなったら弟子入りをして、彼女のように年齢とは逆に若々しい日々を過ごしたいと思っている昨今である。(『朝日新聞』一九七四年七月一五日朝刊「声」欄・人名は仮名)」

これは、ジャーナリストで、元朝日新聞社の編集委員であった、本多勝一の著書「日本語の作文技術」に出てくる、「無神経な文章」の一例だ。

本多勝一は、この文章を「一言でいうと、これはヘドの出そうな文章の一例といえよう。しかし筆者はおそらく、たいへんな名文を書いたと思っているのではなかろうか。」と評している。

本多勝一の言い方が気に障る方もいるだろうが、この件については、私も強く同意する。この文章は、かっこいい文章を書こうとして、かえって文章をダメにしてしまう要素の多くが入っているからだ。

なぜ「気持ち悪い文章」になるか

この文章を、本多勝一は、次のように分析している。

多少とも文書を読みなれた読者なら、名文どころか、最初から最後までうんざりさせられるだけの文章だと思うだろう。なぜか。あまりにも紋切型の表現で充満しているからである。手垢のついた、いやみったらしい表現。

●「只野小葉さん。当年五五歳……」という書き出し。「このスタイルが流行しはじめたのは、たぶんこの一〇年前後(一九六五年前後から)以内のことであろう。」

●「このおばさん、ただのおばさんではない」と書く。この表現がまた、どうにもならぬ紋切型だ。

●「「ひとたびキャラバンシューズをはき、……」も文自体が笑っている。つづいて「どうしてどうして」だの「そんじょそこらの」だのという手垢のついた低劣な紋切型がまた現れる

●「現れる。「足もとにも及ばない」も一種の紋切型だ。さらに「ことごとく」「踏破」「征服」といった大仰な紋切型がつづいた末「驚く」と自分が驚いてしまっている。読んだ方は逆に全然驚かない。

●「三、四人いるが」と、あの不明確なガ(第六章)。

●「古き若者」という面白くもない文自体の笑い。「学ぶべきところ大」というような、これも紋切型の(「ぼやくことしきり」式の)修辞。

●最後にまた「……昨今である」という(「……今日このごろである」式の)大紋切型で終わる。しかも後半の文は全部「である」で終わっている。」

本多勝一は、
「ぬけるように白い肌」
「顔をそむけた」
「嬉しい悲鳴」
「大腸菌がウヨウヨ」
「冬がかけ足でやってくる」
「ポンと百万円」
「穴のあくほど見つめる」
などの表現は過剰であるという。

さらに、雪景色といえば「銀世界」。
春といえば「ポカポカ」で「水ぬるむ」。
カッコいい足はみんな「小鹿のよう」で、涙は必ず「ポロポロ」流す。
このような表現はすべて「紋切り型」だといい、紋切り型が「気持ち悪い文章の元凶」だと述べている。

なぜ「気持ち悪い」のか

では、なぜ「気持ち悪い」と感じる文章なのか。
まとめると、要因は2つ。

1.誇張

「ただのおばさんではない。」
「どうしてどうしてそんじょそこらの若者は足もとにも及ばない。」

など、不要な誇張が際立っている。「ただのオバサンではない」と思うかどうかは、オバサンについての記述を読んで読者が判定することであり、作者がそれを書くと、白けてしまうのである。

同じようなりゆうで「並々ならぬ」や「圧倒的に」など、中身を伴わない誇張表現も、あまり書くべきではない。
圧倒的であることを表現したいなら、その「圧倒的」の中身を記述すべきだ。

2.過度に装飾的

本多勝一の指摘では「紋切型」と言う指摘であるが、個人的には「装飾的な表現」が多すぎると感じる。

例えば
「学ぶべきところ大である。」
といった表現はよく見かけるが、普通に「学ぶべきことは多い」でなぜダメなのか。
「思っている昨今である。」は「思っている」ではなぜダメなのか。

一般的には、文章は短い言葉で多くを表現すればするほど、美しくなる。過度な装飾的表現は、読者にとって余計でしかない。

ライターのやってはいけないこととは

では、もう少し事例を見てみる。
以下は「気持ちの悪い文章」の具体例だ。

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