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萌えよ好き好き大作戦

萌えよ好き好き大作戦   作:高木優至

(学校に登校してくる。教室。席に着く。)

おはよう。おはよう、美幸。何か疲れた顔してるよ? 朝練? そりゃまあご苦労なこって。折角の華の女子高生のお顔が台無しだよ。あ、今日の保健体育2組だっけ? 移動面倒臭ー。これこれ美幸さんや。隣とは言うてもな、面倒臭いものは面倒臭いのじゃよ。あー、わしゃーもう一歩も動けーん。あーん、嘘嘘私の事見捨てないでよー。うん、じゃまた後でね。

なんだかんだ美幸とも幼稚園からの付き合いなんだよな。
“そんな美幸にもまだ言えないことがある。それは…。”

(後ろの席を振り向く。)

“水森海斗。彼はサッカー部のミッドフィルダー。いわゆるトップ下というヤツだ。彼のプレイはもー! もー! 超カッコいい!
私は中1の頃からぞっこんLoveなのだ。だって立っているだけで絵になるし、鉄棒でくるくる回る姿も素敵だし、野良猫にフッと笑いかけるその王子スマイル…マジ天使。そんな彼を見続けて早4年。高校生になったというのに、まだその他大勢の一員でしかない。これは…これはヤバいぞ。
私は…私は何としても卒業までに彼とお近づきになりたい。そのために私は、今日から好き好き大作戦を決行するのです。そして毎日毎日ただ見ているだけの自分とはもうおさらばするのじゃー!“

と言ってもなー。どうすれば海斗君とお近づきになれるんだろう…。あれか? ハンカチを落として…ってダメだダメだ! 床に落ちたハンカチなんてもう汚物よ汚物! 汚らわしい。

“だとしたらどうする? そうだ! 曲がり角で彼とぶつかってキャッ作戦。んあーダメだダメだ。接触なんてそんな…はわわわわわ。頭ポアーってなってアホ面曝してマイケル・ムーア監督だよもう。
あーもうなんて使えない頭なんだ。この脳みそピーマン野郎め! って、え…あれ? 海斗君こっち見てない? 近づいて…え、ちょっ、まっ、ダメッ、まだ心の準備が、いやん、んーっ。

…ってあれ? 海斗君?…って前の席の竹下かよ! 何だよ竹下。期待させんじゃねぇよ。お前の脳みそピーマンにすん…って、昨日二人でゲーセンに行った! 羨まっ。竹下め…机に肘ぶつけてジーンてなれ、机に肘ぶつけてジーンてなれ。

あれ海斗君。え、あっ何? こっち見てる? いやん、ナイスイケメン。ってそうじゃなくて。え? 何? ついにこの私の内なる魅力に気が付いてしまったの? 海斗君。ダメよ、ダメダメ。私には信明っていう父親が…。“

(名前を呼ばれる。)はぅ、何? え…頭?(間)えっ!

“寝ぐせかーい! 今朝一生懸命、1時間半かけてお水ペタペタしたのに。クソ―、何いきり立ってんだよこの毛は! 海斗君に「寝ぐせ、跳ねてるよ。」って言われちゃったじゃん。こいつか、こいつが戦犯のぴょん吉野郎なのか。どちグソ恥ずかしいー。あ、でも海斗君とお話出来ちゃった…って出来ちゃったじゃねぇよ。私の株が…ダメだ。今すぐ肥溜に頭突っ込んで死にたい、肥溜無いけど。”

あ、え、きゃ。やだー、どこで跳ねたんだろう?この巻き髪きゅるるんちゃんは、メッ。

“巻き髪きゅるるんちゃんって何だよ。お前が巻かれろ。今すぐに巻かれろ。そして地中深くに封印されてもう二度とこの世に姿を現すな。しかもメッって何だ?メッて…あー終わた。私の青春、終わたよこれ。灰色の学校生活。そして皆口々に囁くのだ…巻き髪きゅるるんちゃんと。”

あ、え…。そんな事、無いけど。

“「前橋って面白い奴だったんだな。」だって。え、これってどういう意味? ひょっとして来ちゃった? いやそんなことないよね。え、でももしかして、起死回生の逆転満塁ホームラン? キター。来ちゃったわこれ。私のターン来たわー。
どうする? どうするんだ私。…そうだ。今だ、今しかない。今こそ好き好き大作戦、決行の時じゃ!“

あ、あの。私前橋だけど、その。瑞樹! 瑞樹だから、私の名前。

“くあー、言ってしまった。言ってしまったよついに私は。ダメだ。海斗君が全然見れない。全然見れましぇん。どうすればいいんだー。どうすればいいの信明。”

あ、ですよねー。

“知ってるって言われたー。そりゃそうだ同じクラスなんだもん。何言ってんだ私。くあー、さっき堀った穴まだ残ってますかー。何でこうなんだ。何でこうなんだよ私ー! 助けてー。助けて美幸ー…ってもういない。はやっ。”

あ、そうだよね。もう移動しなきゃだよね。

“絶対いつまで居んだこの女って思われてるー。あーもうダメだ。総司令官様。好き好き大作戦、大失敗なのであります。敗残兵は荷物をまとめてとっとと隣の部屋へ赴くのでありますよ。そして美幸に慰めてもらうんだ。”

(名前で呼ばれる。)はうっ、え何? あ、ペンケースね。これ忘れたらそりゃ勉強にならないもんね。ありがと。(間)水森君。

(教室を出る。)

“…よっしゃー! 海斗君が名前呼んでくれた! グッジョブ。私グッジョブだよ。もうこれで思い残すことは何もない。心置きなく隣のクラスへ…って先生来てるやばっ! 何とか大成功で終わった私の好き好き大作戦は、まだまだこれから始まったばかりなのだ。マル。”

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