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電子音楽を聴く③

ここでの電子音楽とは、アンビエント/ニューエイジを除いた、テクノ・ハウス・エレクトロニカなど、電子音楽系のもの全般、なんでもござれな感じです。そして、いつも割と最近聴いて好きなアルバムの備忘録的に書いてることが多いんですが、今回はリリース当時から好きなアルバムが多めです。

ちなみに、過去記事のまとめは以下のとおり。

Jon Hassell / Earthquake Island (1978)

Tomato / USA

これはあまり電子音楽ではない‥が奇才トランペッターで歴史的にも重要なコンポーザーのJon Hassellだし、シンセが効いてるアルバムだし‥。ということで彼のディスコグラフィーで最も有名な「Vernal Equinox」とほぼ同時期に録音されたというセカンド。トライバル×コズミックフュージョン×アンビエントといった音楽性がなかなかに中毒的。Weather Reportからベーシスト(Miroslav Vitous)、ドラマー(Dum Um Romao)、ギタリスト(Ricardo Silveira)の3名が参加していることは、Jon Hassellがフュージョンを志向していた証拠だろう。そして前作から引き続きパーカッショニストとして参加のブラジル人Nana Vascocelosが大活躍で、Jon Hassellの幽玄で独特な電気トランペット(Miles Davisを思い出すね)やアブストラクトなシンセサイザーと並んで非常に強い存在感を放っている。ファンキーさとアンビエント感は両立するんだなぁなんてことを思わせてくれる、非常にエキゾチックな一枚だ。

songwhip

Glenn Underground / Atmosfear (1996)

Peacefrog Records / UK

宇多田ヒカルは今年の傑作「Badモード」でハウス調の曲を披露していたが、その時の影響源として挙げていたのがMoodymannであり、このGlenn Undergroundだった。Glenn Undergroundはシカゴ・ディープハウスのマエストロであり、MoodymannやTheo Parrishと同期〜ちょっと先輩に当たる。このアルバムはそんなGlenn UndergroundのデビューLPであり、極太のキック、ラグジュアリーなシンセ、黒いベースラインによるブラック・ソウル・ダンスミュージックの傑作集だ。この辺のハウスミュージックは全く古びませんね。どの曲もフロアで映えそうな一方、そのディープさからホームリスニングとして聴いても全然違和感なく入ってくる。先述のMoodymannやTheo Parrishもそうだけど、このディープさはどうやって醸し出しているのだろうね?その豊富な音楽的バックグラウンドだろうか。70年代のソウル〜ディスコを中心にこの音楽を鳴らす上で参照している過去のレガシーの量がとにかく半端ないように感じる。そうやって深みというものが生まれているんだろうか。

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Mala / Mala in Cuba (2012)

Brownswood Recordings / UK

MalaはDigital Mystikzとして黎明期からUKダブステップ界をリードした重要人物である。そんなMalaがジャズクラブシーンのレジェンドDJであるGilles Petersonに招かれてキューバに赴き、そこでの素材と自身のダブステップを融合させ、見事にネクストレベルに昇華させたのがこのアルバムだ。
全然詳しくない中で勝手なイメージだけど、キューバというと陽気で底抜けに明るい音を、一方でダブステップというと都会の薄暗いコンクリートに反響するようなある種暴力的な音をイメージをしてしまう。そんな二つの要素を持つこのアルバムでは、キューバの陽とダブステップの陰が混ざり合ってちょうど中庸のような質感になっていると感じる。それはひとえにMalaの持つ誠実さから来ているんじゃないだろうかと思う。キューバ音楽の多彩なリズムと自身の経験から磨き上げたベースミュージックのエッセンスを、ピアノサンプリング等を絡めながら、細部まで相当時間をかけて調整したことが伺え、そこからは職人気質のような丁寧さを掴み取ることができる。そのような態度こそが、ダブステップをワールドワイドなスケールで描くことに成功した本名盤の誕生に繋がったものと思う。

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Kelman Duran / 13th Month (2018)

Apocalipsis / USA

ここ数ヶ月一番聴いてるのがKelman Duranの音楽。特にこの13th Monthは素晴らしい。Beyonceの新譜にも参加しているくらい最近勢いに乗ってるが、過去作からもその才能を遺憾無く発揮していて、もうクオリティ高すぎます。彼の音楽はダークレゲトンとか言われているがまさにそんな感じで、出身地であるドミニカの血を彷彿とさせるダンスホール/レゲトンに都市由来の荒涼としたダーク成分をブレンドさせた音楽は、踊れると同時に奇妙な違和感を浮かび上がらせるので中毒性がある。Kelman Duranの音楽の特徴の一つにその魅惑的なボイスサンプリングの使い方があるように思うけど、例えばボイスサンプルと言えばなBurialのそれと比較するともっとザラついていて不気味(Burialはもっと艶やかな印象)。その不気味さこそがKelman Duranの音楽のシグネチャーとなっていて、その独特さに魅せられてからというもの、ズブズブの沼にハマってしまったかのように彼の音楽から逃げられないでいる。

Skee Mask / Compro (2018)

Ilian Tape / Germany

ドイツのSkee Maskは今作で知って以来、個人的フェイバリットアーティストの一員となり、リリースされる作品は概ね追っかけているアーティストである。これは各音楽媒体でもかなり高評価で、PitchforkでBNMになってるし、2018年の年ベスでもMixmagをはじめ複数媒体でトップ10入りするレベルである。
とにかく霞のような美しきアンビエンスにアグレッシブなブレイクビーツが乗っかってくるのがたまらない。何この二面性…という感じです。ダブテクノ、ジャングル、90年代IDMとも親和性の高い最高に刺激的なダンスレコードなので、ほんと未聴の人には聴いてほしい。
ちなみにSkee MaskはFFKTで生でも体験したことがあるんだけど、このアルバムで受ける印象の100倍くらい暴力的なビートで、たぶんそれが本質なんだなと思った。

bandcamp
(songwhipで出てこなかったんだけど各種サブスクにもあります)

Shinichi Atobe / Heat (2018)

DDS / UK

日本が誇るダブテクノアーティスト、Shinichi Atobe氏の個人的ベストがこれです。全編カッコいい四つ打ちビートしか鳴ってない。

Shinichi Atobeについては、どのアルバムもハズレなしといって良いレベルで、自分の拙いnoteにおいても2020年ベストで「Yes」2017年の「From the Heart〜」、今年2022年の「Love of Plastic」と既に3回登場していて、今作で4回目の登場である。どのアルバムを聴いても共通しているのが、タイトでミニマルなカッコいいビートと日本人らしく繊細でメロディアスなセンスが光るということその中でも今作は最もリズムが面白くてダンスに特化したレコードだと感じている。

前作からの変化を挙げると、今作の方がパキッとクリアな音像をしていてBasic Channelのような霧の中にいるようなアンビエントダブ感は後退している。その分、リズムの多彩さとストイックさが増しており、DJユースも意識して作られたのか、個人的にはこちらの方が没入して踊れる。キックの音圧はそこそこに、中〜高域の音、特にハイハットがかなり効果的に前に出ていて、鳴るたびにつんのめるように頭を揺らしてしまう。あとシンセの使い方とコード進行が最高(特にM4)。いや、久しぶりに聴いたらブチ上がったよ。

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Barker / Utility (2019)

Ostgut Ton / Germany

これもリリース当時結構驚かされた一枚で、ドイツはベルリンのOstgut TonよりリリースされたBarkerによるキックレスダンスミュージックアルバム。ダンスミュージックなのにキックレスってのが本当に画期的。万華鏡のようなエレクトロニクスサイケデリアの粒に強弱をつけることで立体感を演出し、また最低限のベース音を駆使することで陰影が生み出されている。そして、それら音の波が曲の中で統一して意思を持つかのようにうねりをもって動くことで、きちんと踊れるテクノとして完璧なまでに機能している…。くううう、改めて痺れる。実験的でかつ機能的な音楽としての最適解のようなアルバムだ

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冥丁 / 古風 II (2021)

Kitchen. Label / Japan

Lost Japanese Mood(失われた日本のムード)をコンセプトに活動する広島の電子音楽家、冥丁による、2020年リリースの古風の続編。てっきり、「怪談」〜「小町」〜「古風」でLost Japanese Mood三部作が完結したのかと思っていたので、昨年末に届いた嬉しいサプライズリリースだった。この古風IIは、これまでの作品と比較してもアンビエント感は後退したものの、間違いなく最もキャッチーでメロディアス。特徴的なボイスサンプルが雄弁と歌い上げ、それに釣られて和風ビートもドライブ感を増していく。"黒澤明"なんて平沢進の音楽が頭をよぎるくらいドラマチックで豪快。冥丁流「七人の侍」の世界の表現形なのかなと思った。
古き日本の物語を、和に対する美意識を、ここまで突き詰めて表現している冥丁さん、ほんと信頼しかないです。

songwhip

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