見出し画像

2022年 新譜お気に入り①

さて、今年も気に入った新譜の感想を書いていくよ。
毎年一月は前年リリースの聴き逃しアルバムを聴くことが多く、そういう意味では2022年のスタートもそんな感じで始まったので、正直現時点であまり数は聴けていない。一方で、非常にパワーのあるアルバムが例年以上にリリースされたように感じており、自分の観測範囲では結構盛り上がったアルバムが多かった。なので、今回のチョイスはミーハー感が否めないけど、そこはご愛嬌ということでよろしくお願いします。

Burial / ANTIDAWN EP (2022)

00年代後半にダブステップを定義付けたBurialによる15年ぶりのフルアルバム。当時自分に衝撃を与えた00年代の2枚のアルバム以来ということで、どんなカッコいいビートが聴けるものかと思ったら、今回はなんと完全ビートレス作品。もちろんBurial印とも言える不穏で霧がかかったようなサウンド、ジリジリと響く響くクラックルノイズ、幽玄で官能的なボーカル使いあたりはお馴染みなんだけど、これは想像していなかった。
今作は全体的に真冬の都会で白い息を吐きながら闇の中を一歩一歩進まなければいけないような、そんな孤独感と息苦しさが支配している。一方で、今作ではオルガンやピアノ等が効果的に使用されていて、暗闇の中にありつつも聖なるポジティブなバイブスが少しずつ広がっていく印象を受ける。「ANTI-DAWN(反夜明け)」と言いつつも、微かに夜明けが見えるような。

ただ、どうにもこうにも掴みきれない感覚も存在する。これだ!という感覚が近づいてきたかと思ったら離れていくというか、どうも聴いていて居心地が悪い。色々なレビューで「亡霊」という表現が多用されていたけど、確かにそんな感じかもしれない。いつの間にか自分自身がこの閉塞的な世界に囚われてしまっており、出口を求めてまたこのアルバムを彷徨う、というループから今の所逃れられていない。

songwhip

The Weeknd / Dawn FM (2022)

Burialと同様にアルバムタイトルに「Dawn」を冠したポップスターThe Weekndの新作は、まさにディストピア的世界で輝くラジオポップミュージック集。トンネルの渋滞で103.5 Dawn FMという架空のラジオから流れる音楽を聴いているという非常にコンセプチュアルなアルバムで、トンネルの中は煉獄(死んでから天国への行く間のお清めの期間)、トンネルの先の光は天国、それを「夜明け(Dawn)」と表現している?ようだ。楽曲はシームレスに繋がり、またイントロやインタールードでは映画トゥルーマン・ショーのジム・キャリーがラジオDJとして活躍する(ジムキャリーってのが嘘くさくて良い)。そんなアルバムとしての流れも面白いが、とにかくさすがポップスターというべきか、脳裏にこびりつくような曲がいくつもあるのが何よりも強い。特に前半〜中盤ではキラーチューンを連発、亜蘭知子サンプリングを堪能し、タイラーは文句なしにかっけえ!と息つく暇もない。後半は少しトーンダウンするけど、アルバムトータルを締める上ではあまりにキラーチューンばかりというのもアレなので全然悪くない。

正直、これまでThe Weekndには全くハマれなかったんだけど、今作はロマンティックでノスタルジックな一方で、退廃や虚無の空気感が全体を支配している点が個人的にかなりツボだった。ヴェイパーウェイブもフューチャーファンクもよく知らないけど、やはりOPNの影響はでかいんだろう。また、Michael Jacksonの「Off The Wall」や「Thriller」の影響は間違いなくあり(Quincy Jonesも参加してるし!)、2020年代にここまで違和感なくマイケルの面影を蘇らせることができるThe Weekndって凄いんだなと正直見直した。過去作も聴きます。

songwhip

Earl Sweatshirt / SICK! (2022)

Earl Sweatshirtは相変わらず良い。良いんだけど、Some Rap Songs等と同じく何と形容したら良いのかよく分からない。ここ数作と同じく、一曲一曲は短くブツ切りの曲展開で、全10曲24分。もはやお家芸みたいな感じにもなってきた。再生ボタンを押すと上質なビートとEarl Sweatshirtのタイトでぶっきらぼうなラップが流れ、気づいたら終わっている。そして、また再生ボタンを押す。その繰り返し。これはまんまと罠にハマってるな。

曲単位で言うなら、Earl SweatshirtのツアーDJであり彼のレーベルTan Cressidaと契約した初アーティストとなったBlack Noi$eがプロデュースする万華鏡のようなM2「2010」、Armand HammerとEarl SweatshirtとのコラボがたまらないM5「Tabula Rasa」、ホーンのループが印象的なAlchemistによるM6「Lye」あたりが特にお気に入り。あとは盟友Navy BlueによるM3「Sick!」のアウトロには結構印象的な言葉が引用されてるんだけど、調べてみたらFela Kutiのインタビューからの引用らしく、せっかくなので載っけておく。

やっぱりカッコいい。

So, Really, art is what is happening at a particular time of a people's development or underdevelopment, you see.
So I think. as far as Africa is concerned, music cannot be for enjoyment. music has to be for revolution. 

Earl Sweatshirt / Sick!

songwhip

Raum / Daughter (2022)

「Shade」という傑作をリリースしたばかりのGrouperことLiz Harrisと、去年、2010年リリースの「Love Is A Stream」を知り一人大興奮していたJefre Cantu-LedesmaからなるRaumがサプライズリリース。近年のダブ・アンビエントっぽいモゴモゴしたような音や、砂利を歩く音などのフィールドレコーディングによる自然音がアクセントとして機能し、Grouperらしいメロディアスな展開やJefre Cantu-Ledesmaらしいドラマチックなノイズが絶妙に掛け合わされることで、実に美しく高尚なアンビエント作品になっている。特に序盤〜中盤にかけてはかなり陽のバイブスが強く神々しい。一方で、最後の約20分にも及ぶ大曲「Passage」は、かなり荒涼とした喪失感のある曲となっていて、(全部聴いてるわけではないけど)二人のこれまでの作品やこのアルバムに収録されている他の曲を考えるとかなり異色な印象を受けた。ただこれはこれで感情を揺さぶる何かが確実にある。この曲で締めてこそ、このアルバムが完成するように感じた。

songwhip

Shinichi Atobe / Love Of Plastic (2022)

Shinichi AtobeはBasic ChannelのChain ReactionからリリースされたEPで注目を集め、その後しばらくリリースはなかったものの、2014年からDemdike Stareが主宰するDDSレコードからコンスタントにリリースするようになった。そして、このアルバムは2020年の「Yes」に続く6作目のアルバムとなる。Shinichi Atobeのアルバムはどれも本当にハズレがなく(個人的一押しは4作目の「Heat」)、このアルバムを聴いていても「あ〜幸せだ」なんて思いにさせられる。今作も相変わらずストイックで、繊細で、メロディックで、優雅で、ミニマルで、パワフルな、ディープテクノ。素晴らしい。
「Butterfly Effect」など初期の楽曲と比較すると顕著だけど、前作あたりから全体的にChain Reaction的な霞がかかったダブ要素は減退しつつあり、より優しく親しみやすいテクノになっている気がする。また、彼のビートには日本人的職人気質を感じる美的センスが漂っており、これはどの作品にも共通する彼の最大の良さだと思っている。

M2「Love of plastic 1」からしてとてもキャッチー・・・と気分よく聴いていたが、「あれ、これ曲名(否、アルバム名)からしてもコード進行からしても、竹内まりや「Plastic Love」を完全にモチーフにしているじゃん!やはりこのコード進行は破壊力があるな。これだけでもぜひ聴いてほしい。

songwhip

C.O.S.A. / Cool Kids (2022)

C.O.S.A.は本当に信頼できる。このアルバムを聴いてその想いを強くした。自分はヘッズでもなんでもないので詳しくはないのだけど、自分が知る限りではC.O.S.A.ほど不器用なラッパーもいないなと思う反面、無骨に、誠実にラップしていくことが自分の魅せ方として最も強いということをよく理解していると感じる。地元・名古屋に生活の根を張り地道に活動していく様は、多くの人に勇気を与えるし、そんな姿勢がこのアルバムによく反映されている。

トラックはミニマルでシンプル、その分、C.O.S.A.のどっしりとして芯のあるラップが頭に直接響いてくる。タイトル曲であるM2「Cool Kids」では不器用だった子供時代のストーリーが鮮明に浮かび上がり、M4「5pm」では子供を迎えにいく時間をネタに大人になったC.O.S.A.の想いがじんわりと伝わってくる。また、前半のメロウな感じから一転して中盤から後半にかけてはラップのかっこよさを見せつけるようなトラックや、ダークな雰囲気の曲が固まっており、アルバム全体として見ても起伏があって良い。また、客演も最高なんだ。田我流、仙人掌、KANDYTOWNのIO、Campanella。文句ないよね。

ただ、やっぱり一番グッときたのはベタだけど最後のフレシノとの「Mikiura」で、Bon Iverのようなオートチューン使いのトラックに乗せてこのコロナ禍から2050年の未来へ語りかける曲。元々C.O.S.A.を知ったのは、フレシノとの「Somewhere」だったのでこのタッグに特別に愛着があるのと、この2年あまりに家に篭り過ぎてしまった自分の状況と、出口が見えたかと思ったら後退を繰り返す世の中の状況とで、なんか感情が変になってしまった。たぶんここまで感情を揺さぶってくるのは、間違いなくC.O.S.A.がラップするからだと思う。説得力が桁違い。いや、ほんと良い曲で、良いアルバムだ。

songwhip

宇多田ヒカル / BADモード(2022)

事前に曲目だけ見た際には「大半が先行リリース曲か・・・シングル出る度にかなり聴き込んじゃったし、今回のアルバムにはそこまで驚かないかもな・・・」なんて思ってた自分を叱りたい。それくらい、アルバムとして聴くとまた別物であり、稀有な輝きを放っている。そもそも先行曲である「Time」、「誰にも言わない」、「One Last Kiss」、「PINK BLOOD」はリリース時点で既にガチやば案件だったので、そりゃそれらが単に収録されただけでも十分な破壊力なんだけど、それぞれをアルバムとして並べて聴くとこうも違和感がなく、スッと繋がるものか・・と驚き。同じく先行曲だった「Face My Fears」はSklirexとの共作で、事前にリリースされてた曲では唯一好きじゃなかったんだけど、このアルバムの流れで聴くと、あら不思議、全く違和感がない。むしろ程よいアクセントになっていて好ましいくらいだ。

ただ、特筆すべきは先行曲よりも事前に発表されていなかった3曲、「BADモード」、「気分じゃないの(Not In The Mood)」、「Somewhere Near Marseillesーマルセイユ辺りー」でしょう。これらはまさかのFloating Pointsとの共同プロデュースということで、リリース後にこの情報が出回ったときには流石に界隈がざわついていたし、もちろん自分もざわついた。確かに聴いてみるとFloating Pointsっぽさのある繊細な電子音や、昨年のPharaoh Sandersとの傑作「Promise」を彷彿とさせるジャズアンビエント的な音像がそこかしこに確認できる。「気分じゃないの(Not In The Mood)」のアウトロなんかは特に顕著で、繊細なエレクトロニクスの波はまさに「Promise」のそれと同じものを感じる。「気分じゃないの」から「誰にも言わない」への流れは間違いなくこのアルバムのハイライトだ。そして、最終曲「Somewhere Near Marseillesーマルセイユ辺りー」なんだこのブチ上げハウストラックは・・・!そろそろこの曲も終盤かな?と思ったら、まだ5分以上残ってるの、何度経験しても最高ですよ。

音楽以外の要素だとアートワークの破壊力もヤバい。これまでのアルバムで一番好きだし、SNSで何度も大喜利に使われているのも宇多田ヒカルの勝ちって感じがする。音楽界隈だけでなく、全然別のクラスタにも大喜利は浸透してるんだから、マジで最強だ。

他にも言いたいことはいくらでも出てくるけど、この辺でやめておく。ネット見てると肯定的な意見の中に少なからず否定的な意見もあり、そんなところも面白い。とりあえず個人的には間違いなく傑作ということで。

songwhip

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?