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好きですハダカデバネズミ

好きですハダカデバネズミ  作:高木優至


(自宅の飼育部屋。)

どうです? 気持ち悪いでしょ? そうなんです。私も最初は「きもっ!」って思ったんですよ。ですがね、小学6年生の時に上野動物園に行ったんですよ。そうしたら出会ちゃったんですよ。この子たちに。ハダカデバネズミ。

もうツンツルテンのぶよぶよで、見るからに負け組ですよね。こうして見ているとなんか、田舎のおばあちゃんを思い出しちゃうんですよ。ほら、このつぶらな瞳なんて正におばあちゃん。あ、別に私のおばあちゃんが出っ歯とかそういう事じゃないですよ。ま、入れ歯ですけど。

私ですね。実は実家に行くのが大好きで、根っからのおばあちゃん子だったんですよ。だからなんか、そう思ったら急にこの子たちが可愛く思えてきて(思い出し笑い)あ、すみません。ちょっと思い出しちゃって。

そうですよねそうですよね。何でこんな生き物って思いますよね。不思議でしょう。そうなんです。この子たちね。本当に不思議がいっぱいなんですよ。30年も生きたりする奴がいたりして他のネズミに比べて寿命が桁違いに長いんですよ。無酸素状態でも20分くらい生きられたりして。本当にありえないことがいっぱいあるんですよ。それでも何より面白いのは、基本的に全員が血縁関係なんです。全員ですよ? みんな家族なんですよ、この子たち。

あ、そんなの当り前でしょうって顔してますね。でもね。ここには10匹くらいしかいませんが。自然界では1つのコロニーに200とか300匹とかいることもあるんですよ。そう考えるとそれが全員みんな家族って…ね? 凄いでしょ。

ああー、大変そうって思いますよね。でもね。この子たち野菜しか食べないから、自家菜園で育てた野菜あげてれば餌代がかからないんですよ。それに水も飲まないから掃除や飼育の手間が格段に楽! まあ、ライトとかエアコンとか加湿器とか、電気代はかかったりしますけどね。

ま、そりゃたまには買いますよ。無農薬のものとか。でも大人になったこの子たちだと、環境さえ整えてあげればちょっとやそっとの事じゃ死にません。成長した子の死亡率が格段に低いんですよ。なんと! 癌にもならないんです。なんか耐性があるみたいで、今まで研究されてきた子たちで癌で死んだ子って居ないんですよ。凄いでしょ。

(溜息)だけど最初に来た子が…あ、ミクルって言うんですけどね。なんか誰かと喧嘩をしたみたいで、後ろ脚にかじられた跡があって。来て数日で亡くなってしまったんですよね。…悔しかったなぁ。あの時は。

うーん、悲しいというか何というか。私がちゃんと見てなかったせいで死なせてしまったので。もの凄く悔しかったんです。

…ミクルを飼う少し前にですね。おばあちゃんが、死んだんです。癌で。この子たちは癌になる事はないですし、そう簡単に死ぬはずはない。そう思っていたんですよね、私。…驕りがあったんですね。心の中に。悔しかったなぁ。何やってるんだろって。おばあちゃんも助けられなかったし、ミクルも…。

だからこの子たちは、この子たちだけは私が守ってあげようって。そう思ったんです。バカですよね。この子たちはおばあちゃんじゃないのに。おばあちゃんの面影を映して守ってあげようなんてね…。
家族思いで可愛いんですよ。この子たち。外敵から家族を守るために自分を犠牲にする奴とかいたりして。ほんとカッコいいんですよこの子。

あ、何かすみませんね。しんみりさせちゃって。本当に大好きだったんです。おばあちゃん。…だから今度こそ必ず。


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