本のこと|死に様は生き様 山田詠美「学問」
『週刊文潮○月○日号「無名蓋棺録」より』と書かれたその訃報は、
わたしがまだ知らぬ登場人物が亡くなったことを知らせる
68歳で心筋梗塞で亡くなる主人公の香坂仁美、
102歳まで生き、餅の誤嚥で亡くなる長峰無量、
その21年前に亡くなるその妻の素子、
若干18歳で川岸で昼寝中に増水に巻き込まれてしまう千穂、
もう一人の主人公である心太は36歳にして交通事故にあってしまう
山田詠美さんの「学問」は、とても衝撃的な作品でした
四章で構成されるこの物語は、各章が訃報から始まり
各人がどのような人生を送り、どのようになくなったのかを
知ることになります
もちろん、第一章を読み始めた時は、仁美がどんな人物か知らない状態
仁美の訃報を読み終えたのちに、
彼らが小学生時代に出会う場面にうつり、物語が進んでいきます
山田詠美 作品特有の性描写と、意外な読後感
山田詠美さんの本をほぼ初めて読んだのですが、
やはり特徴的なのは大胆な性描写
誤解を恐れずに言うと、もう少しで官能小説…!?
小学生から大人になるまでの思春期の男女5人と
彼らを取り巻く人間関係を描いているこの作品ですが、
常について回るテーマは思春期の恋愛とか、性への興味とか、
本当に、ずっとそれを中心に話が展開されて、
ずっと各々、悶々としている…
「官能小説一歩手前…!」と思ってしまうほど
なのに!!!
読み終わったときは、そんなこと忘れてしまうんです
本当に不思議な感覚なのですが、
読後感としては、性ではなく、生を感じる作品
それぞれの人生や生き様がとてもいとおしく感じる作品です
死に様は生き様
読み進めるうちに、それぞれの人物のことが分かってきて
彼らのことを知るほどに、
それぞれの亡くなり方が、本当にその人らしくて
それぞれの生き方が、本当にその人らしい
死に様は 生き様
そんな言葉が浮かんできました
必ずしも、人生を全うしたとは言えない人もいるけれど、
それでも亡くなるまでの人生の歩みを感じます
どのような形であれ、必ず人は死ぬし
死に方も、そのタイミングも分からない...
納得いかない形でそれを迎えることも、もちろんある
自分自身の人生が終わるとき、
わたし自身の「生き様」がどのように現れるのだろう
なんて言うことも考えさせられる作品でした
身近な人が亡くなった時に、
わたしはいつも生きる力をもらいます
不謹慎に聞こえるのかもしれないけれど…
なんていうか、
命が限りあるという事を改めて目の当たりにして、
生きなきゃ、ちゃんと
という気持ちになるんです
身近な人を亡くす経験というのは、
とても悲しいけれど、
残された人にとって、とても大切なものを与えてくれると
わたしは思っています
この本もある意味、そういう力を与えてくれる作品かもしれません
心太の言葉
仁美と共にもう一人の主人公である心太は、
強いリーダーシップとカリスマ性を持った少年
不思議なほどに彼を取り巻くすべての人を惹きつける人物です
皆、惹きつけられる一方で、彼の支配的なところに苦しんだり、
鎖でつながれているような感覚を持ったりする描写も絶妙で
人間関係の心地よさと苦しさが共存するところに
とても共感しました
心太が発する言葉に、ドキッとさせられる場面が多くて…
「おれ、ただ、ちゃんと死んだ人が好きなだけだ。
あいつ、そうじゃなかったじゃん」
「おれ、まっとうして死にたい」
やはり彼が人を惹きつけるものを持っているのだと
感じずにはいられない場面がたくさんありました
読んだきっかけと、読書の連鎖
この本を手に取ったきっかけは、雑誌の中で村田沙耶香さんが紹介していたこと
生きていくことは体で学んでいくこと
そのように紹介されていました
そして、「学問」巻末の村田沙耶香さんの解説がまた面白い…
私の過去の性行為をめぐって彼とけんかになった時、「山田詠美の本から何も学んでない」と私が言って、彼が小さく笑ったので、『ぼくは勉強ができない』も貸していたのかもしれない
(「学問」解説 村田沙耶香 より)
「山田詠美の本から何も学んでない」とか言い放てるほど、
村田沙耶香さんは山田詠美の本から多くを学んだのだな、と思うと同時に
そんな風に言い放つ人…
ちょっとヤバそうで面白そう…と、とても興味を持ちました
で、次に読んだのが村田沙耶香さんのコンビニ人間
これもとてもよかった…
また今度ご紹介できればと思います
これも面白そうで、読みたい
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