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おっちょこちょい人

おっちょこちょい人   作:高木優至


(つまずいて人にぶつかる。)

あ、ごめんなさい。私おっちょこちょいなもので! 痛くなかったですか? 大丈夫ですか?

私は昔っからおっちょこちょいで、良く母から「朱里はじっとしてなさい。」と言われるくらい、動けば何かしらやらかす子供だった。時と経験は人を成長させるというが、私は今だに…。

本当にごめんなさい。弁償しますね。あ、どこも何ともないですか。すみません。すみませんついでに何ですが…ハチ公ってここからどうやって行けばたどり着けますか? はい、あの渋谷のハチ公です。…ここから真直ぐ500mくらい。ありがとうございます! あなたはもう、私の命の恩人です! かれこれ1時間ほどこの辺を…。

とまあ、こんな感じでドジっ子なんです私。てへぺろMAX。すみません。少し可愛く言ってみました。古いとか言わないでくださいね! 先日なんか…。

あの、おばあちゃん。ここじゃないと思います。今恵比寿ですけど、ヒカリエは渋谷なので。…違うよ。恵比寿ヒカリエなんて聞いたことないし。いや、中目黒も違うよ? どうしても渋谷に行きたくないのかな? おばあちゃん。し・ぶ・や。し・ぶ・や。だから恵比寿違うって! どうしてそうなるかなぁ?

どうしよ、どうしよ! おばあちゃん一人でたどり着ける気が全くしないわぁ。よし! ここは朱里ちゃんの出番でしょ! おばあちゃん、私がヒカリエまで連れてってあげる。…という訳で、おばあちゃんをヒカリエまで連れていくことになったのですが…。

(通行人に話しかける。)あの~、渋谷ヒカリエってどちらになりますか? はい。え! 反対側ですか! わかりました。ありがとうございます。おばあちゃん、反対側だって。出口間違えたかなぁ? 

あ、おばあちゃん。たぶん孫じゃないから。あの人も“どうしたらいいんだろう”って、巣穴突かれた蟻んこみたいにオロオロしてたから。いや「どのタライ良いだろう。」なんて言ってないよ? 竜彦って誰? 孫? じゃあきっと竜彦さんじゃないよあの人。孫って歳じゃなかったでしょ。ほら、逆側だってさ。ヒカリエ。

こっちだって。おばあちゃんヒカリエまで何しに行くの? 孫の入学祝を買いに…へぇ~。おめでとうございます。…でも、それってわざわざヒカリエまで行って買う意味あるのかな? あ、ごめんごめん。何でもないです。

そうして私たちはヒカリエに到着! …しなかった。

(通行人に話しかける。)あの~、すみません。この辺にヒカリエはありますか? え? 反対側? あれ? え~、あの、私達反対側から来たんですけど?っておばあちゃんイケメンはいいから! えー、変な所曲がっちゃったのかな? 可愛いとか…あの。おばあちゃん、イケメン好きねぇ。私だってイケメンに食いつきたいよ! あ、ごめんなさい。欲望が駄々洩れしてしまいました。
「おばあちゃんも可愛いですね。」とかイケメン対応ー! あ、じゃあおばあちゃんを連れて行って…あ、そこはNGなんだ。ありがとうございました。

ごめんね。なかなか辿り着けなくて。私が方向音痴だから。疲れたでしょ? 少し休みましょうか。
私ね。おばあちゃんがいないんです。小さい頃に両親が離婚してしまって絶縁状態。お母さんも施設で育ったから。だから、おばあちゃんが困っていると助けてあげたくなるんです、私。何もできないのにね。…え、何ですか?

(いるだけでいいのよ。にこにこ笑っていてくれるだけで、お母さんはもう幸せなの。特別な事なんてしなくていいのよ。だって、あなたが生まれて来てくれたことがもう、特別なんだから。)

おばあちゃん! 私…私。

涙が止まらなかった。何だかわからないものがたくさん溢れ出してきた。おばあちゃんの手の中で、私はただただ泣いていた。恥ずかしいね。もういい歳なのに。

私達が見上げたその空には、青い青い空がどこまでも広がっていて…ふと見降ろした視線の先には、大きな建物が目に入ってきた。私達が行きたいと歩き続けた。渋谷ヒカリエがそこに佇んでいた。

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