見出し画像

Invitation~怪我フェチへの誘い~

「怪我フェチへの誘い~序章」は女性であるセンパイ視点。こちらは、そのセンパイによってフェチに目覚める男性後輩視点で書いたもの。どちらを先に読んでいただいても楽しんでいただけるかと思いますが、先に書いたものがこちら「invitation」です。包帯好きによる、包帯好きのための、包帯巻きまくり小説。特にハイヒールの上から包帯グルグル巻きにするシーンが気に入ってます。

2009年9月11日 (金)

invitation-1

ボクの職業はカメラマン。
と言っても、
フリーの駆け出しなので超貧乏。

そんなボクが月に一度
すごく楽しみにしている仕事がある。

「日本の原風景を歩く」って感じの
テーマで全国各地を取材するのだが、
その時に一緒になるライターさんが、
マジきれいでカッコよくて、
めちゃめちゃタイプなのだ。

たまたま大学の先輩(学部は違うけど)
だったことが幸いして、
けっこう可愛がってくれるし...
この仕事があると思うだけで、
どんなことでも耐えられる気がする。

今日から月に一度の
幸せな2日間が始まる。

ワクワクしながら待ち合わせの駅へ。

いつもボクより早く来ている
センパイの姿がない。

「珍しいなあ....」
もしかして場所間違ったかもと思い
キョロキョロしてたら、
センパイの姿が目に入った。

あれ?なんか動きがぎこちない?

ボクは思わずセンパイのもとに
駆け寄った。「センパイ!」

「おはよ。遅くなってごめん」

センパイが明るく挨拶してくれたが
その笑顔もいつもの輝きがない。

「セ、センパイ!どうしたんですか?
具合でも?」

「ううん。なんでもない...って、
やっぱ隠しきれてないよね。
実は、ちょっと怪我しちゃって..」

「えええっっっ!!!
だ、大丈夫なんですか?!!」

慌てるボクを見て、
センパイが急に「あははは」と笑い出す。

「もう、君はいっつも大げさなんだから。
たいしたことないから。大丈夫。
だから仕事にも来たんじゃない。
さ、行こ!遅れちゃう」

状況がつかめずオロオロしている
ボクを置き去りにして
センパイは歩き出した。

今日のセンパイはゆったりとした
グレーのパンツスーツを着ているから
どこを怪我したのかわからないけど、
よく見ると左足の膝を曲げずに、
ちょっと引きずりながら歩いている。
....何があったんだろう?

ぎりぎりで新幹線に乗り込む。

だんだん足を痛そうに
引きずるようになってきた
センパイに手を貸そうと思いつつ、
ボクはカメラなんかの大荷物に
手間取って何もできなかった。

センパイは席に腰をおろして
ため息をつく。
やっぱり左足は伸ばしたまま、
そっと床にのせている感じ。

「センパイ....足、
どうしたんですか?」
やっと聞くことができた。

「う、うん。まあ....」

いつも歯切れのよいセンパイが
口ごもってる。
あんまり突っ込んじゃいけない
とこだったか。

「あ、あの、怪我の状態っていうか。
足、痛そうですけど?」

「うん。あの、足をひねっちゃって」

「膝ですか?」

「膝もだけど。あの、足首も」

「ええっ!大変じゃないですか?
ほんとに歩いて大丈夫なんですか?」

ここでやっとセンパイが
ボクを見て微笑んだ。

「大丈夫。
怪我したの10日くらい前だから。
もうほとんど直ってるし」

言葉とうらはらに
センパイの手は無意識にだろうけど
足をさすっている。

気丈なセンパイのことだから、
きっと無理して痛みを我慢しているんだ。

「あんまり無理しないでくださいね」
としかボクには言えなかった。

目的地に着くまで、
いつもとは違う気まずい時間が流れた。

気を使われたくないらしい
センパイに何を言ったらいいかわからない。

センパイの左足をそっと覗き見る。
パンツスーツの裾の下から、
白い包帯の足が
黒いパンプスに包まれているのが
ほんの少し見えて、

ボクはなぜかドキッとした。
 
今回の取材は、
ある歴史上の人物の伝説の地を巡る旅だ。

最初の取材先の神社まで
タクシーで移動する。

センパイはタクシーに乗る時、
痛そうに膝を曲げて顔をしかめた。

芸がないなあ、と思いながら
「大丈夫ですか?」としか言えない。

「ごめん。大丈夫。
曲げたり伸ばしたりする時
ちょっと痛いだけ」

センパイは
なんでもないような顔をしていたけど
車から降りて足を伸ばした時、
ちょっと動きが止まったのを
ボクは見逃さなかった。

神社は伝説の地だけあって
古くて薄暗い雰囲気だ。

参道に敷かれている石畳は
所々苔が生えているし、
かなり擦り減ってボコボコしている。

鬱蒼とした神木を眺めながら
ゆっくり歩いていたセンパイが
「あっ」と声を上げて立ち止まった。

「センパイ!」

すぐ後ろを歩いていたボクは
荷物を置いてセンパイの肩を支えた。

「....っ」センパイは
声を押し殺してうつむいている。

「足、滑らせたんじゃ...?」

尋ねたボクの手を振り払うようにして
キッと顔を上げ
「大丈夫」言って歩きだすが、
あきらかに足を引きずっている。

しょうがないなあ、
意地っ張りなんだから。
 
幸い小さな神社だったので、
そんなにたくさん歩くことなく
取材は終了した。

再び参道に戻ったところで、
またセンパイが石畳に足を
取られ立ち止まった。

足を押さえ、痛みをこらえている
センパイのもとにボクは走りより、
今度は有無を言わさず、
抱きかかえるようにして
近くにあった岩に座らせた。

センパイは体を折り曲げ、
足首の辺りを押さえて
歯を食いしばっている。

「センパイ。
お願いだから無理しないでください」

「ごめん....なさい。
迷惑かけたくなくて....」

「そんなあ。
気にしないで頼ってくださいよ。
頼りないだろうけど」

「そんなこと....。
ほんとごめんね。ありがとう」

いつもと違って気弱なセンパイの
潤んだ瞳にドキドキする。

「足、見せてもらっていいですか?」

「えっ?」
「ひどくなったのなら病院行かないと」
「でも...」

「失礼しますね」

パンツスーツの裾をまくり上げる。
すべすべで薄いナチュラルカラーの
ストッキングに包まれた
足の甲から足首、ふくらはぎの上の方まで
白い包帯が巻かれている。

さらに裾を上げる。

包帯はそのまま続き、
膝を覆い、さらにその上まで
ずっと巻かれているようだった。

さすがにそこまで見るのは憚られ、
ボクは手を止めた。

ストッキングに透けて見える
包帯の白さが艶かしい。

ボクは魅入られたように
包帯から目を離せなくなった。

「はあっ.....」という
ため息のようなセンパイの声に
ハッと我にかえった。

「す、すいません。
包帯がいっぱい巻かれてるのに
ビックリしちゃって..」

「ふふ。ちょっと大げさっぽいよね。

連続して巻くほうが、
ずれなくていいってだけなんだけど」

「これ、ほどいちゃったら大変ですよね」

「....うん」

「どうしましょう?
このまま病院に行った方が...」

「そこまでひどくないから。
ちょっと足首ひねったかもだけど..」

センパイは持っていたバッグの中から
幅の広い包帯を取り出した。

「悪いけどこれ、足首に巻いてくれる?」

「..ボクがやっていいんですか?」

「お願い」

「あの....靴を履いたままで..?」
「..ええ」

ドキドキしながら、
おそるおそる足首を手に取る。

かすかにセンパイが息を飲む。

「痛みますか?」
「少し....」

くるぶしの辺りをちょっと押してみる。

「...つっ..」

「どっち側にひねったんですか?」

「....どっちも....。
足全体が..ねじれるように
転んでしまったの....」

「それで....
膝も痛めたんですね?」
「..そう..」

足首のあちこちを探るように触る。
「あっっつ.....!!」

「ああっっ」
吐息のようなセンパイの喘ぎ声が漏れる。

「けっこう腫れてますね」

「そう..かな..っつっ!!」

「すいません!」

思わず足首をひねってみてしまった。

いかんいかん。

「じゃ、巻かせてもらいますね」

包帯を足首に巻いていく。

「こんな感じでいいですか?」

「もっと強く。..お願い」

「このくらい?」

「もっと...」

「このくらい?」
「ああっ..ええ。..いいわ」

履いたままのパンプスに
足首をくくりつけるように
包帯を巻き付ける。

異様な状態のパンプスと包帯の足に
何とも言えない興奮を覚えてしまう。

ふと見上げると、
センパイも顔を上げて荒い息をしている。

二人の間に電流が走ったような
気がした瞬間、
ボクはセンパイの足首から
手を離してしまい、

「ああっ!!!」

地面に落ちた足首の痛みに
センパイが悲鳴を上げた。

「痛ったあ....!!」
かがみ込んで足を抱えたセンパイの姿に
ようやくボクは我に返った。

「ああっ!すいません!」

「大....丈夫....。
....そろそろ....
次に行かなきゃ、ね」
痛そうに足をかかえながら
センパイが健気に顔を上げた。

たしかに仕事はちゃんと
終わらせなくてはいけない。

そして、センパイのことは
ボクが支えなければ。

「ちょっとそのまま待っててください」

神社の駐車場で待っているタクシーまで
自分とセンパイの荷物を持って走る。

そして全速力で戻り、
センパイを抱き上げた。

「ちょっと、なに?えっ?...」

びっくりしているセンパイに

「仕事のとき以外はできるだけ
足を休めてください!」
きっぱり言う。

センパイは何も言わなかったが、
心持ち体の力を緩めて
ボクに身を委ねてくれた。

う、うれしい。

さっきタクシーに乗る時
膝が痛そうだったので、
今度は足を伸ばしたまま
後部座席に横向きに座って
もらうことにする。

いったんドアのそばに
センパイを降ろし、
左足を支えながら座席に座らせる。

タクシーの運転手さんも
心配そうにしていて

「何かお手伝いできることがあったら
遠慮なく言ってくださいよ」
と言ってくれた。

「はい。ありがとうございます。」
センパイも意地を張るのはやめたようだ。

途中センパイの頼みでコンビニに寄り
ペットボトルのお茶と
袋に入った氷を買ってくる。

氷を足首にのせ、お茶を飲むセンパイ。

センパイは隠したつもりだろうけど、
手の中に握りしめたものを
口に入れたのがわかった。

たぶん、痛み止めだ。
 
次の目的地までは30分ほどかかった。

今度は郷土資料館を訪ねて
話を聞くだけだから、
大仰な撮影道具は必要ない。

愛用の一眼レフを首にぶら下げ
三脚を入れたリュックを背負うと、
ボクは足を引きずりながら
少しずつ歩き出していたセンパイに駆け寄り

「すいません」と、
その腰に手をまわし支えた。

「?!....」

抵抗しようとするセンパイを
やんわりと目で制する。

センパイの足は
氷と痛み止めのおかげで
楽になったようだったが、
おとなしく体を預けてくれた。

ああ、いつものシャキシャキバリバリの
センパイもいいけど、
こんなセンパイもいい!

思わずニヤけそうになって、
慌てて真面目な顔を装った。

入り口の段差では、
手すりをつかんで左足を使わないように
飛び跳ねるように昇るのを支える。
受付のそばまで来た時、
ささやくようにセンパイが
「離して...」と言った。

恥ずかしそうに顔を赤らめている。

「あ、ああ..はい」

こっちもドキドキしてしまい、
二人してぎこちなく体を離した。

郷土資料館での取材は上の空だった。
さっきのセンパイの体の感触と
恥じらった表情が頭から離れない。

なんとか写真を撮ったものの、
たぶん気の入らないものに
なってしまっただろう。

でも、終わった途端ボクは
シャキっとして、
建物から出たところで、
すかさずまたセンパイの体を支えた。

我ながら現金なやつ。


invitation-2
午前中の取材が
なんとか無事に終わった。

あまり移動しなくてすむように、
次の取材先のテーマパークの中で
食事をとることにする。

当然のようにセンパイの体を支え、
食事処まで歩く。

座敷席をとってもらい、
上がり口に一旦センパイを座らせる。

左足を手に取り、
パンプスと足首に巻き付けた包帯を外す。

お店は平日だから空いていたが、
あちこちからの視線を感じる。

センパイは
恥ずかしそうにうつむいていたが、
包帯が緩んでくると、
ちょっと痛そうに吐息を吐いた。

ボクは包帯が1本外れた足首を優しく
さすり、「大丈夫ですか?」と聞く。

「ええ、大丈夫。
靴を脱がせてくれる?」

「はい..」

左手で足首を支え、
パンプスのかかとを外しにかかる。

足首に力がかかり、
センパイが両手と右足を踏ん張って
痛みに耐える。

「あっ...!
つっ..ったっっ!!!!
.....すうっー...
はああっっ......!!」

足が腫れているせいか、
パンプスがキツキツで
思った以上に力がかかってしまった。

痛そうに足をさするセンパイ。

ああ、抱きしめて慰めてあげたい。

もう片方のパンプスを脱がせ、
抱きかかえるように席に座らせる。

座布団を何枚か重ねてから左足をのせる。

パンツスーツの裾をまくり上げ、
足首にタクシーから持ってきた
氷の袋をのせる。

やっと見えたセンパイの足の指は
包帯をきつく巻いていたせいか
紫っぽい色になっていて、
やや腫れぼったい。

思わず手に取り
足の指をスリスリしてしまう。

「やめっ...あっ...!」

抵抗しようとして、
足の痛みにたじろぐセンパイ。

「血行が悪くなってますから。
マッサージしますね」

取ってつけたようにつぶやくボク。
周りの好奇の目が突き刺さるが、
もう気にならない。

センパイは恥ずかしさで
顔を真っ赤にし、痛みによる
喘ぎ声が漏れそうになるのを
必死にこらえている。

何分経ったのだろう...
ボク以外時間も音も止まったような
お店の中に、誰かの携帯の音が響いた。

全員がハッとしたように我に返り、
ボクもマッサージする手をようやく止めた。

「すいません....あ、あの...」

「...ありがとう。
そろそろ、なにか注文しなきゃ、
ね?」

すっと冷静さを取り戻した
センパイが微笑みながら言う。

「はい..」

あっという間にいつもの
おどおどしたボクに戻ってしまった。

時間の余裕があったので、
ゆっくりと食事をとり、
食後のコーヒーを追加注文してくつろぐ。

「ちょっと失礼」

センパイがハンドバックを手に取り
腰を浮かせた。

ボクが立ち上がろうとすると
「大丈夫。だいぶ痛みが引いたから」
座布団から左足を外し
テーブルに手をついて
立ち上がりながらセンパイが言った。

弱気モードのままだったボクは
とっさに動けなかった。

センパイは右足だけで跳ねながら
移動して上がり口に座り、
来客用のサンダルを履いた。

足を軽く引きずりながら
ゆっくりトイレに向かう。

ボクは、センパイの足首と、
包帯の巻かれていないかかとを
見つめ続けた。

心配なことも確かだが、
それより包帯の足を見たい、
足が痛そうに歩くセンパイを
ずっと見ていたい....。

サンダルを履いたセンパイが戻ってきた。

じっと見つめていたボクを軽く睨む。

ボクは慌てて目をそらした。

もう一度目を向けると、
センパイが上がり口に慎重に
腰をおろしたところだった。

「そろそろ出ましょうか?」

「は、はい。ちょっと待っててください」
慌てて食事代を払いに行き、
領収書をもらう。

席に戻るとセンパイは左足のパンプスを
入れようと苦心していた。

膝を痛そうに曲げ、
右手で足首を押さえながら
足を入れようとしているが、無理そうだ。

ボクが走りよると足首をさすりながら
「..ごめん。お願い」と言った。

膝をゆっくりまっすぐに直してあげる。

「ああ...」小さくセンパイが喘ぐ。

足首を手に取り、
パンプスを入れはじめる。
センパイは両手で足を支えるようにして
顔をしかめている。

「いっっ!....ああっっ!!!!」
懸命にこらえた小さな悲鳴が響く。
「はあっっ..!!はあっ....!
あっっ.......ああ....」
激痛に耐えるセンパイ。
肩を震わせて、目には涙がにじんでいる。

「センパイ.....あの、また、
包帯巻いた方がいいですよね?」

「う、うん.....お..願い..」
ボクはさっき巻き取ったまま
ポケットに入れていた包帯を取り出し、
再びパンプスの上から
足首をぐるぐる巻きにする。

センパイは両手で左足を抱えたまま
荒い息を吐いている。

「巻きました。センパイ...
歩けそうですか?」

「....」

センパイは無言のまま左手で膝を支え、
右手で足首を探るように触る。
少し足首を動かしてみて、
痛そうに顔をしかめた後バッグを引き寄せ、
包帯を取り出す。

「ごめん。もう1本巻いてくれる?」

ボクは言われるまま包帯を巻いた。
「どうですか?」
センパイはそっと立ち上がり
左足に体重をかけようとした。

「いっ!!.....
いったたた.....」
思わずまた座り込む。

「ごめん、もう1本お願い」

センパイ、
一体何本包帯持ってきてるんだろう?

痛み止めらしきものを出して
飲み下しているセンパイに
突っ込みたい気持ちを抑え、
また包帯を巻く。

足首とパンプスは包帯で何重にも
固定され、まるでパンプスのまま
ギプスをしているように見えた。

センパイの体を支えて店をでる。

センパイは左足のつま先を
ほんの少しだけつくようにして、
ボクにしがみついて歩く。

テーマパークのベンチに
センパイを座らせ、
足首に氷をのせてからタクシーに
機材を取りに走る。

急いでベンチに戻る帰り道、
ボクはベンチに足をのせ、
分厚い包帯の足をさすっている
センパイの姿に思わず立ち止まり、

....そして、
予備のデジカメを取り出して
シャッターを切った。

弱々しくはかなげに見える全身、
足首と手のアップ、
つらそうな憂い顔...。

気付かれないよう慌てて
デジカメをしまい、
周囲の目を気にして
キョロキョロあたりを見回した
ボクの目にあるものが映った。

「センパイ」

「...?!」

ボクは受付そばにあった(見逃してた)
サービスセンターで、
車いすを借りてきていた。

「さ、姫。どうぞ」おどけて手を取り、
車いすにセンパイをのせる。

左足を台にのせ、
だいぶ溶けてきた氷の袋をのせる。

荷物の一部をセンパイの太ももの上に
乗せてもらい、いざ出発。

テーマパークの取材はサクサク終わった。

もともと伝説が
現代にどう受け継がれているかの
参考程度に組み込んだだけだったし。
 
今日最後の取材。

今度はお寺だ。

センパイの足はだいぶ痛みが
落ち着いたようだが、
今度は写真がメインのため
センパイに手を貸す余裕がない。

念のため、
タクシーの運転手さんにも
そばについていてもらう。

運転手さんがセンパイを
抱きかかえたりする事態にならないよう、
いや、もとい何事もないよう祈る。

センパイに無理しないように言った後、
ポイントを探して一人歩き回る。

時々足を止めて振り返り
センパイの様子を確かめる。
センパイはそろそろと歩いては止まり、
また、少し歩く。

次に振り返ったときは門に寄りかかり、
目を閉じていた。
伝説の人物に思いを寄せているのだろう
その姿が、とても美しく、
ボクは思わずシャッターを切っていた。

後ろ髪をひかれつつ、奥へと進む。

本当は寺の裏の小山に
伝説にまつわる岩があるのだが、
ボクは必死にセンパイを説得して行くのを
断念させたのだ。
そのかわり、入魂の写真を撮らなければ。 

やっと納得のいくものが撮れたボクは、
急いで道を引き返した。

思ったより時間が経ってしまっている。
まさか転んだセンパイを運転手さんが..
ああ、
あの足に触ったりしたら許さないぞ!

勝手な想像をして憤ったり、
センパイのあの分厚い包帯をした足首、
パンストの下の包帯、
きれいな足の指が頭の中に
ぐるぐると浮かんだり、
わけのわからない気分のままボクは急いだ。

すぐにはセンパイたちの姿が
見つからず焦る。

ウロウロとたぶん無駄な動きをしていたら

「.....クン!!」
とボクの名を呼ぶ声が聞こえた。
ちょっと離れた本堂から
センパイが手を振っている。

笑顔のセンパイにほっとして、
大荷物を引きずりながら近づいた。
センパイは運転手さん、
そしてこの寺の和尚さんらしき老人と
楽しそうに話している。

「運転手さんと和尚さんは幼なじみで、
地元の昔話がたくさん聞けたの。
おかげでいい記事が書けそう」

センパイは嬉しそうにボクに言った。
何事もなかった
(この老人たちがセンパイに何もしなかった)
ことにホッとしたボクは、
安堵のため息をついた。

夕暮れが近づいていた。

ボクたちが和尚さんに
別れを告げようとすると、
一旦本堂の奥に入って行った和尚さんが
杖を持ってきてセンパイに渡してくれた。

お礼を言って寺を後にする。

杖をつきながらゆっくりと歩く
センパイのそばに運転手さんが寄り添う。
とっさにボクは
「これを先に車に運んでくれませんか?」と
大荷物を運転手さんに押し付けてしまった。

普段なら命より大切なカメラ道具を
人に預けたりしないが、
今はセンパイの方が大切だ。
こんな老人に(失礼!)
指一本触れさせてたまるか!

道のりは遠い。
足を休められたことと、
杖のおかげでセンパイは
少し楽そうに歩いているが、
大丈夫だろうか。

また、抱いていった方が
いいんじゃないだろうか。...
決心がつかず、迷いながらうつむき
加減に後をついていったら、
センパイが境内の途中で立ち止まった。

杖に体重をかけ、体を震わせている。

また、足が!?

ボクは急いで駆けつけた。

「センパイ!!」

「ああっ....!!」

センパイがボクの方に倒れ込んできた。
体をきつく抱きしめる。

「うっ....!くっっ...
はあっ!ああ!」

センパイはボクにしがみつき、
泣きだした。

なにがあったかわからないまま、
とにかく腰をおろせる場所に
センパイを運ぶ。

しばらくして、
センパイは涙で目を滲ませたまま
ボクに言った

「....ごめんなさい。
面倒ばかりかけて」

「気にしないでください。

それより、どうしました?」

「杖が滑って...
転びそうになってしまって...」

「またひねっちゃいました?」
「足首は体重がかかっちゃったから
かなり痛いけど、あれだけ固定してるから
大丈夫だと思う。
でも、今度は膝の方が...」

最初からこうすべきだったと
反省しながらセンパイを抱き上げ、
タクシーに運ぶ。

センパイはボクの服にしがみつき
痛みを堪えている。

なんとかホテルに到着。
荷物を先にロビーに運び込み、
ホテルの車いすを借りて車に戻る。

運転手さんに「また明日」と別れを告げ
ボクらはチェックインした。

予約はシングル2部屋だったけど、
ボクは勝手にツインの部屋に
変えてしまった。

部屋に入ったセンパイは、
不審そうにボクを見上げる。

「心配しないでください。
悪いことはしないと誓います」

「でも....」

「着替えのときとか
部屋の外に出ますし、
センパイのいやがることはしません。
信じてください。
センパイの足が心配なだけなんです」

言葉を並べ、なんとか了承してもらった。

すかさずベッドにセンパイを座らせ、
パンプスに巻き付けた大量の包帯を外す。

パンプスを脱がせる前に、
センパイの目を見る。

センパイは昼間の痛みを
思い出しているのか、
唇を噛み不安げな表情。

センパイの目が
「どうぞお願い」と言っている。
長引かせるよりは、と思い切って
パンプスを引き抜く。

「ああああっっっっ!!!!
................
ああっ.....はあっっ....」

ひときわ高い悲鳴の後、
呼吸が止まり、
そして切れ切れの喘ぎ声...。

呼吸が落ちつくのをじっと待ち、
「中の包帯も取ってみていいですか?」
と聞く。

涙を滲ませながらセンパイが顔を上げ
「..待って、その前に着替えるから」
バッグの方に手を伸ばそうとして
足に力がかかってしまったのか
「いっったっっ!!!」とうずくまる。

「大丈夫ですか?」肩を抱く。

センパイはボクの手をやんわりと押しのけ
「なんとか一人で着替えてみるから。
悪いけど氷をもらってきてくれる?」

うーん、まだまだガードは固い。

ボクはしおらしく
アイスバケットを持って部屋を出た。

ダッシュで氷とビニール袋をもらい、
部屋のドアに耳を寄せる。
「あっ!っっつ!...
いたっ!!..ああっ....
痛い!....いったあ..」

センパイの声がする。

ボクの前では抑えてる悶絶の声を
ドア越しに堪能する。
ああ背徳的な幸せ...。

その時、ひときわ高い悲鳴が聞こえた。
「ああああっっ!!!
いっ!!たっっっ!!」

ボクは我に返り、ドアをノックした。

「センパイ!どうかしましたか?
センパイ!!」

返事がない。

「センパイ!開けますよ!!」

カードキーを操作するのももどかしく
部屋に転がり込む。

白くふんわりしたワンピースに
着替えたセンパイが
ベッドの下に倒れている。

「センパイ!!」

足をおさえて悶絶している

センパイを抱き起こす。

「いたっっ!!っっつっ!!」

「ちょっとだけ我慢してください」

センパイを抱き上げてから
ベッドに横たえ、
枕を2つ重ねて左足をのせる。

「ああっっ....!!
痛っっっ...!」

氷を袋に入れて足首と膝にのせ、
ティッシュでセンパイの顔の涙と
汗を拭いてあげる。

どさくさにまぎれて、
柔らかな髪を優しく撫でながら
事情を聞く。

どうやらベッドに浅く腰掛け
パンストを脱ごうとした時、
バランスを崩し転んでしまったらしい。

「センパイ、足見せてもらいますよ」
痛みで動けない状態のセンパイに
有無を言わさず、
実務的な様子を装いながら
ボクはワンピースの裾をまくり上げる。

センパイの左足の包帯は
太ももの中程まで巻かれていて、
脱ごうとしていたパンストが
その少し下までおろされていた。

思わずゴクリとつばを飲み込むボク。
なんとか冷静さを装い、
パンストをさらにおろしていく。

まず、無事な方の右足。
すべすべした感触を味わいながら、
ゆっくりとパンストを滑らせる。

膝下まで下げたところで、
左足に手をかけ慎重にパンストを
滑らせる。
センパイがちょっと身をよじり
荒い息を吐く。
痛みのせい?それとも...?

両方とも膝下までおろした後、
右足の膝を曲げさせ
ふくらはぎのパンストを滑らせる。

華奢なくるぶしを手に取りながら、
かかと、足の甲、指先...
感触を惜しみながらパンストを抜き去る。

「はあっっっ....」

どちらともなく吐息が漏れる。

何呼吸かの後、
左足のパンストに手をかける。

ふくらはぎ部分をするすると下ろし
足首ちかくにさしかかると、
センパイが
「ああっ...」と声を上げる。

「痛みますか?」

「.....ええ、でも...大丈夫」

包帯の巻かれたふくらはぎを
左腕で抱えながら、
慎重に、
少しずつ足首のパンストを下ろす。

「っつっ...あっ..はっつっ..」

センパイの喘ぎ声が漏れだす。

「すいません。もう少しですから」

「うん、...大丈夫。
ああっっ..いたっ!!」
足首が動き、センパイが悲鳴をあげる。

「すいません」持ち上げていた足首を
優しく枕の上に置き、
氷の袋をそっとのせる。

「いった!.....ああっ !!
!...痛..い」
もうセンパイの声は鳴き声に近い。
 
「包帯も取ってみますね。
それとも、このまま病院に行きますか?」

「...病院には、行きたくない
...きみが手当して」
踊りだしたくなる気持ちを
グッと押さえつけ
「はい」と神妙に返事する。

太ももの包帯止めを外すと、
伸縮性の強いものだったらしく、
ハラリ、と包帯がほどけた。

包帯の巻き跡が
くっきりと残っている太ももを
見つめながら包帯を巻き取っていく。

1本目の包帯は膝頭のあたりで
終わった。

また包帯止めを外す。

2本目の包帯は足首の上あたりまで。

足を軽く持ち上げ、
包帯をくぐらせるたび、
センパイが喘ぎ声を漏らす。

包帯を巻き取るのを中断し、
膝の湿布を剥がし状態を調べる。

内出血と思われる変色部分を
指でそっと押す。

「痛みますか?」

「え、ええ...ちょっと」

顔をしかめて言う。

膝を曲げさせると
「痛い!...っつう....!!」
悲鳴をあげる。

ゆっくりと膝を支えながら
まっすぐに直し枕の上にのせる。

「すいません。...
じゃ、足首いきますね。
痛いだろうけど頑張ってください」

「...うん」

包帯止めを外した後
また左腕でセンパイの足を抱え、
ゆっくりと足首の包帯をほどいていく。

足首を動かさないよう、
包帯をたるませて足の周りを
巡らせるようにほどいていくが、
センパイの足首の痛みは
相当ひどいらしく、
食いしばった歯の間から
泣き声のような喘ぎ声が漏れる。

「あああっっ!!っつっ!痛っ!!
痛い!!!......!!!」

固定の外れた足首がぐらぐらと揺れ、
センパイの悲鳴が大きくなる。

枕の上に足を慎重に下ろし、
氷の袋を置く。
センパイは手で顔を覆って泣いている。

センパイが可哀想で、何もできない
自分をもどかしく思うのが半分。

こんなセンパイの姿が見れて
嬉しいのが半分。..

いや、後者の方が多いか。

もっと足を痛めつけて、
泣き叫ぶセンパイを見てみたい、
そんな自分の内心に気付きドキッとする。

身の置き所が無くなったボクは、
たどたどしい手つきで包帯を
クルクルと丸め、
必死に気を落ち着かせる。

「....ごめん」

囁くようなセンパイの声に我に返る。

「ごめんね。
みっともないとこ見せちゃった」

センパイがもう一度謝る。

「そ、そんな。ボクこそ
どうしたらいいかわからなくて
...すいません」

センパイが上半身を起こそうとして
「っっつ!!」と呻く。

思わずセンパイの体を抱き起こし、
支える。
センパイはグッタリと
ボクにもたれかかる。
ちょっと熱っぽく息が荒い。

「無理しないでください。
どうしたいんですか?」

「うん....ごめん。
バッグ取ってくれる?」

バッグをセンパイの手元に置き、
ついでにセンパイの背中に
折り畳んだ布団をあてがってあげる。

大きなバッグの中から、
けっこう大きな巾着袋のようなものを
取り出したセンパイは、
それをボクに渡し

「湿布とか入ってるから。
悪いけどお願い」

「了解です」

袋の中には大量の湿布と包帯。

おおっ。なぜか興奮。

足首の湿布を慎重に剥がす。

センパイは両手をベッドに突っ張り
痛みに耐えている。

湿布を剥がした足首は
どす黒い赤と紫そして
所々黄色っぽい内出血が広範囲に広がり、
足の甲から足首の上の方まで
腫れ上がっている。

その痛々しい状態に
ボクはちょっとビビる。

センパイは足首を見てため息をつく。

「ああ....ヤバい。
怪我した時よりひどいかも..
.....もう、君には言っちゃうね。
ほんとはまだ松葉杖使わなきゃ
ダメって言われてたんだ。
..ごめん。
歩けるようになったから
大丈夫だと思って...」

やっぱり、かなり無理してたんだ.。

「センパイ。
ほんとに病院行った方がいいですよ」

「うん。でも」

「なにか事情でも?」
「ううん....なにもないけど」

「素人目にみても、
この足はただ事じゃないですよ。
ね、行きましょう」

「....明日、仕事が終わったら
必ず行くから.....お願い。
迷惑ばっかりかけて悪いけど...」

「わかりました。
でも、これ以上ひどくなったら
速攻病院送りですからね」

「....ありがとう」
 
とりあえず、
足全体に湿布を貼りまくった。

次に.....なんとか足を
固定する方法を考えなければ..。

ホテルのフロントに行き、
段ボールをもらい、
カッターナイフとガムテープを借りる。

部屋に戻ると、
センパイは苦しげに目を閉じ、
じっと横たわっていた。

汗が滲む額に手を当てると、熱い。
さっきも熱っぽかったが、
熱が上がってきたようだ。

足を固定したら、
無理にでも何か食べてもらって
薬を飲ませなければ....。

段ボールをカッターナイフで
細長く切り分ける。
何枚もできたそれを重ね、
ガムテープで張り合わせる。

同じものをもう1本作り、
センパイの足の両側にあてがう。

まず、1本の包帯で
ふくらはぎから膝上あたりまで
軽く固定する。

センパイは痛みに抗う力もないらしく
弱々しく喘いでいる。

「足首を固定します。
ちょっと我慢してください」

「...はい」

くるぶしの辺りから包帯を巻き始める。
圧迫固定が必要なので、
伸縮性の強いタイプの包帯を使う。

段ボールが腫れた部分に当たり、
センパイが悲鳴を上げる。

足首に八の字を描くように、
何度も何度も包帯を巻く。

せっかくたくさん包帯があるので、
足首には計3本の包帯を巻いた。
次に膝下から膝部分、太ももまで。

やはり、何重にも包帯を巻き固定。

氷を足首と膝にのせ、
額にもタオルと氷をのせる。

氷をのせたり外したりしているうちに
1時間ほど経っただろうか。

ベッドに腰掛けていたボクの手を
センパイがそっと握った。

「センパイ...」

「ありがとう。すごく楽になった」
弱々しい微笑みが痛々しい。
「起こして」
「はい」
体を動かすと、
やっぱりセンパイは痛みを訴えた。

「はあっ..!!はああっ...!」
震える肩を抱き、支える。

「包..帯....巻くの..
なかなか上手じゃない...」

何を言うのかと思えば....。
強がって先輩ぶっているのが
たまらなくカワイイ。

その後、センパイは
ボクの言うことにおとなしく従い、
がんばって少し食事をとり
薬を飲んで眠った。

ボクは夜中まで、
酒をチビチビやりながら
スタンドの明かりで本を読み、
センパイの足の氷を取り替え続けた。

もちろん...
センパイの寝顔と足の写真は、
こっそり撮りまくってしまった。


invitation-3

翌朝

「あっ、痛っ!」
というセンパイの声に目が覚めた。

ガバっと起きて隣のベッドを見ると、
センパイが苦労しながら体を起こし、
枕にのせた左足を下ろそうと
するところだった。

急いで走り寄り手を貸す。

「あ、おはよう。ごめんね。
起こしちゃった?」

「おはようございます。
って、大丈夫ですか?」

「うん。おかげさまで。
かなり良くなった。ありがとう」

そのままベッドから降りようとして
「いたたたた...」と顔をしかめる。

「もう、無理しないって約束でしょう。
ボクに何でもご用命ください。姫」

「うん...あのね、
バスルームに連れて行って欲しいの」

恥ずかしそうにセンパイが言う。
抱きかかえながらベッドからおろし、
左足を使わないように支えながら誘導し、
洗面台につかまらせる。

センパイの要望でバッグを取りに戻ると、
センパイはユニットバスの縁に座っていた。

「シャワー浴びたいんだけど、
この包帯どうしよう?」

足の固定を外すのは不安だったため、
ゴミ袋をかぶせて輪ゴムでとめる。

「気をつけてくださいね。
何かあったら大声でよんでください」

「わかった」

何かあったら大変だから、
と自分を正当化し、
バスルームのドアに耳をつけて
様子をうかがう。

センパイは服を脱いでるらしく、
かすかな物音と、時々
「あっっっ!!」「いたっ!!」
という声が聞こえる。

そのうち、
シャワーを出す音が聞こえてきた。

飛び跳ねてるらしい
キュッキュッという足音。

シャンプーらしい良い香り。
....うっとりしていたら
シャワーの音が止み、
トン、トンと足音がした後、

ガタガタッという大きな音と
「きゃあ!!」悲鳴が聞こえた。一

瞬ドアを開けそうになって、
思いとどまり
「センパイ?大丈夫ですか?」
と声をかける。

「.....大丈夫。ごめん。
ちょっと転びそうになって」

「足は?」

「...大丈夫。大丈夫だから」

ほんとかなあ...

しばらくドライヤーの音やカチャカチャ、
ガサガサという音がした後、
突然ドアの取っ手が動いた。

ボクは慌てて飛び退くが、
間に合わず、ドアを開けた
センパイと目が合ってしまった。

「あ、あの、遅いから大丈夫かな?
と思って.....」

センパイは、何も言わず、
ふっと笑ってドアの取っ手をつかみ、
右足だけで跳ねてバスルームから出てきた。

昨夜とは違う黒のワンピースを着ている。
丈はかなり長いが、
包帯が厚く巻かれた足首部分は見えている。

左足をつこうとして
「痛っ!!!」と身をすくめる。

ボクはセンパイを抱きかかえ、
ベッドにのせた。

「ああ....痛い。
..ダメかなあ...」
足をさすり、ため息をつく。

「あんなに腫れてるんですから。
無理ですよ」
「........」

「とにかく、湿布を替えましょう」
包帯をほどき、湿布を剥がす。

センパイの足は
昨夜ほどの激痛はないようだが、
固定が外れるとやはり痛むらしく、
肩で息をして喘いでいる。

足首をつかむと、
「いっっっ!!!」と声を上げ
ビクンと体を震わせた。

足首の腫れは昨夜よりは
引いているものの、内出血の範囲が
広がっているような気がする。

「これは靴を履くのは無理ですね」

「なんとか入らない?」

「なに言ってるんですか?」

「靴を入れて昨日みたいに
固定してほしいの」
センパイは大真面目に言う。

無茶だ。そう思いつつ、
ボクもパンプスに巻き付けられた
包帯が忘れられず、もう一度見たい
気持ちを抑えきれずにいた。

ゴクリと息をのみ、
なけなしの理性をかき集めて言う

「やめた方がいいです」
「....お願い」

ああもうだめだ。
じっとボクの目を見る
センパイのまなざしに理性が吹き飛ぶ。

「.....わかりました。
でも、なにかあったら救急車ですからね」
「...わかってる」

湿布をありったけ貼り、
左足全体に伸縮包帯をしっかり巻き付ける。

パンプスが履けるよう、
足の甲の包帯は最低限にしておく。

滑りを良くするためにも
パンストは必要なので
「失礼します」と言いながら、
足に履かせていく。

センパイは恥ずかしそうに
しつつも抵抗しなかった。
ワンピースのスカートに隠れている
腰の部分に手探りで履かせる。
センパイは少し腰を浮かせ、
喘ぎ声を漏らした。

ついにパンプスの番だ。

「いいですか?」
目で尋ねる。
センパイは潤んだ目のまま
黙ってうなずく。

パンプスを足に入れる。

「あああっ!!!
いっっっっっっっっっ!!!!!!」

大きな悲鳴をあげるセンパイ。

今度はためらわず肩を抱き、
背中を優しくさする。

「あっ....!っっっつっ...
...!いっ..!痛い....!
痛いよお....!!」

もう意地を張らず、ボクにしがみつき
こどものように泣きじゃくるセンパイ。

ボクはセンパイの髪や背中を
ヨシヨシしながら、
横目でパンプスを履いた足を見る。

ああ、この状態もいいなあ.....。

センパイがようやく泣き止み、
潤んだ目でボクを見上げた。

身を引き裂かれるような思いで
センパイの体から手を離す。
センパイはシーツを握りしめて
痛みに耐えている。

「行きますね」

「はい」

まず、昨夜と同じように
足の両側に段ボールの添え木を当て
足全体に伸縮包帯で固定する。

今度は伸縮性のない包帯を取り、
パンプスの甲の部分に数回巻く。

それから足首に八の字を描くように
交差させながら包帯をきつく巻き付ける。
パンプスのつま先とかかとだけを残し、
ありったけの包帯を足に巻く。

段ボールの添え木の厚みもあるので、
センパイの左足はほとんど
ギプスしているような状態になった。
 
痛み止めの薬を飲んだセンパイが
少し落ち着いてから、部屋を出る。
念のため、
氷を入れた袋も何個か持ち出す。

昨日と同じタクシーの運転手さんが
待っていた。
センパイを後部座席にのせ、
車いすをフロントに返却し、出発。

今日の取材は順調にいけば
午前中2カ所で終了する予定だ。

最初の場所は幸いそばまで
車で行くことができ、
ボクだけが外に出て写真を撮った。

難関は最後の場所。

砂浜の海岸を歩かなければならない。

ここは伝説の人物が死んだと
伝えられる場所で、
どうしても欠かすことができない。

運転手さんが気を利かせて、
ボクの荷物を持って付いてきて
くれようとしたが、
センパイがきっぱりと
「私、自分の足で歩いて行きたいんです」
と言う。

決意の固いのを悟り
「何かあったら携帯で連絡してください」
と運転手さんが引き下がる。
 
センパイは杖をつき、
足を引きずり歩き出す。

ガチガチに固定したのが
効いているのか、
意外とスムーズに歩けている。

でも、やっぱり砂浜は歩きづらく、
ボクでさえ油断すると
足をとられるくらいだから、
次第にセンパイの足取りは鈍くなる。

杖にすがり、歯を食いしばり、
1歩ごとに喘ぎ声を上げて
歩く姿にいたたまれなくなる。

「センパイ、ちょっと休みましょう」

声をかけ、荷物を置いて
センパイの体を抱きとめる。

「ああっっっっ......
はあっっっ.....!!」

左足を押さえて悶絶するセンパイ。

「大...丈夫....
まだ....歩..けるから....」
立ち止まったら終わりとばかりに、
また歩き出す。

数歩ごとに立ち止まって、
体を震わせて痛みに悶え、
それでも歩くのをあきらめようとしない。

砂浜が途切れ、
草地にポツンと祠が建っている箇所で、
ついにセンパイが崩れ落ちた。

「あっっっっ!!っっっっつ!!
くっっ!!!!.......
はあっっっ!!はあっっ!!
.....痛っっ.....!!!!」

脂汗が浮かんだ顔は蒼白だ。

ボクは持ってきた氷の袋を足にのせ、
センパイの上半身を抱きかかえる。

波の音と
センパイの荒い呼吸だけが聞こえる。

ボクは目を閉じ、
センパイをきつく抱きしめた。

ふいにセンパイが口を開く

「ここで.......
死んだ..のね」
それは問いかけではなく、
誰かに語りかけるような口調だった。

「ああ...見えるわ。
...あなたの...最後の苦しみが.
.....わかる」

ボクはゾクッとした。

そう言えば、
伝説の人物は足に深手を負って、
敵から逃げる途中のこの場所で
息を引き取ったんじゃなかったか...。

センパイの状況との符合に
恐怖心がこみ上げ、
さらにきつくセンパイを抱きしめる。

「大丈夫....私は....
どこにも行かないから...
離して...苦しい」

おそるおそる
センパイを抱く手を緩める。

センパイは力なく微笑み、
バッグの中のノートとペンを
取ってくれるよう頼む。

それらを手にした途端、

センパイは足の痛みも忘れたように
すごい勢いで書き始める。

出た!伝説の「お筆先状態」

こうなったら、書き終わるまで
そっとしておくしかない。

ボクはセンパイから離れ、
写真を撮りだした。

センパイのいる反対側から
祠を撮影した時、
伝説の人物の姿が
ボクにも見えたような気がした....。

もうこれ以上の写真は不要と判断し
センパイの様子をじっと見守る。

しばらくして、
センパイの手が止まり、
ペンをポロリと落としたと思うと
砂が崩れるように倒れ込んでしまった。

慌てて走りよると、
センパイは失神していた。 

運転手さんを携帯で呼び、
血の気のないセンパイの体をさする。

「はあっ.....」

弱々しい声が漏れ、
センパイが薄目を開ける。

次の瞬間

「痛いっっっ!!あっっっ!!!!!
ああっっっ!!!!!!!!」

激痛に苦しみだす。
運転手さんが到着するまで、
ボクはセンパイの手を握って
あげることぐらいしかできなかった。
 
駆け込んだ病院で、
ボクたちは「何を考えてるんだ!」と
散々叱られた。

センパイの足の炎症はあまりにもひどく、
きちんとした検査はできなかった。

左足全体をシーネという板で固定され、
絶対に足をつかないように
何度も念押しされたあと、
無理矢理松葉杖を渡される。

「ウチにもあるんだけどなあ...」

鎮痛剤を打ってもらい、
ちょっと元気をとりもどした
センパイがつぶやく。

「いらなくなったら、
ネットオークションで売れば
いいじゃないですか」

「あはは、それいいかも」

大きな荷物は宅配便で送り、
松葉杖のセンパイを支えながら
なんとか東京まで戻った。

新幹線での移動はやっぱり負担が大きく
痛み止めの効果も切れて
激痛が戻ってきていた。

新幹線を降りてからは、
センパイを抱き上げて運んだ。

センパイは松葉杖を持ち、
恥ずかしさと痛みから
ボクの胸に顔を埋めている。

周りの人たちの視線が、
ボクにはかえって心地よかった。

東京駅には、
センパイの友達というハデな女の人が、
リムジンらしきすごい車で
迎えに来ていた。

残念だけど、ボクの至福の時間は
これで終了ってことだ。

「さ、行きましょうか?
ご苦労だったわね、ボク」

ハデな女に子供扱いされて
ムッとしていると、
車に乗せられた先輩が手招きした。

「いろいろありがとう。
歩けるようになったら連絡する。
お礼にどこか一緒に行ってくれる?」

もちろん!!

コクコクとうなずくボク。

最後にセンパイが、
耳に顔を寄せて囁く。

「今度はハイヒールに
包帯巻いてもらうわ。楽しみね」

唖然と立ち尽くすボクに、
妖艶な微笑みを残して
センパイは去って行った。
 
....これが、ボクの
重症フェチライフのはじまりだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?