2022年下半期に聴いてた旧譜40選
上半期と同様にサクッとまとめたいと思います。下半期は40枚で。
Electronic / Ambient
Cluster / Sowiesoso (1976)
別に詳しくはないけど、ジャーマンプログレあるいはクラウトロックと呼ばれる類の音楽は、何だか難しくも妙にポップで人懐っこいものがあるように思う。Clusterのこのアルバムは前作Zuckerzeitよりも静謐で穏やかな実験的電子ポップスになっていて、アルバムジャケットの森の湖畔のような美しさも感じる。彼らからBrian Enoの活動にも繋がるし、これがAphex Twinの15年くらい前と思うとすごい。
Lovesliescrushing / Bloweyelashwish (1993)
Lovelessのロック的要素を薄めて甘美なフィードバックノイズのみを抽出したようなノイズアンビエント。シューゲイザーの一番美味しいところがこのアルバムに遺憾無く刻印されている。
sora / re.sort (2003)
雨音サンプリングからのキラキラした美しき電子音の数々で掴みはバッチリ。まさに00年代エレクトロニカといった音で、かつ日本人らしい叙情性も兼ね備えた素晴らしいアルバム。rei harakamiといい、こういう繊細な美しさを表現させたら、日本人が最も得意なんじゃないかという気がする。知らなかったけど、こういうのを知れるのもTwitter様々。
Prefuse 73 / One Word Extinguisher (2003)
Prefuse 73の超有名盤「Vocal Studies~」より好きかもしれない。スクラッチありのヒップホップビートとエレクトロニックの洗練された組み合わせが素晴らしい。
Rei Harakami / [lust](2005)
ついにこの下半期コロナに罹りまして39度台の発熱が3日くらい続いたんだけど、そんな時にRei Harakamiの優しい音色が本当に身体に染みた。soraに対するコメントでも書いたけど、叙情的なメロディは日本人らしさを感じて唯一無二だなと。もう没後10年以上経つのか・・・。「Red Curb」と並んで永遠のマスターピース。
Kelley Polar / Love Songs of the Hanging Gardens (2005)
ポヨンとしたベース音がまさに2000年代ディスコって感じでMetro Area(過去記事)に似てるな〜と思ってたら、Metro AreaのMorgan Geistがプロデュースしているらしく、そりゃ似てるよね。そもそもこのKelley PolarはクラシックがそのバックグラウンドにありMetro Areaのアルバムのストリングスを担当していたということで、なるほど、だから適度にストリングスが効いてるのね。
Zomby / Where Were U In '92 ? (2008)
一番有名な2nd「Dedication」は不穏な音色で聴かせるタイプのダブステップだったけど、これはレイヴ、ブレイクビーツ、ガラージといった要素を詰め込みまくりのやりたい放題でかなりアガる。最近のシーンの傾向(知らんけど)を考えると、今聴きかえすなら2ndじゃなくて絶対にこの1st。
Mala / Mala in Cuba (2012)
実はele-kingの2012年年間ベストの2位なんですね。キューバ/ラテンの多彩なリズムとダブステップ派生のベースミュージックをピアノサンプリング等を絡めて実に上品に、誠実にブレンドした質の高いアルバム。ダブステップといえばロンドンという大都会の冷たくて薄暗い音楽というイメージだけど、このアルバムではダブステップがキューバの風を感じて開放的になり、一歩進化したような音が鳴っている。
The Caretaker / Everywhere at the end of time (Stage 1) (2016)
認知症の病状の進行ごとに作品をリリースするというコンセプトの「Everywhere at the end of time」シリーズ。よく聴いてたのはその中でも1作目で、これはThe Caretakerが有名になった(?)「An Empty Bliss Beyond This World」と似て、古き良きジャズやクラシックのコラージュ音楽として非常に心地が良い。本シリーズは、ステージが進むにつれてどんどんカオス味が増していき、病状の進行の凄まじさが表現されている。ということで繰り返し聴いたのは1作目だったけど、一度は全てのシリーズを通して聴くべき作品群だと思う。
Oren Ambarchi / Hubris (2016)
超絶かっこいい!全3曲40分のミニマルなジャムセッション集という感じだが、もはやテクノとかそっちの領域にも踏み込んでいる。クラウトロックからの影響も大きいだろう。Mark Fell、Arto Lindsay、Jim O'Rourke、Ricardo Villalobosなど錚々たるメンツが参加している。一番好きなのがM3で、ヴィラロボスのミニマルなアレンジとリンゼイのギターがほんとかっこいいんだよな。新譜も最高すぎたし、Oren Ambarchiは完全に今後のフォロー対象となりました。
Kelman Duran / 13th Month (2018)
今年アーティスト単位で最も聴いたのがKelman Duran。6月くらいに公式から出てた大量のフリー音源(200曲以上!)をダウンロードして貪るように聴いていた(今はどうもダウンロードできなくなってる)。その中でもこのアルバムは彼の代表作であり、確かに傑出している。
Jon Hassell / Listening to Pictures (2018)
1960年代から大活躍のトランペッター/コンポーザーJon Hassell大先生の2018年作は全く古臭くない極上のエレクトロニクス作品で、ジャズ、ドローン、ポストダブステップ、エスニック…様々な要素が大胆に、かつ繊細にブレンドされている。そして、やっぱり幽玄なトランペットが最高。本作リリース時に81歳だったとは全く恐れ入ります。
Michel Redolfi / Sonic Waters, Underwater Music 1979-1987 (2021)
水中音楽で有名というイタリアのMichel Redolfiの編集盤。海の底、もしくはプールの底にいるかのような水中アンビエントがあまりに気持ち良すぎる。思えば、昔から水の音がサンプリングされているような音楽や、湖や海を連想させるような音楽に心惹かれる自分がいて、多分それはスイミングや水球といったウォータースポーツをやっていた個人的背景も関係していそうな気がする。そういう意味でもこの音楽はドンピシャ。優勝。
Soul / Funk / Regge / Dub
Donald Byrd / Ethiopian Knights (1971)
どファンキー・ジャズ。いや、ジャズがメインというよりファンクの中にジャズがある感じか。ベースとドラムが作り出す強固なリズム隊とミニマルなカッティングギター、うねるトランペットが激アツ。有名な「Places and Spaces」はこれよりも洗練されているが、こちらの方が沸々とした熱気を感じられて好きかも。
Fela Kuti / Roforofo Fight (1972)
まさに戦いと解放の音楽である。冒頭からノンストッパブルなアフロビートの嵐と疾走するホーンセクション。アドレナリンの分泌がすごいです。考えるな、感じろ。
The Voices of East Harlem / The Voices of East Harlem (1973)
ニューヨークのスラム街から12〜21歳の子供たちを集めて結成したゴスペルグループThe Voices of East Harlemが、Curtis Mayfeildらをプロデューサーに迎え、ゴスペルから離れてソウルフルでスウィートなR&Bを聴かせる。特にM1"Chasing In"、M5"Wanted, Dead or Alive"は白眉の出来だ。
Magnum / Fully Loaded (1974)
レアグルーヴ界でも名盤として誉が高いこのアルバム。そのまんまでB級感のあるジャケットから想像する音を遥かに超えるドス黒いグルーヴを鳴らしてくるやん…。確かに最高級のB級ファンクと言えるかも。ねちっこいリズム隊だけでなく、ホーンセクションも最高。
Little Beaver / Party Down (1975)
子どもの頃に出っ歯だったことからそれをネタにつけたらしいLittle Beaver。ジャケットの見かけとは裏腹になかなかカッコよくてアダルティなギターと歌だ。リズムボックスによるチャカポコサウンドも良いし、ジャジーでブルージーな雰囲気も気に入った。M5はブッダブランドがサンプリング。
Blackbeard / I Wah Dub (1980)
The SlitsやThe Pop Group等をプロデュースしたDennis Bovellの名盤UKダブ。夏はダブとばかりによく聴いた。UKならではのひんやりとした空気感とゾクゾクするようなダブ処理感が最高すぎる。
Rock / Pops
Frank Sinatra / In the Wee Small Hours (1955)
Arctic Monkeysの新曲が先行リリースされてから、昔のムードポップス系が聴きたくなって、ということはシナトラ大先生でしょとちょくちょく聴いてた。映画熱が再び高まって、古めの映画を見るようになったのも、この辺りを聴きたくなった要因の一つかも。最近ではあまり聴かないムーディでセクシーな低音ボーカルは唯一無二だね。
Nancy Sinatra & Lee Hazlewood / Nancy & Lee (1968)
Frank Sinatra大先生の長女ことNancy Sinatraとカントリー寄りのプロデューサー兼ミュージシャンであるLee Hazlewoodによる名盤。ナンシーの妖艶なボーカルは父親譲りなのだろうか、痺れるカッコよさがある。ヘイゼルウッドのバリトンボーカルも劇渋だし、スペクターよろしくなオーケストラを駆使したサイケポップ風アレンジが素晴らしい。男女デュオアルバムの中でもトップクラスの輝きを放ってるでしょう。
Jimi Hendrix / Band of Gypsys (1970)
やっぱりジミヘンってカッコいい。ギターってカッコいい。そう思わせてくれる名ライブ盤。黒人だけのスリーピースバンドになり、ファンク要素が注入されたことでブラックミュージック度が増している。そこにジミヘンのキレッキレのアドリブギターソロが加わってもう鬼に金棒状態。正直60年代のアルバムよりもこれが一番好きだ(シンプルにとっつき易いと思う)。
Jackson Browne / Late For the Sky (1975)
初めて聴いたときはJackson Browne、というかこういう大らかなウェストコーストロックに対してはあまりハマれないでいたが、この度突然何かが開けました。ああ、沁みるなぁ。こちらの弱った心を包み込んでくれるような優しさを感じる。
GONTITI / PHYSICS (1985)
パソコン音楽クラブが「See-Voice」作成に影響を与えた音楽としてゴンチチの名前を挙げていて知りました。アコギメインなんだけど、背後で用いられるエレクトロニクスが絶妙なニューエイジ感を醸し出していて、結構今っぽい気がする。
Felt / Forever Breathes the Lonely Word (1986)
Marquee Moon収録のVenusの歌詞からバンド名を拝借したというUKのFelt。初めて聴いたけど、ベルセバなど多くのバンドに影響を与えたであろう純度の高いギターポップで良い。キーボード(Primal ScreamのMartin Duffyが弾いてるらしい)のひねくれ感やLou Leed直径のボーカルから、パンク精神や厭世感も醸し出されているのが個人的にツボ。何度も言ってる気がするけど、VUは自分にとって神なので。
Elliott Smith / Elliot Smith (1995)
どこか切ない夜はElliot Smithを聴いてた。
Clinic / Internal Wrangler (2000)
我らが(?)Pitchforkが大絶賛をしていた英国リバプール出身バンドによるデビュー作。検索するとRadioheadのオープニングアクトも務めたとかなんとか。80年代前半のニューウェイブのバンドとして紹介しても通用する内容で、ギター、ベース、ドラムのシンプル構成にキーボードやクラリネットなどがアクセントをつけるのみなんだけど、楽曲自体は準バラード、ガレージロックンロール、ポストパンクとかなり幅が広い。というか完全にVUのバナナアルバムの00年代バージョンといった趣で、バナナアルバムを神と崇めている僕からすると好みど真ん中としか言いようがないですね。
BOAT / Roro (2001)
サブスク解禁でTLが大いに盛り上がっていたRoro。自分はその喧騒を見るまで全然知らなかったけど、これはかっこいいですね。ポストロック、インストロックになると思うけど、ライブはさぞ凄かっただろうなと思う。世間で言われるものとは違うけど、個人的にはBroken Social Sceneとかそういうバンドに感じるエモさをBOaTからも感じる。M2 "Akiramujina"、M5 "Tuesday"みたいな徐々に解放していくような展開の曲にはどうも弱い。
Camera Obscura / Let's Get Out of This Country (2006)
なんと瑞々しいギタポ!グラスゴー出身ということで、そりゃベルセバを思わずにはいられないわけですが、こちらは女性ボーカル中心でもう少し疾走感があるポップス。懐かしさと、憂いと、楽しさと、コロコロ表情を変える女の子のようにかわいい、そして楽しいアルバムだ。
Wild Nothing / Gemini (2010)
これは良きドリームポップ。こんなん最近のインディーロックが好きな人は抗えないでしょ。Deerhunter、Beach House、Real Estate、DIIV、Alvvays・・・この辺が好きなら絶対好き。ジャングリーなギターはThe Smithsっぽいし、Jack Tatumのソロプロジェクトということでドラムなどは打ち込みで、だからか宅録というかベッドルームポップ感が強い。ちょうど2010年前後というとチル・ウェイブなるものが流行っていたのを思い出した。
IDLES / Joy as an Act of Resistance. (2018)
めちゃめちゃエネルギッシュなブリティッシュパンクバンドの傑作。真っ向からドーン!!!って感じの内容が最高。久しくこういう音楽は聞いてなかったというのが正直なところだったけど、これを最高と感じることができる感性が戻ってきたことが嬉しい。
Whitney / Forever Turned Around (2019)
Whitneyの新譜を機に聴き返したら「あれこんなに良かったっけ!?」となった2nd。1stはアホほど聴いたけど、2ndがリリースされた当時は、完全に電子音楽とかそっち系ばかり聴いていてロックにアンテナが全く立っていなかった。美しきインディー音楽で最高じゃん。
Weyes Blood / Titanic Rising (2019)
巷で高評価なのは知っていたけど、リリース当時は全くピンとこなかった一枚。理由は、自分が当時こういう系のインディーロックの気分では全くなかったから(n回目)。今聴くと本当に素晴らしいね。Joni MitchelなどのSSWものだったり、The BeatlesやThe Beach Boys的なチェンバーポップスを思わせたりするが、やはり印象的なのはNatalie Meringの情緒豊かで重みのある歌声かな。共同プロデュースはFoxygenのJonathan Radoでいい仕事している。タイタニック号を意識して、水中で実際に撮影したというジャケットもグッド。なお、2022年リリースの新譜も良かったけど聴き込み不足だったので年ベスからは外しました。
METZ / Atlas Vending (2020)
Twitterで見かけてライブラリに追加したはいいけど聴いてなかった一枚。普段あまりパンク/ハードコアは聴かないんだけど、突き抜けた音楽っていうのはガツンとくるものがある。こういう系で気に入ったのはTitus Andronicus以来かも。最後の曲が特にお気に入り。
Hip-Hop
Notorious B.I.G. / Ready to Die (1994)
昔からそれなりに聴いてたけどここ2年くらいで色々とヒップホップ名盤を聴いてから戻ってきたら、5割増くらいでよく聴こえる。改めて思うのは、スモーキーな太い声はまさにビギーの根幹をなす武器であり、それだけでその辺の上っ面だけ真似したようなヒップホップ音楽を一蹴する迫力がある。大ネタであるMtumeの"Juicy Fruit"サンプリングのM10 "Juicy"、The Isley Brothersの"Between the Sheets"サンプリングのM13 "Big Poppa"はやっぱりクラシック中のクラシック。メロウなトラックとビギーのラップの相性ったら!
Camp Lo / Uptown Saturday Night (1997)
ブロンクスのCamp Loによる1st。やっぱり印象的なのはM6 "Sparkle"。なぜならThe Avalanchesの名盤「Since I Left You」でサンプリングされているから。終始漂う緩めの雰囲気やファンキーなビートが気持ちよく、I Want Youオマージュのジャケットも最高。
Missy Elliott / Supa Dupa Fly (1997)
最近再評価著しいような気がするMissy Elliottのデビュー盤。ティンバランドの独特のサウンドがやはり印象的で、余白をかなり残した上で跳ねるように踊るファンクサウンドがクセになる(チキチキサウンドなんて呼ばれてるのね)。Missy Elliottのラップもひたすらクールで、歌っても上手い。90年代のヒップホップ黄金期はある意味ビギーと2Pacの死により幕を閉じたわけだけど、このMissy Elliottのデビュー盤はサンプリング全盛のヒップホップ時代に別れを告げ、新しい時代へ進んだことを高らかに宣言する革新的な内容だ。最初はあまりよく分からなかったこのアルバムも、そのことに気づいてから解像度が一気に上がってめちゃめちゃ良いアルバムだと思うようになりました。
GZA / Legend of the Liquid Sword (2002)
どうも、ウータン本家よりもメンバーソロの方が好きという捻くれ者です。いや、だって良いもんは良いんだ。仕方がない。GZAといえば「Liquid Swords (1995)」が有名で超傑作だけど、続編?なこちらも素晴らしい。当時の流行からはかけ離れていたであろうオーソドックスなスタイルからは特に目新しい部分を発見できるわけではないし、「Liquid Swords」ほどのキレ味はないようにも思うが、「俺がGZAでウータンのリーダーだ」ということをしっかりと示すような内容ではないだろうか。
Jazz
Charles Mingus / Mingus, Mingus, Mingus, Mingus, Mingus (1963)
ジャズ初心者の自分にとって試してはみるもののあまりしっくりこないジャズ名盤は多い中、ミンガスのアルバムは割と打率が高い。このアルバムも1曲目から痺れるようにカッコ良く、無事に愛聴盤となった。アバンギャルドとポップネスのバランス感覚が好みなのか、喜怒哀楽がストレートに表現されるようなダイレクトさが好きなのか、とにかく心に響くんだよね。
Pharoah Sanders / Africa (1987)
自分が聴いたいくつかの過去作と比べるとだいぶ丸くなったPharah Sanders先生という印象です。かなりオーソドックスのジャズという感じでとても聴きやすいが、ファラオ先生のビンビンとくるサックスは健在。他の作品ももっと聴きたい。RIP
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2022年お世話になりました。
来年もたくさんの良い音楽に出会えることを祈って。
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