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日本の地主階級の資産、所得や年収を推計してみた。

広大な土地を所有し、その一部や多くを第3者に貸し付けることで、いわゆる「地代収入」や「家賃収入」を得ているような個人や一族(家系)の事を『地主』と言ったりします。

都心部にも地方にも、そのような「地主階級」が少なからず存在し、地方などでは、そのような地主階級の家系が「地元の名士」と呼ばれていることもあります。

この記事では、日本における、そのような「地主階級」に該当するような人達の総資産や所得水準などを、政府の公式な調査資料などから推計してみたいと思います。

日本の地主階級の資産、所得や年収を推計してみた


いわゆる「地主階級」に相当する最低条件は、第3者に賃貸し(ちんがし)できる土地や建物などの不動産を所有している人であり、そのような『自身が居住する敷地以外の土地を所有している世帯』の推計は、以下のようになっています。

出所:国土交通省「土地基本調査総合報告書(2018)」より
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000058.html

上記の「土地基本調査総合報告書」は5年おきの調査結果を公開しているため、現在は2018年度の統計データが最新の公開情報となっています。

2018年時点の総世帯数5,378万世帯に対して『現住居の敷地以外の宅地を所有している世帯』は、全体の8.6%に相当する464万世帯となっています。

上述した『現住居の敷地以外の土地(宅地)を所有している』という条件のみでも、この条件を満たしている世帯は、全世帯の10%にも満たないということです。

対して『現住居の敷地を所有している世帯』は、48.1%の2590万世帯となっていますので、日本の半数近い世帯は「自身が居住する土地(敷地)を所有している」ということになります。

つまり、残りの半数以上の世帯(約2700万世帯)は『第3者が所有する土地(敷地)で生活している』ということです。

居住地以外の土地所有者は全世帯の8.6%。


ちなみに上記で示した国土交通省による「土地基本調査総合報告書」には、以下のようなデータもあります。

出所:国土交通省「土地基本調査総合報告書(2018)」より
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000058.html

ここで言う地主階級が所有しているような『現住居の敷地以外の土地(宅地)』は、その60.8%ほどが「相続」または「贈与」によって取得されています。

地主階級の6割ほどは、親やその先祖代々からの土地を「相続」または「贈与」される形で、それを所有しているということです。

残りの4割ほどが、一般的な「売買による土地の取得」ということになりますが、この中にも『親からの相続によって得た財産などで新たに土地を購入した』というケースが含まれています。

地主階級が所有するような『現住居の敷地ではない目的で所有される土地』の6割以上、おそらくその7~8割ほどが「相続」という形で故人からその遺族、多くは親から子へと引き継がれていることになります。

まさにこれこそが「地主」という呼称が、その一族(家系)に対して用いられたり、そのような一族が「地元の名士」と呼ばれたりする所以に他ならないということです。

居住する敷地以外の土地の6割以上は「相続」によって所有されている。


ただ、現住居の敷地ではない目的で所有されている土地の全てが「第3者への賃貸し」によって利用されているわけではありません。

以下は「建物(住宅)」に関するデータとなりますが『現住居以外の住宅を所有している世帯』における、その用途の内訳となっています。

出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査 調査の結果(2018)」より作成
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tyousake.html


現住居以外の住宅を所有している世帯は全体の9.5%に相当する511万世帯で 『第3者への住宅の賃貸し』を行っているのは、現在、空き家となっている住宅を所有している世帯も併せて141万世帯(約3%)となっています。

対して、親族居住用に住宅を使用している世帯が、その倍の247万世帯となっているため、居住する敷地以外の土地や住宅を所有している世帯の半数ほどは、それを親族の居住用に使用している事が分かります。

よって、先立って上述した『第3者への土地・建物の賃貸しを行っている』という地主階級の条件を満たしているのは、全世帯の約3%に相当する「141万8000世帯」ということになります。

この141万世帯の「地主階級」が、全世帯の半数を超える2700万世帯の多くに「アパート」「マンション」「戸建て」といった様々な形で、土地・建物の賃貸しを行っているということです。

分譲マンションの所有(所有権)などにおいても、原則として「敷地権」と呼ばれる土地の所有権が付属される形となるため「現住居以外の住宅の所有者」は、そのような敷地権を含めて「土地の所有権」を有しているのが一般的です。そのため、本記事では「現住居以外の住宅の所有者」も「土地所有者(地主階級)」として推計します。

第3者への土地・建物の賃貸しを行う「地主階級」は全世帯の約3%。


全世帯の3%に相当する141万世帯の地主階級が所有する『現住居の敷地以外の土地(宅地)』の資産価値は、以下のデータより推計することができます。

出所:国土交通省「土地基本調査総合報告書(2018)」より

世帯所有の土地の総資産額:595.7兆円
現住居の敷地の総資産額:378.4兆円
現住居の敷地以外の宅地の総資産額:157.3兆円

国土交通省「所有主体、土地の種類別、土地資産額の時系列推移」より

現住居の敷地の平均総資額:1,460万円
※現住居の敷地の総資産額:378.4兆円÷所有世帯数2,590万世帯
現住居の敷地以外の宅地の平均総資額:4,286万円
※現住居の敷地以外の宅地の総資産額157.3兆円÷所有世帯数367万世帯
地主階級が所有する土地(宅地)の平均資産額:5,747万円
※現住居の敷地の平均総資額1460万+賃貸し用宅地の平均総資額4286万

国土交通省「所有主体、土地の種類別、土地資産額の時系列推移」より算出

上記の各平均総資額は親族住居用の住宅や別荘などに使用されている土地も含めての金額となっていますが、現住居の敷地以外の土地(宅地)を所有する世帯および地主階級の世帯が所有する土地の平均資産価値は、上記の通り「5700万円以上」ということになります。

この土地(宅地)の上に「親族住居用の住宅」や「別荘」を建てて所有しているか、地主階級においては、そこに賃貸用の戸建て、アパートやマンションなどの賃貸物件を所有しているということです。

地主階級が所有する「土地」のみの資産価値の平均水準は5747万円。


そんな地主階級が所有している土地、建物から、彼等が継続的に手にしている地代収入、家賃収入は以下のデータから推計することができます。

出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査 調査の結果(2018)」より

民営借家世帯数:1529万6000世帯
民営借家1カ月あたりの家賃平均:60,615円

総務省統計局「住宅・土地統計調査の調査結果」より算出

民営借家所有者の地代・家賃収入(1カ月):9271億8075万円/月
※民営借家1カ月の家賃平均60,615円×民営借家総世帯数1529万5000世帯
民営借家所有者の地代・家賃収入(1年間):11兆1261億円/年
※1カ月間の地代・家賃収入9271億8075万円×12カ月
地主階級1世帯あたりの平均地代・家賃収入:784万6382円/年
※年間地代・家賃収入総計11兆1261億円÷地主階級世帯総数141万8000世帯

総務省統計局「住宅・土地統計調査の調査結果」より算出

第3者への土地・建物の賃貸しを行っている141万8000世帯(空室所有者含む)の「地主階級」が手にしている地代・家賃収入の年間平均額は784万円ほどで、月収にすると65万円ほどに相当することになります。

また、これはあくまでも「住宅」として賃貸ししている不動産のみを対象とする推計となっていますので「店舗(テナント)」や「事業所(オフィス)」として、法人などの事業者に賃貸ししているような不動産からの地代や家賃収入は含まれていません。

そのようなテナント用の事業者向け不動産(土地・建物)を所有しているような地主階級も、日本各地に数多く存在します。

そのような地主階級が実際に手にしている地代・家賃収入を含めるなら、彼等はまず間違いなく、ここで推計した金額以上の「不労所得」を、自らが所有している土地、建物などの「不動産」を介して手にしているということです。

厳密には法人所有の不動産も「民営借家」に含まれるため、上記で推定した地代・家賃収入には、そのような法人所有分の不動産を対象とするものも含まれています。

ただ、そのような法人所有の不動産も、その法人の株式を所有する「個人の資産」に含まれます。そして、そのような法人の株式所有者の割合は、結局のところ、土地・建物などの非金融資産(不動産)を所有している富裕層ほど高い傾向にあります。

そのため、仮に「法人所有の不動産」を厳密に分けて推計を行っても、その法人の株式を所有する個人の持ち分による実質的な資産価値の増価分などを推計していけば、ここで言う「地主階級」が手にする利得は、ほぼ上記の推計額と変わらないものになるか、より顕著なものになる可能性が高いです。

地主階級の「不労所得」は労働者階級の「労働所得」の1.89倍


ここで言う「地主階級」に対して、いわゆる賃金労働(給与所得)によって生計を立てる世帯を「労働者階級」とするのであれば、その労働者階級の平均年収は以下のような推移を辿っています。

出所:厚生労働省「勤労統計調査」より作成
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1.html

2018年の給与所得者(労働者階級)の平均年収は2023年度と同じ414万円となっていますので、2018年度の地主階級の地代・家賃収入の平均額784万円は、労働者階級の給与所得平均の1.89倍だったことになります。

労働者階級の平均年収(労働所得):414万円
地主階級の地代・家賃収入の年間平均:784万円

この所得差(格差)自体をどう捉えるかという視点もありますが、この2つの所得差(格差)には「不労所得」と「労働賃金」という決定的な違いがあります。

出所:厚生労働省「総実労働時間の推移」より作成
ttps://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1.html

2018年の給与所得者一人あたりの年間平均労働時間は1850時間となっていますので、365日間の1日平均換算は約5時間ほどということになります。

つまり、地主階級は労働者階級に対して1.89倍大きい収入を1日5時間以上の「余暇」と共に手にしていることになります。

対して、労働者階級は1日5時間以上の労働を投じても、その対価として手にできる所得は、地主階級の地代・家賃収入の6割の金額に満たないということです。

この格差の6割は「出自(相続)」によって生まれている。


先立って上述した通り、このような地主階級の「不労所得」のもととなっている不動産の大半は、そのほとんどが親から子への「相続」によって引き継がれています。

つまり、ここで推計したような「資産(土地・建物などの不動産)」と、そこから手にできる実質的な「不労所得(地代・家賃収入)」を手にすることができるかどうかは、その大部分が「出自(生まれ)」によって決まっているということです。

ここで推計したのは、あくまでも土地、建物などの「不動産」のみですので、実際のところ、そのような非金融資産を多く所有している富裕層は、現金や株式などの「金融資産」の方も平均以上に所有しています。

ここで推計したような土地、建物などの不動産を対象とした「相続」によって生じている格差は、その氷山の一角でしかないということです。

そんな富裕層が、実際にどれくらいの財産を故人から遺族へ、親から子へと相続しているのかについては、以下の記事で推計しています。

***

現代民主主義社会がいつまでも相続財産の存在を許すはずはなく、最終的にそのような財産所有権が消えてなくなるはずだ。

エミール・デュルケーム「デュルケームと相続:家族財産の社会的機能」より

相続財産を持つ人々は、財産からの不労所得収入の一部を貯蓄するだけで、その資本を経済全体より急速に増やすことができる。こうした条件下では相続財産が生産の労働で得た富より圧倒的に大きなものになり、資本の集積は極めて高い水準に達する。これは現代の民主社会の基本となる能力主義的な価値観や社会正義の原理を覆す水準に達しかねない。
---(中略)---
自分の労働力以外の何も持たず生まれ、慎ましい状態で日々、労働に明け暮れて暮らす人々にとって、その一部、大部分を相続で得ただけの資産家達が、自分たちの労働で作られた富のうちの大量の部分を獲得しているという現実は受け入れ難い事実だろう。

トマ・ピゲティ「21世紀の資本」より

いわゆる「相続」の制度が、実際に大きな「格差」を生み出し、それを更に「拡大させている」としたなら、それは「能力主義」および「成果主義」を前提とする資本主義社会において『公正』と言えるのかどうか。

そんな「相続制度の正当性」については、以下のような記事がございますので、こちらも是非、併せてお読みいただければと思います。

相続税および贈与税を100%にすることの社会的不利益の考察(準備中)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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