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外国為替市場におけるFX取引会社を介した取引量の考察。

外国為替市場には、多くの機関投資家、個人投資家、トレーダーなどが参入し、彼等は「利益の追求」を前提に外国為替の取引を行っています。

そして、このような「利益の追求」を前提とする形で行われている外国為替の取引は、以下の2つに大別することができます。

・FX会社などを介して行われているデイトレードなどの短期的な為替取引
・金利差収益、海外投資などを目的として行われている長期的な為替取引

前者は短期間の為替レートの変動によって生じる「為替差益」を目的とする取引(売買)であり、いわゆる「デイトレーダー」などがFXなどの証拠金取引などで行っているもの。

対して後者は、特定の通貨(外貨)に伴う金利、その外貨による海外資産への投資などから、長期的なリターンを追求するもの。

ここで言う「短期間」と「長期間」に明確な線引きがあるわけではありませんが、外国為替への「投機」や「投資」は、上記に大別できると思います。

外国為替市場におけるFX会社を介した取引量の考察


ここで挙げたものの中で、多くの個人トレーダーに馴染みがあるのは、やはり外国為替相場を対象とした、いわゆる「FX」による短期的な取引(トレード)ではないかと思います。

ただ、FXにおいて行われる、いわゆる「FX会社」を介して行われている取引は、個々のトレーダーによる取引注文(売買注文)が、そのまま「外国為替市場」に流入していくわけではありません。

そのようなFX会社に対して行われている個々の取引注文(売買注文)は、それぞれのトレーダーごとの注文を受けている個々のFX会社内で内部的に「処理」されているからです。

そのため、インターバンク市場(銀行間取引市場)などの主要な外国為替市場に対して、各FX会社を介して行われている個々のトレーダーの取引が「直接的」に反映されることは基本的にありません。

ただ、個々のFX会社自体がインターバンク市場などに直結する形で行っている取引があり、これがそれぞれのFX会社を利用している個々のトレーダーの取引の一部を「間接的」に反映しています。

具体的には、個々のFX会社は、その利用者からの取引注文に対して、同一通貨への買い注文と売り注文を相殺させる「マリー取引」と呼ばれる処理を先立つ形で行っています。

このマリー取引で相殺できなかった注文分が、特定の通貨における過度な注文量となっているため、これを銀行などの金融機関に対する「カバー注文」と呼ばれる注文によってリスクヘッジしています。

このカバー注文を行わなければ、過度な注文量となっている通貨の取引レートの変動方向によっては、多大な損失を被ってしまうことになります。

よって、個々のトレーダーからの、特定の通貨ペアに対する「買い注文」と「売り注文」の注文量が完全に一致している場合は、その全ての売買注文がマリー取引によって処理されることになります。

そのマリー取引を行った上で、どちらかに偏る形で多くの注文があった注文分のみが「カバー取引」の対象となり、その分の売買注文が実際の外国為替市場に反映される形になるということです。

FX会社への取引注文は、その一部が「市場」へ反映されている。


FX会社は、ここで解説した「マリー取引」と「カバー取引」によって、全ての顧客からの売買注文をリスクヘッジしています。

この仕組みによって、たとえ外国為替相場がどのような方向へ変動しても、一切のリスク(損失)を被ることはなくなります。

その上で個々の利用者(トレーダー)からの注文を処理する時点の「買い注文」と「売り注文」のレート差(スプレッド)から利益を得ているということです。

このようなトレーダーが行っているFX会社を介した取引注文の「注文量」と「取引高」は、金融先物取引協会および東京外国為替市場委員会による推計によると、以下のような数字になっています。

個人FX市場の動向(4 月・10 月中の 1営業日平均取引高を平均した値)
出典:日本銀行(日銀銀行ワーキングペーパーシリーズ)

こちらの通り、個人FX市場全体の取引高は、2022年4月10月中の1営業日の平均取引高で1京2173兆円(ドル円レート150円換算で約81兆ドル)。

その中で、ドル円(USD/JPY)の取引が、その75%にあたる9000兆円(ドル換算で約60兆ドル)ほどを占めていることが分かります。

こちらから取引高から年間の取引額を算定すると以下のようになります。

全取引高:81兆ドル×250日(土日を除いた1年間の日数)= 2京288兆ドル

対して、BIS(国際決済銀行)が推計している外国為替市場の取引高は以下のようになっています。

2022年一日あたりの外国為替市場における取引
額所:BIS(国際決済銀行)

こちらのデータによると、全通貨の取引高の合計は「7兆5080億ドル/日」となっているため、この取引高から年間の取引額を算定すると以下のようになります。

全取引高:7兆5080億ドル×250日(土日を除いた1年間の日数)=1877兆ドル

つまり、外国為替市場における全取引高は1日あたり7兆5080億ドル、年間推計で1877兆ドル。

これに対して、FX会社を介して行われている取引は1日あたり81兆ドル、年間推計で2京288兆ドルと、その取引高の規模は10倍以上も大きいものになっているということです。

外国為替市場の10倍を超えるFX会社による取引高。


ただ、FX市場における81兆ドル/日(年間推計2京288兆ドル)の取引高の大部分は買い注文と売り注文の相殺を行うマリー取引で相殺されています。

その上で溢れた分の買い注文、または売り注文のみが、それぞれのFX会社を介して外国為替市場の方へ反映されているということです。

つまり、外国為替市場における7兆5080億ドル/日(年間推計1877兆ドル)の中には、個々のFX会社が行っている「カバー取引」に相当する取引高が含まれていることになります。

これらの数字から、いかにFX会社の方で処理されている注文の大多数がマリー取引によって相殺されているかが垣間見えると思います。

実際にはカバー取引を行わず、FX会社の方で受けている注文(取引)が、相当な取引高となるレベルであるのではないかとも言われています。

とは言え、その取引高の規模は外国為替市場に対して、FX市場は2022年時点でも、その10倍以上の規模があることに違いはありません。

これは個人トレーダーの増加や過度なレバレッジ取引なども、その背景にあると考えられます。

ただ、FX会社を介して行われている取引(トレード)は、極めて短時間の間に行われている売買(エントリ―&クローズ)が大多数を占めています。

そのほとんどが、いわゆる「デイトレード」と呼ばれるような24時間以内に売買に該当するということです。

FX市場の取引の大半を占める短期売買。


先ほど示した以下の資料における「建て玉」という項目は『未決済となっているポジション数量』を表すものになっています。

個人FX市場の動向(4 月・10 月中の 1営業日平均取引高を平均した値)
出典:日本銀行(日銀銀行ワーキングペーパーシリーズ)

このデータを見えても分かる通り、平均的な未決済ポジションの数量は、2022年の全取引に対しては7.93兆円分であり、ドル換算で「52億ドル相当」ということになります。

まさに、この数量に相当する注文分が、少なくとも1日以上の範囲でポジションを保持しているような取引分に相当する取引額ということになります。

つまり、個人FX市場全体における一日あたりの取引量81兆ドルに対する割合で言えば、1日以上の範囲で保有されている未決済ポジションの数量は、0.006%ほどでしかありません。

個人FX市場における99.99%以上の取引に関しては、日を跨いで保有されることなく、その日のうちに売買(エントリ―&クローズ)が行われているということです。

FXによる短期売買が為替相場に及ぼす影響。


よって、デイトレードなどの短期的な取引では「エントリ―注文」に対して、その逆方向の「クローズ注文」が、その短時間の間に処理されていくことになります。

ゆえに1日単位で言えば、そのような注文は、それこそFX会社側で処理するマリー取引によってそのまま全て相殺されるような注文でしかありません。

また、トレーダーの中には、数時間、数分といった範囲でエントリ―とクローズを繰り返すスキャルピングトレーダーなども数多く存在します。

まさにそのようなトレーダー達がFX会社を経由した日々の取引高を過剰に大きくしているということです。

そして、そのような「短期的な売買」は全て、短期間で買い注文と同数量の売り注文、または売り注文と同数量の買い注文を処理していることになります。

そのため、FX会社を介して行われているような「短期的な売買」は、その間の短期的な相場には影響を与える余地はあるものの、長期的な相場に対して与える影響は、ほぼ皆無ということになります。

外国為替相場を「短期的な視点」で捉えるのであれば、FX会社を介して行われているようなデイトレードなどの短期的な為替取引の動向は、それを分析する意義もあるかもしれません。

ですが、為替相場を「長期的な視点」で捉えるのであれば、そのような短期的な為替取引の動向などは、さほど考慮する必要はないということです。

外国為替相場を「短期」で捉えるか「長期」で捉えるか。


ただ、実際にFXを行っているトレーダーの大多数は、まさに「デイトレード」のような短期的な取引を行い、その大多数が勝てていない状況にあります。

そもそも外国為替相場においては、短期間の相場の動向を予測(分析)する事自体が極めて「難しい」という特性があります。

いわゆる「相場」の動向を予測する手段は『テクニカル分析』と『ファンダメンタルズ分析』に大別されますが、短期間、短時間の相場の動向は『テクニカル分析』による予測が基本となります。

ファンダメンタルズ分析では、そもそも短期間、短時間の相場の動向は、まず予測することはできないからです。

ゆえに、実際にFXを行っているトレーダーの大半は、テクニカル分析を行って外国為替相場を予測しようとしています。

ですが、外国為替相場はテクニカル分析による予測が極めて難しい性質を有しているため、これが大多数のFXトレーダーが負けている決定的な要因となっています。

よって、外国為替相場は、そもそもテクニカル分析が困難なため、短期的な相場の動向を予測することが非常に難しい相場と言えます。

そんな相場を対象に、極めてリスクの高い短期的なレバレッジ取引を行い、継続的に勝ち続けることなど、まず不可能です。

ゆえに、外国為替相場はデイトレードのような短期的な「投機」の対象にするのではなく、長期間の動向を予測した上で行う「投資」の対象にする方が賢明だと思います。

つまり、外国為替相場は短期的な相場の動向を分析する「テクニカル分析」ではなく、長期的な相場の動向を分析する「ファンファメンタルズ分析」に適しているということです。

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外国為替相場を長期的に捉える視点や、為替相場のファンダメンタルズ分析については、以下のような記事がございますので、こちらも是非、併せて参考にしてください。


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