見出し画像

東京の人は冷たいという被害妄想

車の運転が苦手です。
おどるポンポコリンでも歌いながら
マイペースにちんたら走ってりゃいいのなら嫌いじゃないのだけど
首都高とか、ビュンビュン車どおりの多い幹線道路などは、みんなの流れについていくのに必死で手足がプルプルしてしまう。
 
鈍臭いので、みんなの流れにうまく乗れない。
みな、どんどん私を抜かしてちょうだい。

といつも思っている。

1歳娘を連れて買い物に行った帰り道。

駐車場から幹線道路に出たいのだが、
ラッシュ時。
車の流れが止まらずなかなか出られない。
あれ、いつもは駐車場係のおっちゃんが立っていてくれるのに。今日はなぜかいない。

信号もないしどうしよう。こわい。
おっちゃんは急な腹痛などでトイレに駆け込み中なのだろうか。おっちゃん、早く来て。お腹痛いとこ申し訳ないが、なるはやでおねがい。

こういう時、強引に車の頭を出して入っちゃう人とかいるが、
難易度が高いし、トロ過ぎて私はそれができない。そしてしばらくしても、おっちゃん全然来ない。
 

やばい。

私のうしろにも車が待っている。
早く出なきゃ。
しかしタイミングがなかなか無く、焦る。
もう一台後ろに車が並んじゃった。
超焦る。
しかもチャイルドシートで娘が泣いている。

待って。今、母さん、車出れねぇ沼にハマっていて、集中していますので。
ごめん。泣かないで。

あ、今、沼に…、沼から…っ!!
…っあぁ!!い、今行けたのにぃ!
……うぁぁっ、行けばよかったぁー!!

と、バンジージャンプ前の人みたいになっていた。
 
 
あーもう、誰か入れてよぉ!
なんで誰も入れてくれないのぉ!
後ろの車からもイライラテレパシーを感じる。
すみません。ホントごめんなさい。
 

…誰も道路に入れてくれない。


もしや私のトヨタシエンタはみんなから仲間ハズレにされているのか。
「お前なんて、幹線道路に入って来んなよ。ノロマ!」
と言われているのかも。
娘の泣き声を聞きながら私も泣きたくなった。
いや、結構鼻水垂らして泣いていた。
 
もう一生このまま幹線道路には出られないのではないか。
そんな錯覚にも陥った。

  


ずいぶんと時間が経ってから、
やっとトラックに乗ったおっちゃんが
「出な!」
というように、ハイビームのライトで合図してくれた。
 
うわーーん。おっちゃぁぁん、ありがとう!!
そのちょっと乱暴風な優しさが大好きだああ!
 
あのトラック運転手、クラスにいたら好きになっていたかも。ポッ。

そしてやっと私は体感2年ぶりくらいに幹線道路に出ることができた。
祝、脱出。バンジー!
 

家までの帰り道、ハンドルを握りながら
だんだんモヤモヤしてきていた。
なんでだれも入れてくれないんだろう。
車1台くらい入れてくれたっていいじゃんか。
みんな冷たいな。
いや、東京の人ってなんて冷たいんだ。

♢ 

家に無事着いた安心感から

「あんなにたくさん車が走ってるのに、誰も入れてくれないんだもぉん!」

 
と、エラソーなおばさん度100%に私はなっていた。
 
「私の地元だったらそんなことゼッタァァイないよ。東京って、みんな急ぎすぎなんだよ。東京の人ってやっぱり冷たいんだよねぇ〜〜〜」
と。
この時なんてもう、エラおば度120パーだ。
 
 
すると夫は
 「流れが早いと、急に止まれないもんだよ。」
と冷静に言った。
 
私はその一言で一瞬にしてそれまでフガフガしていた鼻の穴は縮まり、しゅっとなった。
そして夫は続けて
「通り過ぎてから、あ、今譲ってあげればよかったな。って思ってた人もいるんじゃない。おれも結構そういう時あるから。」
と言った。
 
ますます鼻の穴が縮んだ。
あの時、譲ってくれなかった人達のことをみんな冷凍庫人間、アイスピーポーだと思っていた。
しかし
夫の言葉によるとそうではないらしい。
もしかしたら、
「止まりたくても止まれないんだ、ごめん!」的な人たちがたくさんいたのかもしれない。

確かに、運転しながら、
瞬時に道路に出ようとしている私のシエンタを察知し、自分のうしろの車の車間距離なども確認しながら車のスピードを緩め、
私に出ていいよ的な合図を出さなければいけない。

その一連の流れを一瞬でやらなければいけないのだから。日曜日のお昼時のマックのお姉さん並みの俊敏な頭の回転と動きが必要じゃないか。

こうやって具体的に想像してみれば、
「そんなの誰もできましぇーん」
なことくらいわかるし、
ましてやトロすぎる私だったら到底できない。
どうして反対側の気持ちが想像できず、エラおばなんかに…。バカバカ。

ましてや、東京の人は冷たいなんて、
架空の東京の人をつくりあげて。
なんと恥ずかしい。
自分だって東京都に住んでいるのだから東京の人なのに。都合の良い時だけ地方出身者になり、これまた都合の良い時だけ東京の人になる。
まったくあきれたもんですよ。

しかし「東京の人が冷たい」という文句、どこかでも聞いたことがあった。
私が知っている具体的東京人は、
みんな頑張り屋で、みんな優しい。
架空の東京の人なんて一体どこにいるのだろう。

私はなんだかものすごく自分がイヤになり、
いつもはコーヒーにミルクを入れて飲むのだけど、ブラックにして飲んでみた。

ぐびぐび。
苦い。苦いぞ。ブラックコーヒー。
ああ、ごめんなさい。東京。
ごめんなさい。東京の人。


「ごめんなさい」
東京生まれ東京育ちの夫を、
勝手に東京の人代表にし、謝った。
声にきちんと出せば、ちょっとは違うかなと思って。

そして、さっきまで冷たくみえた東京の街が今度は優しくみえた。
ほんとうに、自分勝手に世界をみているな。
気づかせてくれる存在がいて少し救われた。




おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?